16話 私は今ご飯を食べます2

 小夜世 黒さよせ くろは改めて運ばれてきた自分の料理であるマルヴァンヌを見つめていた。


 「この世界の完熟したトマトって緑色なの?」


 「そうじゃの」


 「です」


 「へぇ~」


 もう一度マルヴァンヌへと視線を戻す。そこには、真緑の料理がある。一応上に黄色いものが乗っているので恐らくこれが怪鳥の卵だろう。卵の色は普通でよかったかと思ったが、逆に今は緑に映えすぎてよりすごい料理にしていた。


 (ま、まぁバジルのパスタとかもあるし、大丈夫だよね...)


 ちなみに、マルヴァンヌはバジルのパスタで見られるようなただの緑ではなく、緑なのだ。簡単にいうと、めっちゃ緑なのだ。


 「おまたせ致しました。ムーポの丸焼きでございます」


 黒が食べるのを戸惑っていると、シュテンの料理が運ばれてくる。


 「うわーでっかいね」


 「テンはこう見えて食べる量が凄いからの」


 「鬼はお腹が空きやすいんだよぉ」


 運ばれてきたムーポの丸焼きは見た目で言うと、豚の丸焼きそのものだった。豚1頭を頭から尻尾までそのまま焼いてある。テーブルには乗らないので、隣にぶら下げられておいてある。


 「2人も食べる?」


 「じゃあもらおうかな」


 「ワシも少しもらおうかの。ワシの野菜も食べたかったら食べてよいぞ」


 「ありがとー」


 そう言いながら、お互いの料理を少しずつ分けて食べ合う。


 (見た目豚だと思ってたけど、やっぱり味は豚だぁ。でもちょっとさっぱりしてるかもしれないなぁ筋肉質なのかな)


 ムーポの丸焼きを食べながら黒は元の世界で食べた料理を元に、似た味を探っていく。


 「おいしいねこれ」


 「ですよね!私の大好物です」


 「テンは昔からそれじゃからの」


 「そうなんだー」


 貰ったムーポの丸焼きを食べ終えた黒はとうとう自分の料理に目を戻す。


 (いくか...)


 意を決して食べてみる。


 (!、おいしい..!)


 見た目からは想像出来なかったが、食感はクリームパスタに近いか。味は黒が知っているトマトとは全く違うものだった。酸味を少し感じるが、まろやかで舌触りのいい味だ。元の世界で食べたどれとも当てはまらない、新しい味だった。


 「これもおいしいね」


 「トマトはダンジョン産の食べ物じゃからな。結構変わった味じゃから好き嫌いが分かれたりするんじゃが、口にあってよかったの」


 「ダンジョンから食べ物ってやっぱりとれるんだ」


 「そうじゃの。ちなみに魔物にも食べられるやつがおるぞ」


 「え?魔物って死んだら魔魂になっちゃうんじゃないの?」


 「魔物が生きている時に肉を剥いじゃえば魔魂にはならないんだよ。剥いだ分魔魂はちっちゃくなっちゃうけど」


 「結構えぐいんだね...」


 「まぁ、そうかもしれん」


 「じゃあもしかしてこの怪鳥の卵の怪鳥って」


 「そやつは魔物じゃないの」


 「あっそうなんだ...」


 絶対に怪鳥は魔物かと思ったが違ったらしい。ちなみに怪鳥の卵はかなり美味しかった。味はそのまま卵であったが、これまで食べたどの卵よりも美味しかった。


 


 ◯●◯●

 

 

 「強欲がやられたと聞いたが」


 「たしかよ、ほら、頭」


 「.....」


 「鬼の返り討ちに合ったということか?」


 「違うでしょうね。札も減っていたし、あいつのスキルで少なくとも1匹は捕らえていたと考えられる。複数いたみたいね」


 「協力者か」


 「えぇ、戦闘痕から見て人間の可能性が高いわね」


 「鬼に人間だと?」


 「あくまで可能性よ」

 

 「....他の者は何をしている」


 「興味ないですって」


 「っち、王はなんといっている」


 「なんとも」


 「....俺は持ち場に戻る。なにかあったらすぐに知らせろ」


 「別に私、あなたの部下じゃないんだけど?」


 「....」


 「....」


 男は女を睨みつけたあと、背を向けその場から去っていく。


 「まったく、怒りっぽくて嫌になっちゃうわねほんと」


 その場に取り残された女の姿も闇に溶け込んでいく。


 「でも、これから楽しくなりそうでなによりだわ」


 その言葉を最後に、その場には誰もいなくなった。

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