9話 私は今冒険者ギルドに向かいます
「ん...」
黒は体を起こす。だらだらしている時間がもったいない。やらなければならないことはたくさんある。とにかく動かねば。
下に降りると、アヤとマヤがマレザの手伝いをしていた。
「あ、クロさん!おはようございます!」
「おはよぉ!えっと...クロおねぇちゃん!」
2人は黒の姿を確認すると元気よく挨拶する。アヤも十全とは言えなさそうだが、元気になっているようだ。マヤに関しては、目を覚ました後、対面するのは初めてである。とても元気な子だ。あの事件を引きずっていないようで安心した。
「おはよう、アヤちゃん、マヤちゃん」
「マヤちゃんは初めましてだよね、よろしくね」
「うん!あとあと、助けてくれてありがとね!」
「どういたしまして」
マヤは満面の笑顔で御礼を言ってくる。ついつい顔がつられてニヤけてしまう。やはり子供は真っすぐでかわいい。決してロリコンではないので勘違いはしないで欲しい。
「あら、おはようクロちゃん。よく眠れた?」
「おはようございます、マレザさん。おかげさまで。有難うございます」
本当のところは、昨日の出来事が夢でぐるぐる回ってフラッシュバックしていて、ちょっと疲れていたりする。それほど強烈な体験だった。
「いいのよ、これでも足りないぐらいなんだから。ナルタにいる間はゆっくりしていって」
「ささ、今日の朝ご飯よ」
「わーいごはんだー!!」
「マヤ、はしゃいじゃだめだよー。こぼすよー」
アヤとマヤは本当に仲のいい姉妹のようで、アヤは11歳、マヤは7歳らしい。マヤは歳相応だが、アヤに関しては少し驚いた。すごくしっかりしていたので、もう少し歳が上かと思っていた。姉であるという意識がそうさせているのだろうか。いずれにしても、見ていて微笑ましい。
メニューは昨日食べたのと同じ種類のパンに、ジャムのようなものだった。聞いたところ、木の実を潰して作ったものらしい。甘味よりも酸味が強い。これはこれでおいしい。
みた感じだが、この宿は賑わっているとは言い難い。実は私以外には宿泊者はいないとのことだった。父親の稼ぎがどれほどなのか分からないが、こんな状況なのにご飯までご馳走してもらうのは少し気が引けたが、黒はお金を持っていないので背に腹は代えられない。有り難く頂いた。
4人で食事を済ませると、黒は立ち上がる。
「クロさん、今日はどこか行かれるんですか?」
「うん、冒険者ギルドに行ってみようと思って」
マレザに少し聞いたところ、やはりこの世界には冒険者ギルドがあるらしい。そこで冒険者の証である印を刻印してくれるらしい。紙とかではないようだ。その他にも魔法やスキルに関する質問に答える窓口なんかもあるそうで、情報収集にはもってこいな場所だった。
「場所は分かりますか?」
「大丈夫だよ、マレザさんに聞いたから。ありがとね」
本当に気が利く子だなぁと感動しながら、宿を出る。
◯●◯●
この街は円形状になっていて、入ってきたところが南門らしい。宿は大通りからは外れた場所の西南側にある。ギルドは街の中心にあるらしい。
少し歩いて大通りにでる。
「うっぷ....」
やはりそれなりに人がいる。人の感覚や性格を感じ取ってしまうこの能力については何も解決していないため、膨大な情報量が黒に流れ込んでくる。少し慣れたとはいえ、結構気持ち悪くなる。はやく何とかしたい...
黒は吐き気を抑えながら冒険者ギルドを目指して歩く。すると、一際大きな建物が見えてきた。剣を握っているマークが建物の正面に描かれている。どうやらあれが、冒険者ギルドのシンボルマークのようだ。
黒は扉を押して中に入る。中は結構綺麗になっていて人がちらほらと見受けられる。黒が想像していたのは、酒を飲みかわす冒険者たちがわちゃわちゃしている様子だった。ちょっと拍子抜けした。
黒はまず質問窓口に向かう。分かりやすく上に表記があったので助かった。
「あの...」
「あっすいません。どうされま...っうわ!...だ、大丈夫ですか?顔色が凄く悪いようですが...」
女性職員は手元の資料を整理していたらしく、初めはこちらに気づいていなかったが声を掛けるとこちらを向いた。
瞬間、幽霊でもみたかのような反応をされた。そんなに気分の悪さが顔にでていただろうか。どうりで、大通りを歩いているとき、こっちを見た人からは恐怖や驚きの感情が感じとれた訳だ。申し訳ないことをしたなと思った。
「いや、大丈夫です。気にしないでください」
「は、はぁ...」
「それよりも共感覚というスキルについて聞きたいんですが」
「共感覚ですか。少々お待ちくださいね」
職員がファイルをめくる。そういえば、職員たちの部屋の中を覗いた感じパソコンのような機械類は見当たらない。街中でも歩きスマホとかしてる人がいなかったし、そのようなものはこの世界にはないのかもしれない。
しかし、紙はあるようなので印刷技術などはあるのだろう。それに付随する技術も。この世界の技術レベルを知ることも重要だ。
「ありましたよ。えぇと、共感覚のスキルでこれまで確認されているランクはCまでです。効果としては第六感の強化とありますね」
なるほど、第六感の強化。直感とも言い換えられるだろう。
「えっと、それって意識して発動させなくしたり出来るんでしょうか」
「えぇと、共感覚は意識型スキルのようなので可能ですね」
「?」
「あ、えっともしかしてスキルの種類についてご存じありませんか?」
「すいません...」
知らないことは知らないとはっきり言った方がいい。知ったかぶりをしたら後で痛い目を見る。黒の経験則である。
「スキルには自動型と意識型がありまして、自動型はスキルが発現してしまった瞬間、自動的に発動します。使うタイミングに自由がありません。反対に意識型は意識できる範囲であれば自由にオンオフやランクの範囲内で強弱を変えられます」
「なるほど...あの、他にもいろいろお聞きしたいんですが大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。この街には冒険者が少ないので暇してたんです」
ニコっと微笑みながら快諾してくれる。本心から言っていると分かる。暇なのはいいことだと思いながら色々と聞かせてもらった。
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