8話 私は今初めて街に入ります

 小夜世 黒さよせ くろは男達を消したあと、女の子の元に戻った。焼き消す方法を選んだのは、自分の手で殴り飛ばすのは想像以上に気持ち悪かったことや血みどろの現場を見せないようにするためであった。


 女の子は気を失っている妹を心配そうに抱きかかえていた。近づく黒に気づいた彼女は、少し警戒した様子でこちらを見てくる。先ほどのようなことの後なのでしょうがないだろう。


 「大丈夫だった...?」


 「...はい、有難うございました」


 そういえばいろいろあったせいで意識していなかったが、会話は通じるようだ。日本語がこの世界の共通語だとは思えないので、この点についても暇があれば調べてみようと思った。


 「気にしないで、えぇと...」


 「私はアヤって言います。こっちは妹のマヤです」


 「私は黒」


 「クロさん...改めまして、先ほどは助けて頂き本当にありがとうございました」

 

 アヤと名乗った子の歳はおよそ14だろうか。しっかりとした子だ。私の妹は今11歳だが、こうもしっかりと育つイメージは湧かない。本人に言ったらいじけてしまうだろうか。

 妹のことを思い出して、少し心が沈む。


 「2人でここまで?」


 この世界の常識は知らないが、まだ幼い女の子2人だけでこんな森の中に来るのは危険だろう。


 「はい。今日は山菜を取りに来たんです。私の家は宿屋をやってまして、その手伝いになればって...」


 「なるほど」


 勝手にあれこれ言うのもウザがられるだけだろうと黒は何も聞かないことにした。必要のないことは聞かないのが黒の生き方である。


 「家があるのはこの先の街でいいのかな?」


 「はい、ナルタっていう街です」


 「えと...クロさんは冒険者なんですか?」


 「あー...えっと、まぁそんなところかな?」


 やはり冒険者という職業はあるらしい。異世界でダンジョンと言えば、やはり冒険者だろう。この力を活かすためにも冒険者になるのがいいかもしれない。天界に行ってアリシアに会いたいという考えも一応あることだし。


 「私もナルタへ行くから一緒に戻ろうか。マヤちゃんは私がおぶっていくよ」


 「ありがとうございます...何からなにまで...」


 「いいのいいの、いこ?」


 

 ◯●◯●



 それから20分ほど歩いてナルタに着く。

 門衛などがいて、入場時に調べられるものだとばかり思っていたが、特にそういうことはなく出入り自由であった。

 

 身分を証明するものが何もない黒はホッと胸を撫で下ろした。


 街の中に入る。今入ってきた道が大通りとなっており、それなりに人が歩いている。目に入る建物は木造のものばかりだ。アニメでよく見た風景だ。ちょっとテンションが上がってくる。しかし、それと同時に危惧していたことが起きる。

 

 「っ...」


 眩暈がして少しふらつく。先ほどもそうだったが、今の黒は許容以上に人の感情や性格を感じ取ってしまう。人が多ければ多いほど情報量は増えるので、結構つらい。どうにかしなければいけない。


 「あの...大丈夫ですか?すいません、頼ってばかりで...」


 「大丈夫だよ、ありがとう」


 あんなことがあったのだから仕方ないが、ずっと元気がない。自分の妹とかなら抱き着いてあげたりするのだろうが、他人の子となると躊躇してしまう。情けないと思いながら、アヤの家へ向かう。


 それからまた少し歩き、目的地にたどり着く。その間、周りを見ておきたかった黒だったが、グロッキーな体調を抑えるので手一杯だった。


 「ただいま...」


 怒られると思っているのか、恐る恐るアヤは扉を開ける。


 すると、1人の人物が駆け寄ってきて、アヤを抱きしめる。


 「アヤ!!!」


 これまで我慢していたのだろう、アヤは母親の胸の中で、ごめんなさいと繰り返しながら泣いていた。

 その光景をみた黒はまたもや残してきた家族を想う。自分は想像以上に寂しがりな性格だったらしい。


 それから、マヤを寝かせアヤが落ち着いた後、2人の母親であるマレザに経緯を説明した。感謝の御礼にと街を出ていくまで宿屋の1室を貸して貰えることになり、食事まで用意して貰えた。

 旅の要となる宿泊先を確保できたのは幸運だった。食事はバターロールのような形状のパンとマヨネーズがないポテトサラダ的なものだった。決して美味しいとは言えないものの、空腹というスパイスを持っていた黒は1瞬で完食したのだった。


 そして、今は部屋のベットで仰向きに倒れていた。


 「疲れた...」


 久々に長距離歩いたこともあるが、初めての経験の連続だった。ここまで密度の濃い1日はなかなかないだろう。


 それに、人を殺してしまった。あの状況で逃がしてしまえば、後々襲われる心配もあった。最善だったと思いたいが、落ち着いて考える時間が出来た今、罪悪感が黒の心を蝕む。思っていたよりも心に傷を負っていたらしい。


 負のスパイラルに落ち入りそうな頭を振り、ステータスを確認してみる。もう慣れたものだ。


小夜世 黒さよせ くろ Lv.21

━━━━━━━━━━━━━━

筋力:82

魔力:132

魔量:1320

精神力:12

物理耐久力:82

魔力耐久力:132

俊敏力:82

━━━━━━━━━━━━━━

スキル:共感覚A 天使の加護-

特殊パラメータ:黒力56


 結構魔物を倒したと思ったが、レベルが上がっていなかった。やはりドラゴンは別格だということだろうか。それよりも、レベルアップでは変化がなかった、黒力が上がっていた。6で思い当たるのが、今日殺してしまった人の数だ。関連しているとは思いたくないが、楽観的すぎるのも良くない。人の死が関係しているのであれば、黒力を用いる黒化は思ったよりも危険な力である可能性があると、認識を改めた。


 精神力に関しては、現時点での心持ちが反映されるのだろう。これは別に気にしなくてもいい。


 それよりも、今黒を苦しめている能力だ。これに関しては、スキルの『共感覚』が怪しいというのは分かる。だが、それだけでどうしたらいいのか分からない。これに関しては情報を集めてみるしかなさそうだ。



 黒はその他にも色々と考え事をしていたが、疲れからか気づいたら眠りに落ちていた。

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