19話 私は今野良ダンジョンに向かいます
「お疲れ様じゃ」
「お疲れ!」
シュテンが酔ってしまうこともあり、2人には外で待っていてもらったのだ。シュテンは最初疑問顔であったが、大勢で行くことでもないからとレェーヴが説得していた。
「おまたせー。みてみて、魔法の使える色が分かる魔道具」
「なんじゃ、売っておったのか」
「うん、結構安かったから。レェーヴちゃんのもあるよ」
「ありがとの。経験的に使えないと思っとるだけで、もしかしたら使える色があるかもしれんしの」
「私にはなにもないんですか?」
シュテンがずるいと言わんばかりに、こちらを見てくる。
「シュテンちゃんには戦闘にも耐えられる服を買ってあげよっかなって」
今は黒が予備に買っておいた服をシュテンが着ている。出会った頃はボロボロの布きれみたいな服しか着ておらず、ほぼ裸だったのだ。
本人は別に気にしないと言っていたが、最近2人の前ではゆるゆるな黒がその姿を見て暴走するので、服を着ることが決まった。
「ありがとー!」
「いえいえ~」
「顔の筋肉が溶けておるぞ」
「そんなことないよ」
「ではワシはクロに鏡を買ってやろうかの」
いつもの会話を繰り広げながら、3人は商品街を目指すのだった。
◯●◯●
「よし!準備万端!」
黒達はそれぞれの必要なものを買い終え、今はイルミールの北門の前に立っている。
「やっぱり戦闘向きってだけあって動きやすいね、この服」
シュテンはそういいながら、反復横跳びのような動作をする。
「似合ってるよシュテンちゃん」
「ありがとー」
シュテンの新しい服はというと、上は肩とお腹が露出しているタイプの服の上に上着を羽織っていて、下はホットパンツのようなものだ。可動域が広いし丈夫だと店員に勧められそのまま購入した組み合わせだった。
「なんかこう見ると服装チグハグだよね私たち」
純白のワンピースに巫女服、そしてシュテンの服装だ。元の世界であれば目を引いて止まなかっただろう。
「こんなもんじゃろ、周りを見ても結構色々なものがおったぞ」
「うんうん」
「そっかー」
やはり色々な種族がいるというだけあって、服装も様々だった。民族衣装のようなものを着ているものも多く見られた。ちなみに、街中でエルフを見かけてテンションが爆上がりし、いきなり話しかけようとしたのを2人に止められたこともあった。
「それじゃ行こっか」
「そういえばどこにいくんじゃ?」
「ここから北に20分ぐらい歩いたところにある野良ダンジョンなんだけど、結構広くてレベルも20~30が適正なんだって」
「名無しの野良ダンジョンのようじゃの。ならば練習にはうってつけじゃな」
「名無し?」
「知らんかったか。歩きながら話そう。そうじゃな、野良ダンジョンにも名前がついているものがあっての、そこは層ダンジョン並みに広いし、魔物も強いのじゃ」
「そんなとこもあるんだー」
「まぁこのパーティーじゃったら十分挑めるじゃろうから、戦闘方針を決めたら向かってみるのもいいかもしれんの。今回で結構お金使ってしもうたじゃろ」
「そうだね、ちょっと心元ないかな」
「そういえばクロはよくそんなにお金持ってるね?いっぱいダンジョンに行った風でもないし」
「ダンジョンはレェーヴちゃんがいたところが初めてだよ」
「じゃあどうしたんじゃ?」
「ドラゴンの魔魂を売ったの」
「....ん?」
「...え?」
「?」
「今ドラゴンと言いおったか?」
「うん」
「クロが倒したのか?」
「うん」
「1人で?」
「うん」
「規格外じゃとは思っとったがここまでとはの...もしかして話とった最初に出会った強い魔物ってドラゴンのことか?」
「そうだよ」
「実はまだちょっとレーちゃんから聞いた話とか半信半疑だったけど...それがほんとだとしたらやばいね...」
「ドラゴンってやっぱり凄いんだ?」
「そりゃのぅ。下手したら国が滅びかねん魔物じゃ。それにしてもドラゴンなぞそうそう出会う魔物ではないが、聞いた話じゃと普通に森の中におったんじゃろ?」
「うん」
「それもおかしな話じゃの...」
「そういえば魔物ってダンジョンから外に出てくるって聞いたけど」
「そうじゃな。じゃがドラゴンは天災級と呼ばれているだけあっての、シュテンのような生まれ方をする妖怪のように自然発生するんじゃ。ダンジョンの中ではなく、外でな。じゃからどこの国も警戒はしておるはずじゃから、そんな野良で出歩いているドラゴンは珍しいのぅ。ワシだって見たことは数度しかない。その時は総勢200は超える国の兵士と冒険者の混合編成のパーティーで討伐しておったの」
「やっぱりドラゴンって強いんだね...」
「クロがいうとなんかあれじゃけどの...」
「ね...」
「あ、見えてきたよ!」
色々と話し込みながら歩いていると、目的地の野良ダンジョンが見えてくる。話に聞いていた通り冒険者ギルドの看板が立っている。
「なんか渦巻いてるね」
以前アリシアのメイドと名乗るメイドが帰り際に使ったものに似ている。
「入口をそのままにしておくと魔物が出てきてしまうからの、魔法で冒険者などしか通れなくしておるんじゃろ。一般人が入り込んでも困るからの」
「なるほどー」
「ワシもこれについては詳しくは知らんから多分じゃがの」
「取りあえず入ってみよっか」
「そうじゃの」
「うん」
そう言って、3人は渦の中に足を踏み入れる。こうして、黒の人生2回目のダンジョン探索兼パーティー初戦闘訓練が始まろうとしていた。
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