21話 私は今思い出します

 今、小夜世 黒さよせ くろ達3人は野良ダンジョンの中の開けた場所で新たな魔法や戦術を色々と試していた。


 「戦闘で使えそうな障壁系の魔法はこんなところではないか?」


 「そうだね」


 これまでに黒は休憩時などに使用するための範囲系障壁である守護する乙女バル・ガルディエーヌ、自身の体に纏わせるように展開することが出来る纏衣まとい系障壁である纏う守護バル・アルマ、離れたところにいる見方を守るために壁を作ることが出来る支援系障壁である隣人を守る者バル・ペレテを修得していた。


 「そう言えばクロは詠唱はせんのか?」


 「詠唱?」


 詠唱というと、あれだろうか。よく魔法使いとかが魔法を使う前に喋っているカッコイイやつだろうか。今レェーヴに問われているということは、いつも使う前に言っている魔法名とはまた違うのだろう。


 「そうじゃ。使っとるところを見たことはないか?」


 「うーん...罪魂呪縛ざいこんじゅばくの前にあの男が言ってたやつ?」


 「似ておるがちと違うの。恐らくあれはスキルじゃったからな。発動に必要な手順じゃったんじゃろう」


 「へぇーそんな制約が必要な場合があるんだ」


 「うむ。そうじゃな...詠唱に関しては実際に使って見せたほうが早いの。まずは詠唱無しの場合じゃ」


 そういうとレェーヴは右手を上げながら魔法名を唱える。


 「水鏡みずかがみ


 すると、レェーヴの前に楕円形の水の膜が形成される。それはただの膜ではなく、覗き込む者の姿を映す鏡になっていた。


 「おおー」


 「これを作るのに魔量を10消費するんじゃが、次は詠唱ありの場合じゃ」


 レェーヴは目を瞑り、言葉を紡ぎだす。


 「清流よ成れ。我が姿を、我が心を移す鏡に。水鏡みずかがみ


 レェーヴが唱え終わると、先ほどよりも一回り大きな楕円形の水の膜が表れる。


 「おっきくなったね」


 「そうじゃ。それだけではないぞ、これを作るのに必要な魔量は7じゃ」


 「なんとなく詠唱をする意味は分かったけど、何でもいいの?」


 恐らく、詠唱が魔法を発動する際のサポート的な役割を果たしてくれるのだろう。そのため、同じ魔法でも詠唱有りと無しとでは威力や効力、魔量の消費量が違ってくるのだろう。

 

 「何でもいいと言えばそうじゃが、適当過ぎてもダメじゃぞ。これから使う魔法に関することを詠唱として述べるのじゃ。詠唱が長いほど魔法が強く、魔量の消費が少なくなる」


 「なるほど...前、魔ってやつがそこらへんに漂ってるって言ってたけどそれが関係あったりする?」


 「お、察しがいいの。そうじゃ、詠唱はこれから使用する魔法に対応する魔を集める役割を果たしておる」


 「なるほどねー。でも戦闘となると使いどころ見極めないとね」


 「そうじゃの」


 ちなみにレェーヴとの魔法談義をしている間はシュテンが周りを見張ってくれており、近づいてくる魔物を片っ端から粉砕している。


 「クロー!魔法に関してはもう話し終わった?」


 そういいながらシュテンが倒した魔物の魔魂を抱えてこちらに走ってくる。かなり倒してくれたようだ。


 「すごいシュテンちゃんそんなに倒したんだ、ありがとね」


 「えへへ」


 黒は収納空間マイルームを開き、そこにシュテンから受け取った魔魂を収納していく。


 「まだかかると思うから周りのこともう少しお願いしていい?」


 「大丈夫だよ!」


 そういってシュテンはトタタッと走っていく。どうやら戦闘というよりも体を動かすのが好きらしい。大人しい性格なので意外だった。


 「可愛いなぁ...ええ子やなぁ...」


 黒はそんなシュテンの後姿を目で追いながらにへっとする。


 「話に戻るぞ、クロ」


 そんな黒の様子を少し見た後、レェーヴが声をかける。


 「ごめんごめん。そういえばすっかり忘れてたけど使える魔法の色確かめてみる?」


 「そう言えばそうじゃったな。ワシも忘れとった」


 黒はリュックから冒険ギルドで買っておいた魔道具を取り出す。

 この魔道具の正式名称は魔法色測定式魔道具というなんともお堅い名前らしい。見た目は付箋紙だ。1セット6枚ついており、使いたい色の魔法を想像して魔を流し込むと、使えるならばその色に染まり、使えないならば破けるらしい。


 まず1枚それぞれ手に持ってみる。


 「それじゃあ赤からやってみよっか」


 「うむ」


 黒は火をイメージして魔を紙に流し込むイメージをする。すると、手元の紙が赤に染まる。

 レェーヴの方を確認すると、しっかりと染まっていた。


 そのあとは順々に、青、緑、茶、白と確認していった。


 「やはりワシは緑、茶、白の魔法が使えんようじゃな。クロは今のところ全部使えるの」


 「褒めてくれていいんだよ?」


 「さすがじゃな」


 レェーヴはやれやれといった様子で黒を褒める。


 「ちょっと投げやりな感じがするな~?」


 「ほれ、次で最後じゃ。やるぞ」


 「ちぇー」


 最後の1枚をそれぞれ持つ。

 最後は黒色の魔法だ。黒色の魔法と言えばなんだろう。身を犯す呪いとかだろうか。我ながら物騒なことを考えるなと思いつつイメージして魔を紙に流し込む。


 「おっ」


 やはりと言うべきか、黒の持っている紙が黒く染まる。

 レェーヴの紙は破けているので、黒色の魔法は使えないようだ。


 「本当に使えるようじゃな...黒色の魔法を...」


 「レェーヴちゃんはさっき何をイメージして魔を流したの?」


 「ん?伝承にある黒色の魔法をイメージしたのぅ。黒い球なんじゃが、重力を操作して相手を潰してしまう魔法らしい」


 黒、重力と聞くと黒の読んでいた漫画で思い当たる節があるが、言われてみれば確かに黒色の魔法っぽい。


 「伝承なんてあるんだ」


 「ワシの場合は里にたまに来ておった語り部に聞いたんじゃがの」


 「吟遊詩人ってやつ?」


 「そう言えばそう呼んでおるやつもおったの」


 「今度聞かせて?」


 「よいぞ。今度床に入ったときにでも話そうかの」


 「楽しみだな」


 黒はレェーヴに向かって微笑む。

 

 今の生活はこれまで生きた中で一番楽しい。私の体質上、誰かとこんなに楽しく過ごせるなんて思ってもいなかった。こんな生活がずっと続けばいいと心から思うのと同時に、元の世界に残してきた妹のことを思い出す。


 今考えても仕方のないことだと思っても、やはり割り切れずに思いだしてしまうのだった。

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