5話 私は今山へ向かいます
「そういえばお宝ってなんだったの?レェーヴちゃん」
「いきなり砕けすぎじゃろ...」
だが
「お宝なぞ本当はないんじゃ。外の人間が勝手に作った噂じゃ」
それを聞いて、許せないね人間!と黒が拳を作ってプンスカしている。
「お主本当に人間なのかや...」
「人間だよぉ」
言いながら黒はまたレェーヴの尻尾を抱く。黒はレェーヴが仲間になると言ってからデレデレである。
(悪い気はせぬがちょいと恥ずかしいの...)
レェーヴもまた人間と仲良くしたいという思いが叶っているので、まんざらでもない。
「それでこれからどうするんじゃ?何か予定はあるのかの?」
「一応イルミールに向かおうかなって思うんだけど、どう?」
「イルミールか...うむぅ...」
「助けたい子がいるの?」
「本当に何でも分かるんじゃな、その共感覚とやらは」
黒は仲間になるにあたって、共感覚のことを話していた。もしかしたら嫌われるのではと話すことを躊躇っていたのだが、レェーヴはちゃんと話を聞いてくれた。
「でも使っておると疲れるんじゃろ?ランクを下げれば感じなくなるんじゃったらそうしておいたほうがいいのではないのか?」
「ごめんね...なんかこう、いざ感じない相手と話すのは...ちょっと不安というか...怖い...のかな」
ずっと分からなくなりたいって思ってたのにね、と黒は悲しげに笑う。
「徐々に慣れればよい。ワシは別に気にせんからな」
「ありがとう、レェーヴちゃん...」
「うむ。それでの...助けたいやつなんじゃが、正直いって数百年前に別れたっきりだからの、生きているかすら分からんのじゃが...」
「どこにいるのかは分かるの?」
「あやつが根城にしとった山があってな。そこに行っていなければ...諦める。だから、そこに先に向かってもいいじゃろうか」
「全然大丈夫だよ。すぐにイルミールに行きたい理由とかないし」
「恩に着る...」
「それでその子ってどんな子なの?」
「あやつも妖族の中では上位の妖でな、鬼の1人じゃ」
鬼っ子か...悪くない...
「なんじゃその顔...気持ち悪いぞ...」
「ひどい...」
「あやつはワシと同じぐらい強いからの、そこらの人間にやられるということはないと思うから大丈夫だと思うのじゃが...」
「取りあえず行ってみよ、ここから近いの?」
「イルミールからさらに東、果てに近い場所じゃ」
◯●◯●
そんなこんなで、今黒たちは鬼っ子がいる山へと向かって歩いている。ダンジョンの中からは、レェーヴが開いた出口から外へ出た。
「やっぱり外はいいのぉ...」
しみじみとレェーヴは言葉を溢す。
「たまにちょこちょこ森林浴をしにでとったが、こうも落ち着いて外にいられるのは久しぶりじゃ」
楽しそうなレェーヴを横目に黒は微笑む。外見的には優しいお姉さんだが、内心は...
(可愛すぎる...その伸びをする仕草とかぴょこぴょこ動く耳とか歩くたびに揺れる尻尾とか...)
(抱き着きたい...ぐぬぬぬぬ...)
キモさ全開だった。
「そういえば今更だけど、やっぱり服装は巫女服なんだね」
「これか?巫女服という呼び方は聞いたことがないが、これは九尾を持つ者だけに継承される特殊な服でな。妖術の力を高めてくれるんじゃ」
「え、じゃあ人間が着たりはしないの?」
「似たような服を着てるのは見たことがあるが、基本的には着ないと思うぞ。ここ数百年で文化が変わっていなければじゃが」
いろいろと元の世界と通じるところもあるが、微妙に違うところもあるらしい。
「そういえばこれから共に戦うのであればステータスを開示しておこうかの」
「ステータスって人に見せられるの?」
「両者の合意があればできたはずじゃぞ。ちょいとしゃがんでくれんか?」
黒が屈むと、レェーヴは黒の額に自分の額を重ねる。
「...そうじろじろ見るでない、恥ずかしいではないか」
つい見惚れてガン見してしまっていた。あまりこういった行動をしすぎると嫌われかねないので自重しよう...
「いくぞ」
そうレェーヴが言ったと同時、額が少し熱くなる。少しすると、黒の頭の中に映像が浮かんでくる。
レェーヴ Lv.68
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
筋力:45
魔力:63
魔量:230
精神力:86
物理耐久力:55
魔力耐久力:73
俊敏力:75
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
スキル:変化A
特殊パラメータ:妖力:80⇒90
「おぉ...」
なんか不思議な感覚だ。自分のステータスを見るのとはまた違った感じがする。
「レェーヴちゃんレベル高いね」
「人から見ればそうかもしれんな。ワシらは長命だからの。それにいろいろとあったしの...」
「あっ...ごめんね...」
「いや、気にするでない。少し思い出しただけじゃ。今は楽しい。それでいい」
「そうだね、今は凄く楽しい」
誰かと一緒にいることがこんなに楽しかったことは初めてだ。相手が私の体質のことを知って、受け入れてくれて。もしかしたら元の世界でも勇気をだせばそんな未来があったかもしれない。
「ええと、私も見せたいんだけど...どうやるの?」
「うーむ...言葉にしようとすると難しいのぅ。こう、相手の頭に自身が見ているステータスを流す感じ...かのぅ」
「ちょっとやってみるね」
そういって、また額を合わせる。そして、言われた通りにイメージしてみる。
少しして、額が熱くなるのを感じる。どうやら上手くいったらしい。
「ブフォッ!!」
ステータスを見たであろうレェーヴは盛大に噴き出す。
「なんじゃこのステータスは...どうやったらこうなるんじゃ...」
「やっぱりすごいの?」
「すごいどころの話ではないぞ...そもそも、ステータスはレベルが上がるごとに基本1しか上がらぬ。2以上、上がるのは稀じゃ。それどころか、1すら上がらんことのほうが多い」
初耳だった。これまでずっと2ずつ上がっていたりしたのでそういうものかと思っていた。
「やっぱり知らんかったんじゃな...まぁとにかく規格外じゃ。ほかの者には見せん方がいいじゃろうな」
「わかったよ、ありがとうレェーヴちゃん」
「他にも突っ込みたいことが山ほどあるが...道のりは長い、話せることを少しずつ話してくれると嬉しいのじゃ」
色々と複雑な過去があったのだろうと黒のことを気遣ってくれる。やっぱりレェーヴちゃんは優しい。
「本当にありがとうね、レェーヴちゃん。ね、手繋いで歩かない?」
「なんじゃいきなり...見てるものがおらんとはいえ流石に恥ずかしいぞ...」
「えー、仲良しは手を繋いで歩くんだよー」
「(な、仲良し...)しょ、しょうがないのう...」
そういって、レェーヴは手を差し出してくれる。
握ったレェーヴの左手はとても暖かかった。
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