4話 私は今初めての仲間が出来ました
体が軽い。心が澄んでいる。今ならどこまででも飛んでいけそうな気分だ。
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状態異常:白化
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筋力:102
魔力:152⇒8056
魔量:2600⇒137800
精神力:24⇒100
物理耐久力:102
魔力耐久力:152
俊敏力:102
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スキル:共感覚A 天使の加護-
特殊パラメータ:黒力56
:白力53
初めてみる状態異常だ。それに特殊パラメータに白力が追加されている。
どうやら黒化と違い、白化は魔法系統を強化してくれるらしい。
だが、今はそんなことよりも...
(のじゃロリ狐娘だぁぁぁあーーー!!!)
そう、今黒の目の前にはこの迷宮の主であるロリ狐が立っている。
(最初が肝心だ...どうにかして上手く仲間にするんだ...)
もはや黒は先ほどまで身に起きていたことは忘れている。そんなことを思い返している時ではないのだ。
「えっと、初めまして。私、クロっていいます」
そう、まずは挨拶だ。これがなくては始まらない。昔読んだ『ヤマアラシでも出来る!友達の作り方』という本に書いてあった。
「!?(なんじゃこやつ普通に挨拶してきおったぞ!?).......ワシの名はレェーヴじゃ」
レェーヴ...もっと和風な名前かと思っていたので少し驚いたが、そもそも本名ではない可能性が高い。そのうち本名が聞ければいいなぁと妄想を広げてにやける。
(この状況下で笑っているとは...やはり化け物じゃな...)
実は黒が気がついていないだけで、レェーヴは攻撃を仕掛けている。
レェーヴは黒の強さを目の当たりにしているので、正面からではなく先ほどのように精神面に働きかける攻撃を行っている。流石はこの迷宮の主というだけあって、どの攻撃も大抵の人間であれば即死に持っていけるレベルであるが、ことごとく弾かれているのであった。
(敵わぬと分かっていても...)
「クロとやら、お主の強さは分かっているが...こちらとて引くわけにはいかぬのでな」
「え!?やっぱり戦わなくちゃダメですか...?」
「...?何を言っておる。当たり前じゃろう。そもそもワシを倒さねばこの奥の宝は手に入らんぞ?」
「宝...?私そういうの別にいらないですけど...」
「へ...?」
「「......」」
しばらく2人で見つめ合う。
「それではお主は何のためにここに来たのじゃ?」
「え?えぇと...特に目的はないと言いますか...強いて言えばその...」
仲間になって下さい。これはもはや、友達になって下さいという言葉と同意義ではないか。これまで面と向かって言ったことがないので想像以上に恥ずかしく、口ごもってしまう。
「なんじゃ...?」
こんなんじゃダメだ。せっかく会えたこの幸運を逃すわけにはいかない。
「仲間になって欲しいんです!!!」
「....ほへ?」
「このワシをお前の仲間に...か?」
「そうです!」
「ワシは妖族じゃぞ?」
「もしかして妖族とは仲間になれない決まりとかありましたか...?」
「いや、そういうわけではないが...」
この世界における妖族は迫害の対象となっている。精神に付け入る術を多用するため、多種族から嫌われているのだ。仲間にしても、いつ後ろから襲われるかわかったもんじゃない。そう言って、妖族を仲間にするものは稀である。また、妖族は魔物の側面が強く、そこも人として見られない原因となっている。
「ワシらは一応こんな身なりで人と話しておるが、存在は魔物のそれに近い。魔物を仲間にするやつなど契者による従属魔法によってぐらいじゃろう」
「私そういうの気にしないですよ?」
「うむぅ...」
黒は今、レェーヴからは共感覚によって何も感じない。恐らく先ほど言っていた魔物に近いというのが影響しているのだろう。しかし、それは言い換えれば少しは人間でもあるということである。
共感覚の感度を最大にする。すると、レェーヴのことが伝わってくる。これまで受けてきた心の傷も伝わってくる。
迫害やいじめをされてきた人を多く見てきたが、総じて彼らの心には傷が残る。それは消えることがないものだと黒は思っている。少なくとも、人間の寿命では癒すことのできぬほどに質の悪い傷なのだ。
黒はレェーヴに近づいていく。
「な、なんじゃ」
「ごめんなさい。自分のことばかりであなたを見ていなかった」
そういってレェーヴを抱きしめる。
「なっ...」
「私はあなたよりもまだ全然生きてないだろうし、あなたからしたら子供かもしれない。それでも、私はあなたのことが分かる。心を勝手に見てしまったのはごめんなさい。でも、わかって欲しい。私は本当に...レェーヴと仲間になりたい」
「.....」
最初は強張っていたレェーヴの体から力が抜けていくのが分かる。
「まさか人の子からこんなことをされるとはな...長生きはしてみるものじゃ...」
「どっちみちお主と戦えば残らぬ命じゃった。仲間にしておくれ?」
「はい!」
「ちょっもう放さんか!」
「もうちょっとだけ!」
レェーヴの体は恐ろしく抱き心地がよかった。抱いている時の感触もそうだが、なにより抱きしめると後ろの尻尾がふりふりしているのが見えるのがいい。
そのあとしばらく抱かれていたレェーヴの顔はここ数百年見せたことがない穏やかなものだった。
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「仲間になって欲しいんです!!!」
何を言っているんだこの人間族は。
「このワシをお前の仲間に...か?」
「そうです!」
何をそんなに嬉しそうに喋るのだ。
「ワシは妖族じゃぞ?」
「もしかして妖族とは仲間になれない決まりとかありましたか...?」
「いや、そういうわけではないが...」
本当に、本当にこの人間はワシを仲間にしたいと思っているのか...?
「ワシらは一応こんな身なりで人と話しておるが、存在は魔物のそれに近い。魔物を仲間にするやつなど契者による従属魔法によってぐらいじゃろう」
そうだ。ワシがこの世に生を受けてから数百年。初めは地上で暮らしていたが、その生活は想像を絶するものだった。ワシを生んだ母は人間族に殺された。妖族の中でもワシら妖狐は群を抜いて力が強い。それ故に恐怖の対象であり、迫害される。地上でほかの妖族を見たことなど数えるほどしかない。生まれたそばから狩られるのだ。もはや絶滅寸前といってもいいだろう。
どうにか生き延びたワシは最初人間族を憎んだが、殺すことは出来なかった。父親が人間だったのだ。母は人間と恋をした。大変な人生だったと話したが、同時に幸せでもあったと。いつも人間のことをよく言っていた。そのせいで憎み切れなかった。
それからは地下にダンジョンを築き、潜った。
だがいつからか、妖狐の特大の魔魂が眠るダンジョンがあると噂された。
それからというもの、多くの冒険者がこのダンジョンを目指した。
ワシは入り口に細工をしたが、それでも強者はここを見つける。
ワシは必死に魔物を創った。より強い魔物を。守ってくれる魔物を。
ワシの手では人は殺せない。
そうして数百年と繰り返すうちに噂は色あせ、このダンジョンを探す者も現れなくなった。
地下での生活は退屈で、心が少しづつ疲弊していった。
「私そういうの気にしないですよ?」
彼女はそんなことを言う。
実はこの人間は殺すと決めていた。人間を殺すことが出来れば、外に出られる。生きられる。この生活はもう嫌だった。
そんなワシに仲間になってくれという。気にしないという。
「うむぅ...」
信じたい。本当であって欲しい。楽になりたい。
「な、なんじゃ」
いきなり彼女の雰囲気が変わった。彼女の瞳はワシを射抜く。どこまでも見透かされているようで。しかし、不思議と不快感はなく、知ってもらえているという安心感を抱く。
この気持ちは母に抱かれ眠ったときによく似ている。
「ごめんなさい。自分のことばかりであなたを見ていなかった」
そういって彼女はワシを抱きしめた。
「なっ...」
なんなのだ。なんなのだなんなのだ。なぜこんなにも心地がいいのだ。
「私はあなたよりもまだ全然生きてないだろうし、あなたからしたら子供かもしれない。それでも、私はあなたのことが分かる。心を勝手に見てしまったのはごめんなさい。でも、わかって欲しい。私は本当に...レェーヴと仲間になりたい」
「.....」
彼女からは母に似た匂いがした。
あぁもうだめだ。この心地よさには敵わない。
一緒に生きたい。一緒に歩きたい。母が愛した人間と共に。
そうしてワシは彼女の、黒の仲間になった。
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