6話 私は今心に決めます

 あともう少しで目的の山に着くというところで、日が落ち真っ暗になってしまったので野営をすることにした。

 普通の人間であれば3日はかかろうかという距離だが、小夜世 黒さよせ くろとレェーヴは追いかけっこなどをして走っていたら、物凄い速さでここまでの道のりを走破してしまっていた。


 「テントとかは持っているのかの?」


 「持ってないけど、たぶん大丈夫だよ。収納空間マイルーム


 そう黒が唱えると、目の前に扉が現れる。


 「そういえば空間魔法が使えるんじゃったの...相変わらず規格外じゃな」


 「この扉って私が入った後もここに残るのかな?」


 「残っておったぞ」


 「じゃあ最悪魔物とかにこれ壊されたらどうなるんだろ...」


 「うーむ...ワシも実際に見るのは初めてだからの、わからん。心配じゃったらワシの妖術で隠しておけばよいのではないか?」


 「そうだね。お願いしようかな?」


 「心得た。神隠しかみかくし


 そうレェーヴが唱えると、扉が消える。レェーヴがいたダンジョンの入口を隠していたものと同じものらしい。


 「これで大丈夫じゃろ。そういえばクロは見えるのかの?ワシのダンジョンに入ってきておったが」


 「はっきりとは見えないよ。ちょっとぼやけてそこに何かあるって分かるぐらい」


 「まぁそれだけでも凄いんじゃがの...どれ、クロにもちゃんと見えるようにするからの、少し目を瞑っておくれ」


 「んっ」


 「この者、我と同じ目を持つもの也。もうよいぞ」


 「おぉ、見えるー」


 「うむ」


 「じゃあ入ろっか」


 「お邪魔するぞ...おぉ...これほどとは」


 一応はざっと片付けてあるため、内装は物置というよりは、普通の部屋のようになっている。


 「この魔法は使っている間は魔量を消費するのかの?」


 「んーん。出すときだけかな」


 「便利じゃのぅ...」


 「レェーヴちゃんはベッドと布団どっち派?」


 「ワシは布団のほうが落ち着くのぅ」


 なんとなく聞いたが、この世界にもちゃんと布団という概念は存在するらしい。


 「おっけー。創造魔法クリエイト


 そう唱えると、目の前に布団が一式ボンッと出てくる。ちなみに黒のそのときの気分で、創造魔法そうぞうまほう創造魔法クリエイトを使い分けている。

 

 「なんとも贅沢な魔法じゃのう...」


 「贅沢?」


 「うむ。その魔法、普通に火をだしたり水をだしたりするよりも魔量を消費するじゃろ」


 「そういわれてみれば...結構使うかも」


 「火や水などといった属性魔法はの、基本的に空気中にある魔と自身の魔を用いることによって魔法と成る。クロも無意識に魔を取り込んでおるはずじゃぞ。意識的にそれが出来るものは自身の魔を消費せずに魔法が使えたりもする」


 「しかしの、そういった属性魔法と違い、空気中に対応する魔がない、物を無から作るといった魔法はかなり燃費が悪いのじゃ。自身の魔のみを用いて行うわけじゃからな」


 「おぉ...先生だ...」


 「伊達に長生きはしておらんからの」


 少しドヤッとする。その顔を見てアリシアを思い出す。元気にしているだろうか。


 「ほとんどなにも知らないから助かるよぉ」


 「本当に異世界とやらから来たのじゃな...にわかには信じがたいがおぬしの言うことじゃ、ワシは信じよう」


 ここに来るまでの間に、黒はレェーヴにこれまでの経緯を話していた。その方が気持ちが楽だったし、仲間には知っておいてもらいたかった。アリシアは他言無用などとは言っていなかったし、たぶん大丈夫だろう。


 「そういえば布団が一式だけのように見えるのじゃが...」


 「一緒に寝よ?」


 「まぁ、そうじゃよな...薄々感じ取っておった...」


 「レェーヴちゃんが嫌ならもう一式作るけど...」


 「うぐぬぅ...別によい。先ほども言ったように魔量の消費が激しいからの」


 「レェーヴちゃん大好き」


 「まったく...」


 (始めの印象とは違って随分と甘えん坊じゃの...こやつもこやつで色々と抱えておるのかの)


 (一度見せたあの闇を纏う技、黒化じゃったか。人の子の心は脆い。ワシも人のことは言えぬが、しっかりと見といてやらねばの)


 「レェーヴちゃんは優しいね...」


 「お主も相当じゃぞ?」


 「...そんなことないよ」


 「そんな顔をするでない。人は笑っている時が一番いい。もう怒りや悲しみ、畏れられる顔は見たくないのでな。じゃが、本当に悲しいときは遠慮なく泣いてよいのだぞ?」


 「うん、ありがとう...ありがとうついでなんだけど、尻尾を抱き枕にしていい?」


 「はぁ...特別じゃぞ」


 「ありがと!」


 

 そうして2人は布団に入り眠りについた。



 ◯●◯●


 

 黒とレェーヴは起床して水浴びをしていた。


 「レェーヴちゃんって見た目に反してほどほどに胸大きいよね」


 「なんじゃいきなり...」


 「もっとこう、ぺったーん!って感じに見えてたから...着痩せするタイプなんだね...裏切られた気分だよ...」


 「クロはまだ若いじゃろ、希望を失うでない。それに大きければいいというわけでもないぞ」

 

 「ふっ...」


 「面倒くさいやつじゃの....」


 「そういうのは心の中に仕舞っておいてよぅ...」


 「お主には分かるじゃろ...」


 「そうでした...」


 「ほら、さっさと着替えてゆくぞ」 


 

 黒は己の絶壁を見下ろし、ため息をつく。密かに巨乳は絶対仲間にしないと心に誓うのだった。

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