34話 私は今報告に向かいます

 オトナシとの告白騒動があった後、小夜世 黒さよせ くろ達はイルミールに着きさっそく冒険者ギルドへと赴いた。クエスト達成の報告をするためでもあるが、音喰いの獣というかなり凶悪な魔物を封じこめていたというのにギルドがその存在を知らないというのはおかしいからだ。理由があるにせよそれを聞かずにはいられない。


 黒はいつも通り、外にレェーヴとシュテンを待たせてギルドの扉をくぐる。オトナシはついていくと言ったので同伴している。

 

 順番が回って来たので黒が報告したいクエストの内容を伝えると、それを聞いた受付嬢は『少々お待ちください』と言い残し、どこかへ行ってしまった。


 数分後、戻ってきた受付嬢に連れられた別室には中年の男が黒たちを待っていた。男は黒たちの姿を確認すると、受付嬢に礼を言いさっそく話始める。受付嬢は通常業務へと戻っていった。


 「いや、すまないね。わざわざこんなところまで。僕はギルドマスターのハナセだ。君たちは今回音無しの森騒動のクエストを受けてくれた、クロの家の人達で間違いないよね?」


 オトナシはまだ登録申請をしていないので正式には違うが、そうだということにしておこうと黒は首を縦に振る。


 「クエスト達成の報告をしにきたということは、オトナシと何かしらあったということだよね?あ、えぇとオトナシっていうのは恐らく君たちがあの森で会ったであろう人のことを言うんだ。あの森で何があったか教えてくれるかい?」


 黒は正直困惑していた。クエスト受注の際はなんの情報も持っていなかったはずのギルド側からまさかオトナシの名前が出てくるとは思っていなかったからだ。隣のオトナシに限っては挙動不審に目を泳がせている。


 「えぇと、話す前にお聞きしたいことがあるんですが、クエスト受注の時にはギルドは何も知らないと言っていたのですが...あれは嘘だったってことですか?」


 「あぁ、それについては本当に申し訳なかった。えぇと、君たちは私がギルドマスターになる前のギルドマスターについては知っているかな?」


 もちろん知らなかったので話を聞くと、どうやらこういうことらしい。


 今目の前にいる現ギルドマスターのハナセの前任者であったゴストルという男は絵にかいたようなクズだったらしい。実際にはハナセはこんな言い方はしていなかったが、黒的に要約するとこうなる。

 

 そんなゴストルが仕切っていた時のギルドはひどく、情報元である書籍や巻物といったものは整理されずに放置され放題でまともな運営がなされていなかったらしい。この時期のことを怠慢時代と呼び、イルミール始まって以来の最悪な時代だったらしい。


 なぜそんなことになったのかまでを話すとかなり長くなるようで、『聞くかい?』とハナセに言われた黒は首を横に振った。正直黒は歴史というものについては興味がないのである。神話などは別だったりするのだが。


 そんなこんなで、ハナセの代になり膨大な情報を整理しているらしいのだが、黒たちがクエストを受注し国を発った2日後に音喰いの獣関係の資料が見つかったらしい。


 「それでその見つかった資料と被害にあった冒険者の話を聞く限り、音喰いの獣の封印が弱まっているみたいなんだ。どうやら数日前に音無しの森方面から光の柱が生まれたという話もある。手間をかけさせてしまってすまないが、何があったか詳しく教えてほしい」


 改めてハナセからそう言われ黒はどう説明したものかと考える。その獣は倒した上に今目の前にいるこの子がオトナシですと言って信じてもらえるものなんだろうか。しかもさっきの話を聞く限り光の柱は黒の魔法によるものだ。

 黒は考えに考え、最終的に話すことにした。もちろん黒自身の秘密は伏せておくことにする。


 「あの、これから話すことはここだけの話にしてもらえますか?」


 黒はそう切り出した。


 「そうだな...ギルド側としては何があったかは記録しておきたいが...その条件でなければ話せないというのであれば受け入れよう」


 話がまとまり、黒はハナセに音無しの森で何があったかを話した。話を聞いていたハナセは終始黙って聞いていたが、その顔は難しいものだった。


 (やっぱりそう簡単には信じてもらえないよね...)


 黒はハナセを見ながら思う。共感覚によって、ハナセの感情は黒に筒抜けである。


 「うーん...信じたいとは思うのだが...すまない、簡単に信じられる話ではない...何かそれを証明できるものはあったりするかな?」


 そう言われ今度は黒が難しい顔になる。獣を倒したあと、周りを見渡しが魔魂は落ちていなかった。もしかしたら黒の魔法によって砕け散ってしまったのかもしれない。魔法を実演しようにも騒ぎになりそうだ。オトナシがオトナシであるという証明はオトナシ固有のスキルを使えば出来るが、獣を倒した証明にはなりえない。


 悩む黒の様子を見たハナセが口を開く。


 「いやすまない、君としてはきちんと話してくれたんだ。こんなことまで頼むのは失礼だった。こちらで調査隊を編成し確認に向かわせる。君たちはイルミールにどれぐらい滞在する予定だい?」


 「ちゃんと決めてないですが、一ヶ月ぐらいはいると思います」

 

 「よかった。こちらで状況を把握できたらまた呼び出すと思うからよろしく頼む。報酬については、もともとの分は今すぐ払おう。獣討伐の確認が取れ次第、追加の報酬も払わせて頂く。今日は長く拘束してしまってすまなかったね、ゆっくり休んでくれ」


 そこでその日は解散となった。

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