36話 私は今招集されます

 「...ロ?」


 「クロ!」


 小夜世 黒さよせ くろは自分の名前が呼ばれていることに気が付きハッと我に返る。


 どうやら色々と思い返していたせいでぼーっとしてしまっていたらしい。気が付けば冒険者ギルドがもう目の前に迫っていた。


 「ごめんごめん、ナーちゃん。最近ほんと色々あったなーって思い出してて」


 黒は先ほど呼びかけてくれていたオトナシに話しかけながらそちらを向く。

 

 「うん、そうだね。ほんと、色々あった」


 「思い出話も良いが、もう着くぞ」


 オトナシと2人であれやこれやと思い出していると、後ろからレェーヴの声がかかる。


 パーティーランクの昇格が認められてからだいたい3週間が経った今日、黒たちはハナセに呼ばれて冒険者ギルドに赴いた。パーティーランク昇格の件で何か問題があったのかとも思ったが、どうやら違うらしい。詳しくは会ってからということだ。


 「じゃあいつもごめんなんだけど、これでなんか買って食べてて」


 そう言いながら黒はラタを取り出しレェーヴとシュテンに渡す。以前はシュテンとレェーヴにもラタを渡していたのだが、シュテンがすぐお酒を買ってきて部屋が酒まみれになりつつあったので、黒が管理するということになり、レェーヴも面倒だからついでにということになったのである。


 「ありがとー」


 「うむ」


 シュテンは受け取ってすぐに何かを買いに行こうとする。そのあとをレェーヴが追いかける。


 「それと、一応大丈夫だとは思うんだけどカーさんに気をつけてね!」


 ちなみにカーさんとはカーサイブリースのことだ。地味に名前が長いので、オトナシがふと呟いたカーさんにいつの間にか定着した。

 シュテンの一件以来カーサイブリースから何のアクションもないのが不気味であるが、考えても仕方がないということであまり深く考えないことになっている。あんな奴らのせいで今が楽しくなくなるのは御免だ。


 「分かっておる」


 そう言ってレェーヴ達はいつも出店が出ているエリアへと消えていった。

 

 「じゃあいこっか?」


 「うん」


 そう言って黒とオトナシはギルドの扉をくぐり中へと入っていった。



 ◯●◯●


 「いやすまないね、わざわざ来てもらっちゃって」


 ギルド職員に通された部屋に入るなり、ハナセが謝罪してくる。いつも思うが、この人は4大国のギルドマスターの割には腰が低すぎないだろうか...


 「いえ、お世話になってますし気にしないでください。それで、用件というのは」


 「あぁ、それなんだけどね。そうだな、クロくん達は特別招集について知っているかい?」


 初めて聞く言葉だった。正直この世界のことについて、まだまだ知らないことはたくさんだ。『この世界の生き方』というマニュアルが欲しいなと思ったこともある。


 「いえ、すいません」


 「いや、いいんだ。じゃあこの特別招集についてちょっと話そうか。パーティーランクにはDからSSSまであるのは知っているね?それで、そのランクがA以上のパーティーには国王からの特別招集に応えなければならない義務が課せられるんだ。その都度お金を払えば応えなくてもいいが、結構な値段だからあまりやる人はいないかな」


 なるほど...なるほど...。正直こういうことは契約時にしっかりと説明してもらいたいなと黒は思った。元の世界だったら絶対クレームが来るだろう。


 「ということは...」


 「そうだ、今回この街にいるパーティーランクA以上の者に特別招集がかかった」

 

 やっぱり...しかし、部屋には黒たちしかいない。今回は特別にハナセが気を効かせて説明の場を設けてくれたのだろうか?


 「あの、他のパーティーは?」


 「ああ、それなんだがね...今この国にはランクがA以上のパーティーは黒くん達しかいないんだ...」 

 

 「えぇ...」


 割合としてランクがA以上のパーティーがどれぐらいいるのかは詳しく聞いたことはないが、こんなに少ないものなのだろうか。


 「普段は滅多にこんなことはないんだがね。正直このタイミング、何か引っかかる。僕も今回の招集の内容についてはまだ知らないんだ。これから城に向かおうと思うんだが大丈夫かな?」


 黒的にも色々と気になることがあったが、その中でも一際気になる単語が聞こえた。


 「え?今、って言いました?」


 「ん?あぁ、言ったけど...」


 「城あるんですか!?」


 黒はいつもより大きい声でハナセに問いかける。ここに初めて来た頃、東の国イルミールという名前だし城壁みたいなのに囲まれてるしで城があるかと思ったのだが見つけることは出来なかった。そもそも国王がいるなんて初耳である。


 「もちろんあるさ、国だからね。そうか、知らない人は知らないのかな...層ダンジョンは分かる?」


 「この国の真ん中にある塔ですよね?」


 「そうそう。バベルの塔とかバベルって呼ぶ人もいるね。あの中に城があるんだよ。あそこから魔物が流出しないように門の役割を担ってるんだ」


 中は広いと聞いてはいたが、中に城が建っているなんて想像していなかった。普通に探しては見つけられないはずだ。


 「そうだったんですね。じゃあこれからそこに?」


 「うん、そうだね」


 「レーちゃんとテンちゃんもいいですか?」


 大丈夫だとは思うが、一応聞いておく。確認は大切だ。


 「もちろんさ。招集がかかっているのはパーティーにだからね」


 

 そうして、外で食べ物を頬張っていたレェーヴとシュテンと合流し、イルミール城へと向かうことになった。

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