3章 北の国ガレオン

プロローグ

 小夜世 黒さよせ くろ達はハナセに連れられ、イルミールの国王が待つ城へと向かっていた。


 遠くから見たことがあるだけだった層ダンジョン、通称バベルの塔などと呼ばれているらしいものに近づくと思っていた以上に迫力を感じた。


 「でかいね...」


 黒はどこかで感じたことのある感覚だったので、どうにか思い返してみると、それは初めて東京タワーを見上げた時の感覚であった。


 あれは何歳の頃だったか。父に手を引かれ人込みの中を一生懸命歩いたことも一緒に思い起こされる。 


 「そうじゃの。壊れずに建っているのが不思議じゃ」


 レェーヴも近くで見るのは初めてだったようで、見上げながら感嘆の声を漏らす。シュテンやオトナシも同じように塔を見上げている。


 「お疲れ様です、ハナセ様。招集の件ですね」


 「いつも言っているだろう、様付けはやめてくれ」


 「私だっていつもおっしゃっているはずですよ、それは出来ませんと」


 塔の入口には門衛であろう者が立っており、街中で見かけたことのある銀の鎧をまとっている。ハナセはその門衛と知り合いなようで、何やら話し込んでいる。


 「待たせたね」


 少しして、話が終わったのかハナセがこちらにやってくる。


 「いこうか」


 黒達はハナセに連れられるまま、門衛に見送られ塔の門をくぐる。





 「ふぁー.....」


 塔の中の景色を見たシュテンが変な声をあげて目を丸くしている。


 それはシュテンだけでなく、黒やレェーヴ、オトナシも同じだった。


 目の前には広大な湖が広がり、その先にはこれまで見てきたどの建物よりも大きく、荘厳な城が鎮座していた。

 その城は黒が知っているような洋風な城とは少し異なり、どこか協会のような雰囲気も漂わせている。初めてみる建物のはずだが、どこか懐かしささえ感じるという不思議な建物であった。


 「ははっ、驚くよね。僕も初めはそうだったよ」


 黒たちの様子を見て、懐かしいとハナセは話す。


 「中も凄いよ。行こう」


 促されなければその場で永遠に見惚れてしまいそうなところをハナセが背中を押してくれる。


 そのまま湖の上を走る道を進み、黒たちは城へと入っていった。




 ◯●◯●



 黒たちはハナセの言った通り、立派な城の内装に驚きながらも王の待つ部屋の前まできていた。


 「緊張する...」


 扉を前に、隣にいるオトナシが黒の手を握ってくる。


 「いいかい?」


 そんな2人を見てハナセが扉を開けてもいいかと確認してくる。ちなみにレェーヴとシュテンは特に様子に変化はない。2人曰く、ワシ(私)達からしたら王もただの人間の1人に過ぎない。あ、でも黒は特別 (じゃ)!だそうだ。


 「大丈夫です...」


 オトナシがハナセにOKサインを出す。


 いよいよ王との対面である。


 「イルミールのギルドマスターハナセ、招集に応じパーティークロの家と共に参りました」


 ハナセが扉に向かって大声で話すと、扉がゆっくりと開く。


 それに伴い、中の様子が明らかになっていく。黒は視線を感じ顔を向ける。


 部屋の最奥、他よりも高くなっているその場所。


 玉座であろう椅子に、まさしく王という風貌を纏う男が鎮座し、こちらを睥睨していた。

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