13話 私は今買い物をします

 この世界は神界、天界、人間界、魔界、獄界の5層で成り立っている。これは天使アリシアが言っていたので知っていたが、ダンジョンについては詳しく言っていなかった。

 そこで、換金ついでにエユエに聞いたところ、地図を広げながら教えてくれた。


 まず人間界には、人間界と天界、魔界を繋げる塔型のダンジョンが4つ存在する。上に向かえば天界へ。下に向かえば魔界だ。これを層ダンジョンと呼び、東西南北に1つずつある。これ以外にもダンジョンは存在するが、これらは各層を繋いでいないため、野良ダンジョンと呼ばれる。

 

 人間界は層ダンジョンを中心とし、4つに領土が分かれているらしい。北をガレオン、東をイルミール、南をナシュタリア、西をパラドウルガという。また、中心には円形状に大きな海が広がっているらしい。ちなみに黒が今いる街ナルタはイルミール領内の南側にある。この近くには野良ダンジョンがないため冒険者が少ないが、それ故に魔物が少ないため暮らしている人は多いという。魔物は基本的にダンジョンから外に出てくるらしい。


 それと驚くことにこの世界の大地には果てがあるらしい。果てから先には空が広がっており、何があるのか分かっていないようだ。飛行魔法を使って少し様子を見に行こうとしたものがいたらしいが、風が荒れ狂っているらしく、どこかへ飛ばされてしまったらしい。


 また、レベルについては、10までが初級冒険者、30までが中級、50までが上級、それ以降は極級というらしい。極級はギルドが把握している限り今は3人いるらしい。



 黒は起床後ベッドの上で、昨日エユエから聞いた情報を思い出していた。いつもならスマホをいじってゴロゴロしているが、スマホがないので代わりに考え事をする。なかなかベッドから出ることが出来ないタイプだった。


 ごろごろ...ごろごろ...


 今日はいつも以上にベッドから出られない。というのも、アヤ達に街を出ることを伝えなければいけないからである。結構しんどい。もうちょっとこの街に居ようかとも考えてしまう。しかし、長くいればそれだけ腰が重くなってしまう。意を決して起き上がる。


 「よし...」


 部屋から出て階段を下りると、いつものようにアヤとマヤが挨拶してくれる。


 「おはようございますクロさん」


 「おはよー!!」


 朝起きると飛び込んでくるこの笑顔。一緒に連れていきたい気持ちを抑える。


 「おはよう...」


 ついつい暗い返事を返してしまう。


 「どこか具合が悪いんですか?」


 「だいじょーぶ?」


 「おはようクロちゃん。どうしたの浮かない顔して」


 奥から出てきたマレザさんにも心配されてしまう。


 「...話があるんです」


 そう切り出して、3人にこれからの予定を話した。


 

 ◯●◯●


 

 今は装備の買い出しに来ている。揃えるべきは武器と防具、食料に日用品などたくさんある。


 「ポーションなどはこちらの店がいいと聞いたことがあります」


 「ポーション!」


 「じゃあそこで買おうか」


 アヤとマヤに案内してもらいながら、街中を歩く。

 最初2人は泣いてしまって大変だった。マヤは分かるが、まさかアヤまで泣いてしまうとは。マレザが冒険者なんだから仕方ないよと2人をどうにか納得させてくれて、それだったら今日はずっと一緒にいたいとアヤとマヤが言うので、今に至る。


 葉っぱのマークがついた店に入る。どうやらこのマークがポーションなどを売っているところらしい。

 商品棚には化学の授業などで見る試験管がところせましと並んでいる。中には赤や黄色など、様々な色の液体が入っており、見た目はきれいだ。飲めと言われたら躊躇してしまう。


 「なにをお求めかな」


 椅子に座っていた老人が私たちを確認すると聞いてくる。

 まさか話しかけられるとは思っていなかった。そもそもどんなポーションがあるのか知らなかったので、商品を見て考えようと思っていたのだ。それに黒は店員から話しかけられるのが凄く苦手である。服を選んでいる時、店員が絶対と言っていいほど話しかけようとしてくる。意識がこちらに向けられたことを感じると店から出てしまうほどだ。

 

 「あ、えっと...どんなポーションがあるんですか?」


 「ん?なんじゃ、駆け出し冒険者か?」


 「はい...」


 めんどくさいという感情を感じる。ツラい...


 「ポーションには傷を治療するもの、魔量を回復するもの、状態異常を回復させるもの、短時間ステータスを向上させるものがある。今の若者は治ポだの魔ポだ状ポだステポだのと言うとるが、正しくは治療ポーションと魔量ポーション、状異ポーション、ステータスポーションじゃ。まったく...」


 どの世界でも言葉が短縮されるのは共通しているのだろうか。高齢になるほど会話途中に愚痴が混じる割合が増えたりも。黒の偏見かもしれないが。


 「数年前までは飲料型しかなかったんだがな、最近は飴型のものが開発された。だが値が張るからの、飲料型のが需要は多いな」


 商品棚の端のほうに置いてあるのがそれだろう。大きさは小指の先ほどだろうか。飲料型と比べてかなり小さいので、容量を考えれば飴型一択だろう。


 「効果って飲料型と飴型じゃ変わらないんですよね?」

 

 「変わらんな」


 「この治療ポーションA、Bというのは?」


 商品を見て気になっていたのだが、AからDまで分けられている。おそらくは効果の違いだろうが専門家にしっかりと聞いておいたほうがいい。ちなみにマヤは話に飽きて店の中をぐるぐるしている。アヤはマヤが何かしないようについて歩いている。


 「それは効果の違いじゃ。Aほどいい。ここにはないが、Sもあるぞ。基準としては、Sならば失った血液も含めほとんどの傷を治せる。Aは折れた骨を治す、Bは結構酷い裂傷も塞ぐ、CはBほどではないが裂傷を塞ぐ、Dは擦り傷を治すってところじゃな」


 めんどくさいとは思っていても聞けばきちんと答えてくれる当たり、根は優しいのだろう。今は共感覚を最弱にしてるので今抱いている感情とちょっとした性格しかわからない。


 「じゃあ、飴型の治療ポーションAを2個、Bを3個、Cを5個と魔量ポーションAを3個、Bを5個、状異ポーションAを3個下さい」


 老人は驚いた顔を見せた後、訝しげな顔をする。


 「なんじゃ、金はあるのか?」

 

 足りると思っていたのと早く店を出たいので、値段は聞かなかったのだがそんなに高いのだろうか。


 「1番高いのはいくらですか?」


 「魔量ポーションAの銀貨7枚じゃ。飲料型なら銀貨5枚じゃぞ」


 想像していたよりも高かった。特に飲料型と飴型で銀貨2枚もの差があるとは。だが買えなくはないので買ってしまおう。


 「大丈夫です。さっき言ったものを下さい」


 それを聞くと、老人は袋に商品を詰め始める。しっかりと内容を覚えているようだ。


 「合計で金貨9枚と銀貨8枚だ」


 黒は想像よりも高かったので驚いたが、早く店を出たかったのでラタを支払い店を後にした。



 その後もアヤとマヤと一緒に旅に必要なものを買い漁る。

 気が付くと日が暮れ始めている。楽しい時間というものは不思議なもので、すごく短く感じる。

 

 必要なものは揃ったので、アヤとマヤと夕飯のための買い出しをしつつ帰路につく。


 

 マレザが待つ宿に着くころには、すっかり日が暮れていた。

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