■特別編 火霊使いスカーレット(1)
「……G{ゴールド}がいるんだよ、Gがな」
俺専用の魔法武器ができるまでの間、暇を持て余した俺はウェスタ王国の王都に繰り出していた。
もちろん一緒についてくるのは、ドワーフ族のポルテと白の女神シルヴィーナだ。
隷属するポルテはともかく、女神ときたら「今度はどこへ行くのですか、クライ?」といちいちうるさい。
だからきっぱり言ってやったのだ。
「誰かさんがこっそり食料を食うから、金がかかってしょうがないんだよ!」
「うっ! そ、それは~~! だってお腹が空いたときに、手を伸ばせばそこに食べ物があったから……つい、ですわ~!!」
この女神ときたら、俺のパーティに強制加入しているからな。
おかげでアイテムボックスを共有していて、ST{スタミナ}値が減って空腹を覚えたときに、うっかり食料アイテムに手を出したのだ。
「ごめんなさいです、ご主人様。ポルテが気付いたときにはもう、いくつもぱくっといかれちゃってたです」
「別に、ポルテが謝ることじゃない。けど、女神がまさか盗み食いとはなあ」
「そ、そんなつもりはなかったのですわ! ああっ、わたくし……ここまで堕ちるなんて~~~!」
4枚になった背中の翼を落胆させ、女神が心底落ち込んだ。
本当は、金がないのは魔法武器作りのせいだがな。食料アイテムなんてたかがしれてる。
でもこれでおとなしくしてるならいいか。俺は目的の場所である、太陽のマークの看板が掲げられた建物に辿り着いた。
「あら。ここは……昨日も来た場所ですわ」
「ギルドですね、ご主人様!」
そう、ここは冒険者ギルドだ。
中に入れば、まるで教会といった造りをしている。長机が整然と並び、正面奥には白の女神を象ったステンドグラスの窓があった。
そして武器を帯びた、冒険者の風体をした連中が席について、【依頼契約】リストのウィンドウに向き合っていた。
ギルド登録者はこうして仕事依頼を引き受けて、Gやアイテムといった報酬をもらえるのだ。
……『エムブリヲ』のゲームでは気にならなかったが、こうしてみると職業斡旋所{ハロワ}みたいでちょっと嫌だが。
だから俺は昨日足を運んで、一応冒険者登録をしたものの、そのまま帰ったのだ。
楽で稼げそうな、オイシイ依頼もなかったしな。
それと……いちいちうっとうしくてな。
「……女神様だ!」
「うわ、本当に? 噂は本当だったのか……!」
「女神とパーティを組む、あれが……城で雇われた白魔道士{ヒーラー}?」
これだ。冒険者どもが俺たちを見て反応する。
王城で引き受けた依頼も、ギルドまで情報が回ってくるようで、俺のことを知ってるヤツも多いらしい。
コミュ障にはきついんだよ、これ。
だけど、今日の目的は一稼ぎすることだからな。俺は好奇の目を我慢して、ステンドグラスの下に設けられた受付に向かった。
「あらあら~。女神様と、有名人のご登場ね♪」
そこにいたのは白を基調とした修道女の格好をした、おっとりとした口調の女性だ。
冒険者ギルドは白の女神信者で運営されている、という設定だからな。
彼女、王都支部ギルド長カトリーヌもそのひとりというわけだ。
「冒険者ギルドへようこそ♪ 今日は何のご用かしら~?」
小柄ながらも泣きぼくろが大人びた雰囲気を放つカトリーヌは、NPC然としたお決まりの口調で訊ねてくる。
「【依頼契約】のリストならここで確認できるわよ~。手順の説明が欲しいかしら?」
「いや、いい。それより今日は、寄付をしに来た」
「あら。それはそれは♪ ではこちらをどうぞ~」
俺が単刀直入に切り出すと、目の前に寄付金のウィンドウが展開する。
--------------------
【冒険者ギルド寄付額】
1口 500G
--------------------
「寄付ですか、ご主人様?」
「えええ? クライが!? い、いったいどういう風の吹き回しですか!!」
後ろでポルテと女神があからさまに驚いたが、うるさいな。
「……別に、慈善活動の趣味はないさ」
言っただろうが、俺は稼ぎに来たんだ。
ちょっとした裏技を思いついて、な。
だから俺はカトリーヌから5000Gで10口ぶんの寄付金を支払った。
そう……最低10口が必要なんだよな。
「ありがとうございます、これでギルド運営もはかどりますわ♪ ……記念コインを受け取られますか~?」
「ああ」
「では、こちらへどうぞ♪」
するとカトリーヌが受付ブースから出て、俺たちを奥の扉へと誘った。
普段は鍵がかかっていて、けっして進めないその先に通される。
……やっぱり女神とポルテがついてきた。お前らは扉の外で待っててもいいんだがなあ。
「記念コイン、そういうのがあるのですね。ふふ、いいことですわクライ! こんな功徳を積むなんて、少しは改心し……あ、あら? ここは!」
「す、すごい人です!」
地下まで下りて俺たちが辿り着いたのは、華やかな大空間だった。
魔法の炎を宿したシャンデリアに照らされる中、多くの男女が一喜一憂に湧いていた。
どれもやはり冒険者だが、その装備は充実している。レア度の高い武器や鎧があちこちで目立った。
そんな彼らが興じているのは、修道女姿のギルドスタッフが提供する、ギャンブルの数々だった。
スロットマシンもあれば、カードゲームのブースがいくつもある。奥にはすり鉢状の闘技場まであり、出場者に賭けた連中が一番の盛り上がりを見せていた。
「ご主人様! ここ、もしかしてカジノですか?」
「ええーーーっ!? か、賭け事をしているのですか? はっ、まさか……クライ!?」
「見ての通りだろ。俺が意味もなく、寄付なんかするか」
簡潔に答えた俺に、カトリーヌが10枚のコインを手渡した。
「こちらが記念メダルになります。ごゆっくりお楽しみくださいね~♪」
そう。5000G以上の寄付で、カジノで使えるコインをもらえるというわけだ。
今の俺には10口払うのがやっとだが……これでいい。
後は稼ぐだけだからな!
「どういうことなのです!? せっかく善行をしたと思ったら、なんてことですか! というかギルドのあなた! 純粋な寄付じゃなかったのですか?」
「あらあら、女神様♪ ここで落とされるお金も、世界を救う冒険者たちの支援に使われているんですよ~」
「う。そ、それは……そうかもしれませんけど。でも~~~!」
「うるさいな。ほら」
カトリーヌから説明を受けても釈然としない女神に、俺はコインを分けてやった。
「文句は自分の食い扶持ぐらい稼いでから言え。4枚やる。無駄遣いするなよ」
「え、ええっ? ちょっと、クライ!? わたくし、賭け事なんてしたことは……!」
「面白そうです、ご主人様!」
ポルテが目をきらきらさせていた。
記憶のない彼女だが、こいつはNPCだからな。カジノのルールくらいすぐにわかるか。
「ポルテ。お前はシルヴィーナと一緒に、あそこのスロットで遊んでこい。それ以外のゲームはするな。絶対にな」
「はい、わかりましたです!」
スロットマシンならコイン1枚で100ポイントに換算でき、しばらくはプレイできる。
もっとも『エムブリヲ』では最も当たりの渋いゲームだから、儲けは出ないだろうがな。
でもリスクは低い。コインを使い切れば終わりだから、負債を背負わされることはない。暇つぶしにはもってこいだ。
「ほ、本当にわたくしがするのですか? えええ?」
「行くですよ、女神様っ」
ポルテが俺の命令に従って、女神をスロットマシンの方に連れて行く。
これで集中できるな。
……ハイリスク・ハイリターンの賭けに、な。
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