■特別編 火霊使いスカーレット(3)
「支度ができるまで、こちらでお待ちくださいね♪」
そう言ってカトリーヌはスカーレットを連れて去り、俺はひとり、無駄に豪華な待合室に残された。
円形のソファでくつろぐが、支度ねえ?
さっさと高レートのゲームに参加したいところだが……まあ待つしかないか。
そんなことを思って時間を潰していると、やがて奥の扉が開かれた。
やっとか、と俺はソファから腰を浮かせたが、戻って来たのはギルド長のカトリーヌではなかった。スカーレットの方だ。
しかも、その姿はあの修道女の格好ではない。
半裸だ。
なんと透けた赤い下着姿で、耳まで赤くして立っていた。
忘れてた。バトル・ルーレットの攻略は、ディーラー役のHイベントのフラグだったか!
「くそぉ……すげー怒られたぞ、姐さんにっ。君のせいだからな!」
スカーレットは恥ずかしそうにしながらも俺を睨んだ。
清楚な修道女姿ではわからなかったが、ウェーブのかかった金髪が大人びた色気を放っている。
さらに、かなりのグラマーだ。
むちっとした肉付きがエロい。胸のサイズもなかなかなものだ。
「負けたけじめに、君に奉仕してくるよう言われたんだ。こんなことあたし、初めてなのに……ううう」
「そうか。嫌なら別にいいんだぞ」
無理矢理するのは俺も趣味じゃない。
それに女に困ってるわけじゃないからな。
「するさ! 舐めるな!! あたしは、勝負にはプライド賭けてんだ! 絶対にやり遂げてみせるぜ!」
しかし逆にスカーレットは燃えたようで、扉の内鍵を締めると、俺の前までやって来た。
「じゃあ、そっちも脱げ!」
ムードも何もないが、スカーレットが鼻息荒く俺をソファに押し倒す。
そのままキスをしようとしてか、彼女の顔が迫って来たが……唇が重なる前にぴたりと止まった。
「……なあ、クライ、だったか? する前にこれだけは言っておくぞ。あたしは、体は許しても心は許したつもりはないからな!」
「俺は……楽しくヤれないなら、ヤらなくていいけどな」
「うるさい! ラッキーだけで勝った相手に、あたしが熱くなると思ってんのか!? そんなわけないだろ!」
「ラッキー? 違うな」
「へ? だ、だって、あんな魔法……」
「あの程度でどうにかなったのが、偶然だと思ったのか? 最初から計算通りだ。ああすれば確実に、黒に入ると読んでたんだよ」
「嘘だ! だってあれはどう見ても、偶然に任せたやり方でっ!」
「偶然じゃない。お前は9割以上の確率で、ボールを狙い通りのポケットに入れるスキルを持ってるんだろう?」
俺は笑う。
そもそもルーレットは、大穴の「緑」ポケットがひとつふたつあるものの、黒と赤の数が半々だ。
つまり最初から、黒か赤のどっちかが50%で出る。
そこにスカーレットが修練レベル95のスキルで、俺の賭けていない赤を狙えば……結果はほぼ100%赤になる。
「だから、少し揺らしてやるだけでよかったのさ。なにせ赤と黒のポケットは交互に配置されてるからな。赤に止まるのを邪魔すれば、隣の黒に入るのが理屈だ」
「まさか、このあたしを逆手に取ったってこと!? そ、そんな……!!」
スカーレットが息を呑み、俺から身を離した。
なんだ。結局やめるのか、と思ったら。
「そうか……あたしの、完敗だったんだな。納得したぜ」
スカーレットはブラを外すと、するりとショーツまで脱ぎ捨てた。
生まれたままの姿になり、ソファの上で股を開いた。
金色の下の毛とともに彼女の大事なところが丸見えだ。
「完敗だぜ、クライ……いいぜ? あ、あたしの、心もくれてやる」
「スカーレット……」
「あたしの胸、おかしいくらい熱くなってるんだ。それにほら、こっちもっ」
めらっ、とスカーレットは秘裂を自分の手でめくった。
そこはまるで炎のように鮮やかに赤く、それでいてぐっしょりと濡れていた。
「だから、な? クライ……あたしと、シて?」
ここまでされては応えるしかない。
俺は服を脱ぐと、ソファの上でスカーレットに襲いかかった。
「え? ひゃああん! そこ、舐めるとこじゃな……あっあっあーーー! ダメ、すごっ、クライ~~~! 熱い、熱いのっ、燃える! 燃えちゃうよーーーーー!!」
――男勝りなスカーレットだが、挿れてやれば散々かわいらしい声で鳴くのだった。
◇
「どうもご堪能できたようで♪ またのご利用をどうぞ~」
スカーレットとの熱いまぐわいの後、外から扉の鍵を開けてギルド長カトリーヌが現れる。
終わって俺が服を着た頃合いを見計らっていたかのようだ。
燃え尽きたスカーレットを残して、俺はカトリーヌの案内でひとり部屋から出された。
だがそこは、最初に下りてきたあのカジノだった。
高レートのVIPルームじゃない!
「しまった、そうだった」
初回はエロシナリオになるため、VIPルームには入れないんだった。
一見さんお断りシステムというか……そういうことになっているのだ。
2回目にチャレンジしようと思っても、あのバトル・ルーレットのブースにはもちろんディーラー役のスカーレットの姿はない。
「今日はもう無理ってことか、クソ……」
仕方ない、諦めよう。
まあコインは増やせたから、換金すればそれなりの稼ぎになるはずだ。
今回はそれでよしとしよう……と俺は帰路に就こうとしたが。
そう言えばポルテと女神は?
スロットマシンのコーナーまで進み、ふと2人のことを思い出した。
ずいぶん長く放置し過ぎたか。
コイン4枚ぽっちでは、とうに使い果たして暇を持て余しているはずだが……。
「な、なにい!?」
しかし俺の予想は外れた。
マシンの並ぶ端っこに、人だかりができていた。
【大当たりです!】
その真上に現れたのは、そんな表示だ。
そして興奮する観衆の中心から、聞き覚えのある2人の声がしていた。
「きゃーーーー! 今度はなんですの!? 7がみっつそろいましたけど、これは?」
「すごいです、女神様! 最高にツイてるですよ!」
……人を押しのけ女神とポルテの姿を見つければ、スロットマシンのポイント表示が1万になるところだった。
コイン4枚で400ポイントから始めたのだから、まさに大当たりだ!
「出たのか、スロットマシンで……こんな当たりが!」
「あっ、ご主人様! 女神様がやってくれましたです!」
「ク、クライ? これ、終わるにはどうしたらいいのですか? わたくし、まったくわからないのですけれど!?」
◇
1万ポイントを一度コインに替えてから両替すると、5万Gになった。
「ふう。やってもやっても終わらなくて、大変でしたが……わたくし、少しは稼げましたか?」
冒険者ギルドを後にして、俺の後ろについてくる女神が尋ねてきた。
こいつ、そうか。神様だから金銭感覚がないのか?
「はいです、それはもう! 大したものですよー!」
俺の代わりに、一緒にいるポルテが応えた。
確かに1Gは100円くらいの感覚だからな。5万Gは500万円だ。
……俺がルーレットで稼いだぶんより多いぞ。
「そ、そうなのですか? やりましたわ! ふふん、どうですかクライ! わたくしもたまには役に立つでしょう?」
「そうだな」
ドヤ顔がむかつくが、まあいいだろう。
今回女神は、それくらいの働きはした。そこは認める。
が、「あら」と女神が目を剥いた。
「クライが、素直に褒めた? まあなんてことでしょう! わたくし、感激です!」
「……うるさいな」
「あの、ところで……これで例の件は帳消し、でいいですわね? ね?」
「ん? なにがだ」
「ほら、あれですよご主人様。女神様の盗み食いのことです、きっと」
ぴんとこなかった俺に代わってポルテが言う。
あああ、と街中で慌てたのは女神だ。
「やめてください! 盗むだなんて、そんな言い方は~~~! ちょっとした不可抗力だったのですわ、あれは!!」
そんなこともあったな、と俺もようやく思い出す。
女神は心底恥じているのだろう。背中の翼を折りたたみ、身をよじらせて悶えている。
「…………。そう言えば誰かさんが食ったせいで、食料の数が足りてないんだよな」
「はうっ!? で、ですからクライ……もう許してくださあぁぁい!」
「これから道具屋に行くぞ。食料アイテムを調達する。女神の金でな」
俺はこっちだと足を向けた。
もちろん2人がついてくる。
「一応、何を食べたいのかお前たちのリクエストを訊いてやるぞ」
ついでにそう声をかけた。
どうせ大した食料は売ってないからな。それに買い込みすぎても腐るだけだから、こだわりはない。
参考にしようと思ったのだが。
「ご主人様、お優しいです! ええと、ポルテはまんまるキノコがいいです! あれおいしいです!」
まんまるキノコ……あれ、ST値の回復量が少なすぎるんだよな。
あんまり買う気ないんだが……。
「で、シルヴィーナは?」
「わ、わたくしですか? わたくしは、そうですね。なんでもいいというのでしたら、ほら。蜂蜜酒{ミード}がいいですわ!」
「なに?」
「ご存じないですか? 神殿への供物で呑んだことがあるのですが、甘くてとっても美味なのです! は~、またあれを呑んでみたいですわあ」
恍惚の表情を浮かべる女神だが、俺は顔を引きつらせていた。
酒って、呑めば【酩酊】状態になるし……そもそも蜂蜜酒{ミード}は高価すぎた。
ST値の回復量とGが釣り合わないんだよ!
……絶対買わないでおこう、と心に誓う俺だった。
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