■エピローグ
「う、うーーーーーーん……ふわああああうっ、よく寝ましたわあああ。あらっ?」
のびをしてようやく起きるのは、ふかふかのシートでずっと眠りこけていた白の女神シルヴィーナだ。遅れて揺れる車内に気付き、ぽかんと大口を開ける。
もう一夜明け、外は明るい。馬車が走るのは王都の中ではなく、ずっと南の街道だった。まだ暗い内からアンジェリカに用意させた馬車に乗り、お祭り騒ぎで開いたままの城門から街を出たのだ。
「えええ、どうしてですかあっ? わたくし、お城でお酒を楽しんでいたはずでは!?」
「うるさい。ただ旅に出ただけだ。黙ってろ」
向かいの席に寝転んで休んでいた俺も、女神のわめきで起き上がった。
「クライ! あなたですね、わたくしが寝ている隙に、馬車に連れ込んだのは! いったい、なぜ?」
「……別に連れてきたくはなかったんだけどな」
パーティに入っているから、どうしても女神だけ置いていくことができなかった、というだけだ。いきなり馬車で王都から逃げ出したのは事実だが。
「あ、目が覚めましたか、女神様!」
酩酊していた女神を引きずって馬車までやって来たポルテが、御者席の小窓から顔を覗かせる。
「イオリさんからもらった薬が効いたですかね~。二日酔いはないですか?」
「あら、そう言えば……目覚めはすっきりですわ!」
「ご主人様がもらってきてくれたですよー。出発前に、口移しで呑ませたです!」
「はひっ? ……ク、クライ~~~~! どっ、どういうことですのおお?」
「いちいち騒ぐな」
余計なことをと俺は思ったが、事実だ。
確かに……女神との口づけは悪くなかったな。単にまた二日酔いになられたら鬱陶しいから、ついでに薬師イオリに飲み薬をもらっただけだがな。
本当は爆裂草の種とか、もっと補充しておくべきものはあったのだが、そこまで手は回らなかった。急いで王都を出る必要があったからだ。
……さすがに、ちょっとやり過ぎた。
たぶんそろそろまずい事態に、と思ったときだった。
【白魔道士{ヒーラー}クライに賞金がかけられました】
馬車の中に突如、そんな表示が現れた。
ポルテが思わず馬車を止め、女神も「は? え?」と目を見張る。
「やっぱりか」
俺は溜息とともに詳細を呼び出した。
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【賞金情報】
対象者:白魔道士クライ
依頼主:ウェスタ王国プリンセスメイデル
条件:生存したまま確保し、依頼主に引き合わせること
賞金額:1000000G
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「……姫からの通達ではないですか? あなたいったいなにを、クライ~~!」
「最後まではシなかったんだけどな」
昨夜、結局俺は姫の後ろの穴を堪能して終わった。
だがそれでも、一国の姫とのまぐわいは予想外の展開となったのだ。
「クライ……余の伴侶となるがいい。さすればこの国は、そなたのものであるぞ」
疲れ果てて寝落ちする寸前、メイデル姫がそんなことを言ってきた。
だから、逃げてきたのだ。
「王様エンドだ」
俺はぼそっと呟いた。
「あのまま王都にいたら、国王にされていた。冗談じゃない。そういう流れもあるとは聞いていたが……」
これは『エムブリヲ』の強制エンディングのひとつだ。
ゲームクリアではなく、ゲームオーバーという形のな。俺は選んだことはないが、国の英雄となることで王族と婚姻し、冒険者としての生が終わるのだ。
その場合、勝手にゲームがリスタートされ、転生から始めることになる。
せっかく英雄にまで育てたユニットも台無しだ。白魔道士{ヒーラー}ではなく別の職種{ジョブ}でやり直せるならありだが、今の『エムブリヲ』で転生できるのは、チート職の勇者くらいだろう。俺が無事に、この世界に戻ってこれる保証はない。
「ともかく、メイデル姫に気に入られすぎた。俺はもっと好きに生きたいからな。捕まる前に王都を出たんだ」
「それで、わたくしたちも一緒に……あら、でも。マリアは?」
はたと女神が、ここにもう1人いるべきパーティの一員を思い出す。
「……あいつはもう、パーティに入ってない」
俺は1通のメッセージを展開させた。それはアンジェリカ経由で手渡されたものだ。
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クライくん、ゼロとの戦いでは手を貸してくれてありがとう。
でも、ここからは別行動を取ろうと思います。
というのもあの戦いで転生したせいか、パーティからアタシは自然と外れてたので!
アタシには使命があります。
1日でも早く、あのゼロを倒してふん縛らないと、帰ることができません。
勇者としてこの世界を救ってみせます。
そのためには、悠長なことはしてられないのです。
だから一足先に動き出しますね。
とにかくゼロの尻尾を捕まえないと。
クライくんもゼロを追うなら、また会えるかもだね。
追伸。クライくん、ちょっと女の子に手を出しすぎ!
あんまりアタシの作ったキャラとHなことしないよーに!
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一度死んで転生したあの瞬間から、マリアは俺の支配下から逃れていたのだ。
「マリアったら……わたくしたちとともに、行動してもよかったのに」
目を通して女神が残念そうに眉根を寄せた。はっ、と俺は鼻で笑う。
「目的が違う。あいつはゼロに固執してるが、俺は違うぞ。楽しめればそれでいいし、邪魔をするなら排除するというだけだ」
「クライ! でも、あなただってあのゼロには……」
「知るか。ポルテ、ほら。いいから次の国へ行くぞ」
「はいです、ご主人様っ」
俺が小窓を叩いてせかせば、御者席のポルテが手綱を操り、再び馬車を走らせた。
目指すは遙か南にある、湾岸都市だ。そこから船を使って大海原に出ることができる。
『エムブリヲ』序盤の、こんな地でうろうろしているのは性分に合わない。
さっさと広い世界に繰り出すのがいい。だが、それまではまだかかる。
「おい、シルヴィーナ」
「はい? なんですか」
「膝枕しろ。もしくは、乳枕でもいいぞ」
「ど、どちらもしませんわ~~~~!」
俺は女神をからかって気晴らしをしながら、ごろりとシートに横になった。
そのままうとうとと惰眠を貪り……。
◇
夢の中、思い出すのはあのゼロの仮面だった。
数字の「0」と歯車を掛け合わせた、企業のロゴだ。
(あれは……)
ヒキコモリ生活をしていた俺は、ネットの海で見かけたものだと思っていた。
それ以外に思いつかなかったが……今、鮮やかにフラッシュバックする。
それは脳裏に焼き付いた、リアル世界で最後に見た光景だ。
(な、に?)
夜の住宅街で俺は、死んだ。
さまよっていたところをいきなりトラックに轢かれたのだ。
一瞬で視界は朱に染まり、吹っ飛び、掠れていく。
ほんのわずかな記憶である。思い出したくもないクソみたいな出来事だった。
この直後、俺は転生を果たし、この『エムブリヲ』世界へとやって来るのだが……。
(嘘、だろっ?)
俺はようやく思い出した。ゼロの仮面につけられていたのと同じロゴマークが、なんと俺を撥ねた車輌の正面にも刻まれていたのだ。
見間違いなんかじゃない。今はっきりと、見覚えがあった理由に気付く。
これだったのだ。
(……ちょっと待てッ!)
◇
「っはあ!」
俺は馬車の中で飛び起きていた。
「ふえ? ど、どうしたのです?」
同じように向かい側のシートでまた寝ていた女神が、びっくりして転げ落ちるところだった。
馬車は動いていない。外はすっかり夜だった。
馬を休める必要もあり、ポルテが街道脇で馬車を止めたようだ。
そのポルテは小窓の向こうで、毛布にくるまって寝ている。
他に変わりはなく、俺は白ローブの前をはだけて、汗だくになった体を少し冷やした。
「もー、なんです? 怖い夢でも見たのですか、クライ?」
「……ああ」
「えっ。あら、ふふ……大丈夫ですよ」
女神が俺の側にやって来て、腕と翼で俺を抱いた。
「クライもやはり人の子ですね。怖いものがあるなんて」
「…………」
女神のぬくもりは心地よかった。落ち着いてくる。
しかし、どういうことなんだ? 俺を轢いた車は、ゼロと関係があるということか?
だとしたら俺は計画的に、この『エムブリヲ』の中に連れてこられたことになる。
その割にはゼロも、俺のことを意識していなかった。
わからないことだらけだが……。
「クライ? まだ怖いですか?」
「いや。慰めてくれよ」
もにゅっ、と俺は手を伸ばし、女神の巨※を揉みしだいた。
「はあんっ! な、なにを……クライ!?」
「やはりすごいな、シルヴィーナの胸は。他の女たちも揉んできたが、これが一番だ」
余るほど大きいのに、手のひらに吸い付いてくる。
一心不乱に揉み続ければ、女神も感じてきたようだ。はっはっと呼吸が荒くなり、身悶えして瞳を潤ませる。
「ご主人様……? あー! ず、ずるいですう!」
やり過ぎてポルテが目を覚まし、慌てて馬車内に駆け込んできた。さっそく革の胸当てを外し、つるぺたの胸を晒した。
「ポルテのも触るですよ。……女神様と比べられると、その、勝てないですけど……」
「遠慮するな、ポルテ。貧乳には貧乳のよさがある」
もちろん俺は遠慮なく、空いている方の手でポルテの控えめな乳※を掴んだ。
「んっ、んんんっ、ご主人様あ~~~!」
「ちょっと、なんですのこれはーー! クライ、あなたって人はっ?」
「知ったことか。俺は好きに生きるだけだ」
本当にこの世界は、マリアの言ったようにゲームなのか?
その確証だって本当はない。なら、せいぜい楽しむだけだろう。
だが……もしかしたら真実をあのゼロが知っているかもしれない。
やっかいな相手だが、負ける気はしなかった。むしろもう一度接触してくるようなら、今度こそ叩き潰してやる。
この俺の、最高に楽しい転生生活を守るためにもな。
「はあ、はあ。ご主人様あ、もっとお~♪」
「い、いつまで揉んでいるのですか、クライー! はああああああああん!」
黒堕ち白魔道士は解放禁呪で女神を穢す ~就職氷河期世代の俺が転生してヤりたい放題~ ひびき遊/ファミ通文庫 @famitsu
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