■第4話 魔法武器職人レイ (1)

●1


 俺が騎士隊長ゴルドラに勝利し、一夜明けた王城の中は、コミュ障の俺には居心地が悪くなっていた。


「ほら、あれが白魔道士{ヒーラー}様よ」

「あの人が? 本当に?」


 城内のどこを散策しても、すれ違うメイドたちが俺を見て噂する。


 しかし騎士隊長を倒した話よりも、薬師イオリの変わりようの方が興味の対象であるようだ。


「あんなに人を変えるなんて、いったいどんな魔法を……!」

「……あの方に抱かれたら、私もイオリ様のように美しくなれるかしら?」


 メイドたちの誰もが頬を染めて、熱っぽく見てくる。


 どうもイオリがそこかしこで俺との情事を話したようだ。あいつめ……!


 ……たぶんメイドに声をかければ、エロイベントに突入できるだろう。

 有象無象いる使用人だから、攻略難易度は低かったはずだしな。

 でもな、俺にそんな器用なマネができるか!

 コマンド画面に【セ※※スする】とか出てくれれば選択するが……。


 今朝から大臣どもを集めて、俺への依頼の詰めをメイデル姫が話し合っている。

 俺も出席するよう誘われたが、ポルテと女神に押しつけてきたのだ。


 好き勝手やってるときは気にならないが、注目されるのは苦手だ。

 それにどうせ依頼は姫の一声で承認されるのは確定している。報酬が多少調整されるだけだ。俺がいてもいなくても大差ないだろう。


 だからこうして暇つぶしに、途中までだった城内散策の続きをしていたのだが……部屋に1人でいた方がマシだろう。

 そう思い、あてがわれた城の豪華な部屋へと戻ったときだ。


「クライ! よかった、ここにいたのね」


 そうこうしているうちに会議が終わったらしい。


 出席者の1人である王国騎士のアンジェリカがノックをして、いきなり部屋に現れた。

 その顔は晴れやかだ。


「キミへの依頼、正式に契約されたわ。私が伝えるよう言付かったの。ほら」

「なに?」


 彼女は何やら書簡を持っていた。それを開くと、いきなり輝き空中で文字を刻む。


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【依頼契約】

履行者:白魔道士クライ

達成条件:ウェスタ王国領域にいる邪神勢力のボスの撃破

成功報酬:5000000G+プリンセスメイデル×1

依頼署名:プリンセスメイデル

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【契約は結ばれました】


「……おい、なんだこれ?」


 内容をよく見て俺はぎょっとした。

 報酬金額が5000万G{ゴールド}から500万Gに下がっている、のは仕方ないにせよだ。


 減額分を補う形で追加された報酬が、メイデル姫本人だって!?


「驚くのも当然よね。大臣たちもこぞって反対したんだけど、姫様が譲らなくて。『4500万Gぶんの価値があるのは余の体だけだ』ってさ」


 アンジェリカが苦笑した。


「後押ししたのは隊長よ。皆の前で『姫の意に逆らう者はおらぬよな?』って、一睨みで黙らせてしまったわ。あはは、昨日までとは大違いよね」

「あのゴルドラが? へえ」


 よほど俺に負けたのが効いたのだろう。


 しかし、そういうことか。『エムブリヲ』はR18仕様だからな。

 ウェスタ王国は比較的安全な国だが、その危機を救うことこそが攻略難易度最高位の姫とセックスできる条件、というわけだ。

 確かにそれは、誰も攻略できないはずだ。


 『エムブリヲ』ではプレイヤーが最初に訪れる大きな街であるために、この王都が魔物に襲われたことはない。

 邪神勢力が活気づいたのは、俺が白の女神を堕としたせいだ。


 つまり依頼をこなせば、俺がプリンセスを初めて攻略した男になる……?


「まったく、姫様のお心さえも掴むなんて……私なんかじゃ敵わないわね」


 だが俺は目の前の女騎士が複雑そうな表情をしたのに気付いた。


「アンジェリカ?」

「……薬師のイオリ殿とも、その、懇ろになったようだしさ。さすがは私の見込んだ男だわ」


 そうだった……俺が会議に出なかった本当の理由は、アンジェリカに合わす顔がなかったからだ。

 イオリと寝たことを知って、彼女がどういう反応をするか見たくなかった。初めて抱いた女に嫌われるのが嫌だったんだ。


 どう弁解すればいい?


「いいの、クライ」


 けれどもアンジェリカが笑った。


「キミが、魅力ある男なのは私も十分わかっているもの。むしろ他の娘が放っておかないわ。姫様までもがあんなことを言い出すとは思わなかったけどさ……」

「アンジェリカ……」

「でも忘れないでよね! わ、私が……キミの、初めての相手なんだからっ」


 ふいにアンジェリカが俺に身を寄せ、キスしてきた。

 唇と唇が軽く触れ合うだけのものだが、彼女は顔を真っ赤にする。


「やっぱり、好き。クライ……」


 かわいいなこいつ……俺の股間が勃起した。

 俺は即座にアンジェリカの腰を抱き寄せていた。


「あっ。クライ?」

「鎧、脱がすぞ」

「えっ? ダメ……私、この後も仕事が。これから街に出ていかなきゃだし……」

「抱き足りない」


 わずかに抵抗を見せたアンジェリカだったが、欲望のまま耳打ちすると向こうから抱きついてきた。


「私も、ずっと、また抱かれたかったの……クライ~~!」


 甘えた声を出す口を、俺は舌を絡めたキスで黙らせる。

 やっぱりエロい! 気持ちいい!

 ぴちゃぴちゃといやらしい音を立てながら、俺たちは夢中になって延々ディープなキスを堪能した。


 城に来てアンジェリカと再会してから、俺は彼女との2回戦の機会を窺っていた。

 なにせ『エムブリヲ』では2回目、3回目のエロCGが用意されているからな!

 要は一度関係を持った相手となら、簡単に新しいHイベントが楽しめるというわけだ。


 ただ、残念ながら毎日騎士としての仕事に追われる彼女に、2人きりで接触できる隙がこれまでなかったが……今がそのときだ。


 キスしながら、かちゃかちゃとアンジェリカが鎧の金具を外していく。俺も着ていたローブに手をかけた。

 そのまま2人でリビングから、ベッドのある個室へと移動していく。


「なっ、なんですか!? ええっ、あなたは……!」


 しかし突然そんな声が上がり、俺たちははっとした。


 部屋の扉を開けて入って来たのは、なんと女神シルヴィーナとポルテだった。


「女神様!?」


 慌ててアンジェリカが俺から離れて、外れかけた鎧を直す。


「ご、ごめんなさい……お目汚しを。失礼します!」


 声をかける間もない。耳まで赤くなった彼女は、脱兎のごとく出て行った。


 だがアンジェリカ以上に赤面していたのは、立ち尽くす女神だ。


「クライ!? いったいこれはどういうことなのですか? 今の、アンジェリカでしたわね? なんてマネを!」

「……うるさいな」


 俺は大不機嫌だ。せっかくいいところだったのに!


「わたくしの耳にも入っていますわよ! 薬師の、イオリとのこと……! それだけでは飽き足らず、今度はアンジェリカですか? ところかまわず発情して……いけませんわ! まあ、今回は未遂で終わったようですけども」

「ん? あー」


 イオリの件はともかく、女神にはまだアンジェリカとの関係はばれてないのか。

 面倒になるからこのまま知らせないでおこう、と思ったのだが。


「アンジェリカさんとご主人様は、神殿でとっくにシてたですよ?」

「……え? な、なんですって!?」


 ポルテが悪びれることなく告げた。

 女神が固まる。


「神殿でって……わたくしの神殿で、その、いたしたのですか!? 男と女の営みを……?」


 そうか、こいつ。

 【酩酊】状態で寝てしまったから、覚えてないんだな。


 でもポルテはこっそり俺たちの様子を窺っていたようだ。


「はいです。ずっこんばっこんです」

「ず、ずっこ……!」

「セ※※スですよ」

「ポルテ、口を閉じてろ」


 俺が注意し、ポルテがまずかったですか? という顔で黙ったが、もう遅い。


「クライ~~~!! あなたという人は……なんて罰当たりなのですかあっ!」


 白の女神シルヴィーナの説教が始まった。やれやれ……。

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