黒堕ち白魔道士は解放禁呪で女神を穢す ~就職氷河期世代の俺が転生してヤりたい放題~
ひびき遊/ファミ通文庫
■プロローグ
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名前/種族:クライ/ダークロード
年齢/性別:22/♂
ジョブ/ランク:高位黒魔術師/SSS
LV/属性:256/闇
HP:5602(△950)
MP:7870(△1520)
ATK:905(△225)
DEF:1300(△740)
MATK:6350(△1610)
MDEF:4540(△880)
AGI:656(△200)
LUK:430(▼350)
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これがMMORPG『エムブリヲ』内での、ただ1人に許された「最強称号{ランクSSS}」の高位黒魔術師{ハイ・ソーサラー}たる俺のステータスだ。
『エムブリヲ』とは「繭」を意味するその名のとおり、巨大な繭型空間内に作られた異世界に召喚されて、邪神を倒すための冒険に出るゲームだ。
しかし冒険者は「不徳{カルマ}」を積めば邪神側に立つこともできる。
召喚主の女神に従い、冒険を続けるのか……あるいは邪神の手先として冒険者たちの敵に回るのかを自由に選べるのが売りである。
だがどちらにせよ、序盤を過ぎたあたりから一気にハードモードになり、大抵のプレイヤーはあっさりと殺されてしまう。
……ここからが『エムブリヲ』の本領発揮、「課金転生」の出番だ。
職種{ジョブ}だけは最初に召喚されてきたとき同様ランダムだが、課金すれば経験値に当たるCP{コストポイント}の半分と装備アイテムを引き継いで転生できる。
無課金ならそういったボーナスは0だ。
というわけで『エムブリヲ』は課金プレイが前提となり、多くの無課金連中が脱落していくが、クエスト攻略で「Hイベント」が見られるR18仕様のおかげか新規プレイヤーが途絶えない人気作だった。
そこでの俺、高位黒魔術師{ハイ・ソーサラー}クライは伝説級の冒険者だ。
なにせ課金転生を数百回は繰り返して、CP{コストポイント}を貯めに貯めてレベル上限{カンスト}の極みに達し、課金強化したレアアイテムをこれでもかと装備している。一部「呪い」もかかっているため、運気{LUK}のみ▼{マイナス}なのはご愛敬だが。
その装備アイテムを狙って他のプレイヤーに襲われることも多かったが、たった1人でことごとく撃退してきた。
ついたふたつ名は「無双の独り魔術師」、「最凶廃人」、「暗黒狂」など数知れない。
◇
だけど現実世界の俺ときたら……39歳になっても魔法ひとつ使えない「無職童貞ヒキコモリ」だった。
唯一の生きがいは『エムブリヲ』だけだ。
……超就職氷河期世代、と言えばわかるか?
俺は人生に失敗した。
4年制大学を卒業し一度は就職したものの、そこは超ブラック企業で心と体を壊して辞めた。
もともと人付き合いが得意じゃない、「コミュ障」気味だったというのもあるが……。
以来、ゲームだけが俺のすべてだった。
それ以外にやれることなんてなかった。
なのに、終わりは唐突にやってきた。
「うわっあああああああぁあああああ!?」
いつものように『エムブリヲ』にログインしていると、PC画面がぶつんと真っ暗になった。
電源が落ちたのだ。
PCクラッシュではない。ゴミの山がひしめくアパートの部屋の、エアコンも止まっていた。
「なん、で……」
電気が来てない。
このときになって俺は、玄関ドアの郵便受けからあふれ出た郵便物の中に、電気料金の督促状があったのを見つけた。
支払いが滞ったせいでこうなったらしい。
それは銀行口座にあった、親の遺産が枯渇したことを意味していた。
いつか来ると思っていた日がついに来たのだ。
……両親は、俺がヒキコモリを始めてすぐに死んだ。
事故死だ。
唯一の頼れる相手をまとめて亡くし、俺はヒキコモリから抜け出すきっかけさえも失った。
以来、俺はこのアパートでずっと独りだ。
友人? 大学時代に何人かいたが、今どうしてるかわからない。
親戚だって、親の葬式以来10年以上会ってない。
もう、どうしようもなかった。
ゲーム内の俺の所持金はゆうに1億G{ゴールド}を超えている。
所有するレアアイテムを売れば、さらにその何倍にもなるだろう。
でも現実世界ではGは無価値だ。課金で増やせても逆は無理で、電気料金の代わりにならない。
俺は日が落ちて薄暗くなっていく部屋の中で、フケだらけの長い髪の毛をくしゃくしゃに掻き回した。気が狂いそうだった。
ゲームができない。ゲームができない。ゲームができない!
最悪に惨めだった。
「俺、は……」
夜になり、俺はよれたスウェット姿のままふらりと部屋を出る。宅配便が来たとき以外開けることのなかった玄関ドアを開き、外に出た。
履かずに放置してあった靴を探すのもおっくうで、裸足のまま俺は夜の住宅街をさまよった。
遅い時間帯のせいか、他に誰の姿もない。中央線のない道路を時折車が走っていくだけだ。
「……俺は、どこで、間違ったんだ……」
薄暗い街灯の並ぶ下をあてもなく歩きながら独白する。
どうしたらよかったんだ?
どうすればやり直せたんだ?
一度ドロップアウトすれば、この社会はもう二度と復帰できないクソ仕様だ。
だから俺にヒキコモリ以外の選択肢はなくて……!
「あああああ、ゲームなら、『エムブリヲ』内でなら……俺は最強無敵なのにいっ!!」
狭い道路の真ん中で、俺は真上に浮かんだ月に向かって吠えていた。
だから横から強い光を受けるまで、猛スピードでやってきたトラックに気付かなかった。
あっ! と思ったときには、俺の視界が真っ赤に染まる。
衝撃と、骨が折れて肉の潰れる音がした。
俺は太いタイヤに巻き込まれ、踏み潰されたらしい。痛みを感じる暇もなかった。
最後に、意識が真っ暗な闇の中へと落ちていき……。
◇
これで終わりか。
俺が闇の中で思ったのはそれだけだ。
皮肉なものだ。俺の両親もトラックに轢かれて死んだ。
でも後悔もなければ、安堵もない。それが無に帰すということだろう。
……そのはず、だったのだが。
『おお、クライよ。死んでしまうとは情けない』
突然、声がした。
若い女性の声だった。そう思ったとき、俺は自分の意識がいつしかあたたかな光の中にいたのに気付く。
これは……!?
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