■第3話 薬師イオリ (1)

●1


【5hの休息を取りました。HP・MP完全回復です】


 そんな表示とともに俺は目を覚ました。


 そのたびに実感するのは、やはりここが現実ではなく『エムブリヲ』だということだ。

 ただし今回は同時に、座っていた馬車の揺れを感じた。


「ん……」


 そうだった。俺は西方王国の騎士たちが手配した馬車に乗り、神殿を後にしたのだ。

 その席でいつしかうたた寝してしまったらしい。


 馬車の乗り心地が意外とよかったせいだろう。

 6人が向かい合わせで座れるほどの、それなりに豪華な大型の馬車だ。

 それに、神殿から続く山道がきちんと整備されていたおかげもあるか。


「もう霊峰を下りて来たのか」


 俺は馬車の窓から外を見て、青空にそびえる灰色の岩山を捉えた。

 あの中腹に白の神殿があったはずだ。


 あそこで転生を果たした冒険者は通常、山道を使わない。

 こんな馬車でもなければ遠回りで無駄に時間がかかるし、途中で山の中を抜けるダンジョンがあるからだ。

 内部の構造が毎回変わるランダムダンジョンだが低難易度で、ある程度の基本的なアイテムやG{ゴールド}を得られるため、何度転生してもまずダンジョンを通るのが定石だった。


 しかし神殿で山賊どもを退治して、10万Gの報酬を得た俺には必要ない。

 岩山の麓にある、普通は最初に立ち寄る小さな村さえ通り過ぎて、馬車に揺られて真っ直ぐに西方王国の王都を目指していた。

 必要な装備は王都で買いそろえればいい。


 もっとも今回は、俺のぶんだけでは済まなそうなのが問題だが……。


「くー……くー」


 俺の隣でツインテールの栗毛を揺らして船をこぐのは、ドワーフ族のポルテだ。

 女神による転生が前提となるこの『エムブリヲ』で俺が蘇生魔法で生き返らせたNPCなせいか、自動的に俺のパーティに入っていた。


 ソロプレイを好む俺としては慣れないが、まあいい。

 最低ランクの白魔道士{ヒーラー}の身だからな。

 自分を守るためにも、盾となる前衛は1人くらいいてもいい。


 ……だが、問題はそのポルテではなくてだな。


「はふぅん……もう、食べられ、ませんわ~~……」


 向かいの席でやわらかなシートに横たわり、なにやら寝言を漏らしたのは、白いドレスに身を包む絶世の美女だった。

 勝手についてきた白の女神シルヴィーナである。


------------------------------

名前/種族:シルヴィーナ/神

年齢/性別:――/♀

ジョブ/ランク:白の女神/――

LV/属性:――/光

HP:――

MP:――

------------------------------


 空中にウィンドウを呼び出してパーティ編成を確認すると、そんな情報が別の小窓で表示された。

 いろんな数値が非表示で、攻撃力{ATK}や防御力{DEF}といった項目はそもそもない。

 つまりイベントで強制的に仲間になった、戦闘には出せない特殊NPCというところだろう。


 それでいて……女神は食う。


 相変わらずST{スタミナ}値だけは数値化されていて、山道の途中で昨夜は野営したのだが、しっかり一食分食べやがった。

 HPが非表示だからST{スタミナ}が尽きても、もしかしたら死なないのかもしれないがな。

 でも空腹でわめき続けられるのは勘弁だ。


「……脱退イベントがないと、パーティから外すのは無理か」


 ポルテは編成から外そうと思えばできるが、女神の編成画面にはその選択肢が現れない。

 いちいちうるさいのでうっとうしいが、しょうがない。


 少なくとも目の保養にはなるか。

 俺は仰向けに寝返りを打った女神の胸で、ふよんと弾んだ巨※に見入った。

 相変わらずすごいな。なんだあれ。


 俺はもう女の体を知った。張りのあるお※※いもしっかり堪能させてもらった。今思い出してもあの感触が鮮やかに蘇り、股間が硬くなる。

 それでも、女神の胸は圧倒的だ。


 ……そう思っていたときにはもう、俺は腰を上げて女神に近づき、そのお※※いに触れていた。

 やっぱり、とんでもなくやわらかいぞ。


「ん、はっ……あっ、んんっ?」


 まさに魔性の巨※である。

 揺れる馬車のリズムに合わせて、白いお※※いが手の中で勝手に蠢く。

 その胸元に刻まれた淫紋が、肌の火照りに合わせていっそう赤く浮き上がった。


 エロいぞ、この女神め。

 俺の愚※もガチガチだ。


「あっ、いやっ、はあん! ……えっ、な、なんですか!? クライ!」

「あうー……。ご主人様、おはようございますです」


 さすがに女神が目を覚まし、その声でポルテも起きた。

 だからどうした? 俺は気にせず巨※を揉み続ける。


「ああんっ! ちょっと、わたくし女神ですわよ!? それなのに、こともあろうか寝込みを襲うだなんて……はううんっ! やっ、もおっ、ダメえ……!」

「そうか? 体は喜んでるみたいだぞ」


 はは、まさか俺がこんなエロ漫画みたいな台詞を吐くとは。


 だが女神は瞳を潤ませて喘ぎ、股間を押さえてもじもじしていた。

 また胸を揉まれただけで濡れてしまったのだろう。

 もしかしてこのまま本番までいけるか?


 ……いや、女神の貞操は「この世界を救う」という契約の報酬になっている。

 ゲーム上だと、契約が果たされるまで報酬は保護されるシステムだが……でもこれ、どうやって俺を止めるというんだ?

 というか胸を揉みまくるのがOKなら、どこまでの行為まで許されるのだろう。


 俺は興味本位で女神の※所へと手を伸ばした。


「はうっ!? クライ……まさか?」


 さすがに女神が青ざめたが、片手で胸を揉み続ければ、それだけで抵抗は弱まった。

 ついに俺の指先が湿った下着に触れる。

 びくん! と女神が大きく仰け反り……。


 だがそのとき、ポルテが後ろから俺にのしかかった。


「うらやましいです、ご主人様。ポルテももうちょっと胸があれば、お相手してもらえるですけれど」

「ポルテ? お前、なにを」

「ご主人様あ。やっぱり、ポルテじゃダメなのです?」


 身を寄せてきたドワーフ族の少女が、革鎧の胸当てを脱いでいた。その下の服のボタンを外し、小さな※房を露わにする。

 さすがドワーフ族……完璧なまでにツルペタだ。

 膨らんでいるようで膨らんでおらず、ブラも着けていなかった。


 しかしぷっくりとした薄紅色の※首は、ちゃんと女を主張している。

 背徳のエロスにいきり立っていた俺のモノがぞくぞくした。


 そうだ、俺はもう童貞じゃない。

 いろんな女を経験してもいいんだよな?


 そう思ったとき、俺の初めての相手である女騎士アンジェリカの顔がよぎった。

 ……ぎくりとしたのは罪悪感からか?

 別に操を立てているわけじゃないんだが、萎えてきた。


 アンジェリカは俺たちと行動をともにしていない。

 馬車を仲間の騎士に任せて、一足先に愛馬を駆って王都へ向かった。神殿での出来事の報告をしに行ったのだ。


「失礼します! 王都の城門が見えてまいりました!」


 ふいに馬車の小窓がノックされ、その向こうから御者席に座る男の騎士が告げてきた。


 女神に敬意を示してか、中を覗き込んでくる真似はしなかったが、コミュ障の俺の手が止まる。

 その隙に女神がするりと身を離した。背中の翼も使って、乱れたスカートの裾を直す。


「終わりですか? 残念です」


 ポルテも空気を読んで胸当てを拾った。


 確かに、いつしか窓の外の風景が変化していた。

 広がるのは赤い穂をつけた農地だ。

 その中を通る道も幅が何倍にもなり、他の荷馬車がすれ違う。


 そしてそそり立つ白い城壁が見えてきた。


「あれが……!」


 俺は馬車の窓を開け、つい身を乗り出して王都の姿を確認する。

 すごい。ゲームでは俯瞰で見ていた城塞都市が今、リアルにそこにそびえているのだ。

 頑健そうな城壁の高さはゆうに10メートルを超えるか。それが巨大な都市をぐるりと取り囲んでいた。圧巻だ。


 ウェスタ王国は神殿のある霊峰の西方に位置する、多くの兵士を抱える軍事国家だ。魔物討伐のため周辺国に兵を貸すことで経済が成り立っている、という設定だったはず。

 その王都の守りは堅く、治安も保たれていて、ゲーム序盤で拠点にするには好都合な都市だった。


 城壁の前には深い堀が作られていて、馬車はその上の橋を渡り、開かれた正門の前で一時停車した。

 鎧姿の兵士たちが検問し、すぐ敬礼とともに見送ってくれた。

 王国の馬車だとわかったのだろう。


「……わたくしの像ですわ!」


 石造りの建物が整然と並ぶ街に入れば、まずは巨大な広場に出た。

 その中央には噴水が設けられ、豊満な胸を抱きしめる美しき女神シルヴィーナの石像があしらわれていた。

 この国全体が白の女神を信仰するのだ。


 立派な6枚の翼があしらわれた等身大の像を見て、女神がふふんと胸を張った。


「誰かさんと違って、神を敬う立派な国です! ……いいですかクライ、先ほどのようにわたくしに不敬な行為をすると、ここでは大問題になりますわよ!」


 エロい真似はするなってことか。


 確かに街の治安度が高いと、ちょっとしたことで衛兵が飛んでくるからな。

 この国でクエストをこなすなら面倒ごとは避けるのが得策か。


「はいはい」

「はい、は1回ですわ!」


 こいつ、急に偉そうになったな。


 しかし……こうなると女神に手は出せなくなったが、あれ?

 もしかしてこれがシステム上での制限か?

 女神と本番行為をしようとすると、なんだかんだと邪魔が入るようになっている、とか。


「なんですか、ご主人様?」


 俺はついポルテを見た。

 俺に隷属するとはいえ、こいつもNPCだからな。

 さっき急に迫ってきたのも、システム的に女神を庇うためだったのかもしれない。


 ……今度は女神と2人きりになったときに改めて襲ってみるか。

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