■第2話 王国騎士アンジェリカ (5)

●5


 礼拝堂には長椅子を集めて作った寝床はあるが、中庭から丸見えだ。


「クライ……あのね、キャンプを張らせてもらっていい?」

「キャンプ? ああ」


 俺が了承するとアンジェリカが、空中に【その他】の項目を呼び出して【キャンプ】を選択した。

 すると広い礼拝堂の中に出現したのは布製の壁だった。


 面白いな。確か陣幕とかいう代物だ。

 【キャンプ】はダンジョン内で休息するとき展開するものだが、パーティ人数によってテントが大きいものに変化した。より大勢を収容しようとするとこんな感じになるのだろう。

 とにかく礼拝堂全体を見事に外から見えなくした。


 そしてアンジェリカが自分の装備に手をかけた。

 剣やひしゃげた盾を床に置き、着込んだ軽鎧{ライトアーマー}の装甲ひとつひとつを脱いでいく。


「……いい? これはね、あくまで契約の報酬だから、なのよ。仕方なく、なんだからねっ」


 それらの下にはまだ服があり、スカートから出る足しか肌の露出はないのだが、俺はすでに勃※していた。


「そ、そんなにじっと見られると、困るわっ」


 減らず口をたたいていたアンジェリカだったが、耳まで赤く染めて恥じらった。


 かわいいな、こいつ……! ただのNPCなのに!

 俺の心臓が痛いほど跳ねた。とにかく寝床の端に腰掛けて待つことにする。


 やがて鎧をすべて外し終えたアンジェリカが、俺の隣に腰を下ろした。

 その距離、1メートル弱だ。

 少し離れているけれど彼女の髪の匂いが届いてくる。


 さっきまで戦っていた彼女だが俺の治癒魔法の効果もあってか、血や汗の臭いはしない。

 女神ほど甘くはなく、どことなく爽やかさのあるいい香りだった。


 ……しかし、どうしたものか。

 ここまで来て俺は身動きが取れなくなった。

 すぐ隣にいるアンジェリカの方を見ることもできない。


 どうせ俺はコミュ障の童貞だ。

 ここからどうアプローチしていいか、まったくわからないのだ。


「あの……ごめんなさい。そうよね、私なんかが報酬で、嫌よね……」


 それをアンジェリカは勘違いしたようだ。


「私みたいな剣を振るしか特技のない、筋肉だけの女なんて、キミも報酬じゃなきゃ抱きたくないわよね……?」

「え? いや」

「いいの! 女としての魅力に欠けるのは、私が一番よく知ってるもの。でもね、私……ちょっと、ほっとしてるのよ。さっきは仕方なくって言ったけど、それでも、相手がキミでよかったなってね」


 真剣に語るアンジェリカを俺はいつしか見つめていた。


「あの、だから。もらってくれる? ……こんな私の、は、初めてを……」

「なに? 初めてって、処女か?」

「そ、そうよ! 色恋沙汰にうつつを抜かす暇なんてなかったんだから! キスだって私……まだ、したことなくて……」


 目が合った。

 俺はコミュ障のせいで視線を外しかけるが、その前にアンジェリカが瞼を閉じた。


 んっ、と唇を突き出して体を寄せてくる。


 顔を真っ赤にした彼女はとてもきれいで、俺は自然と唇を重ねていた。


「はっ、んっ。ん、あっ……んんんっ」


 キスだ。キスだ。キスだ!


 嘘だろ。こんなに気持ちのいいものだったのか。俺は何度もアンジェリカの唇を貪る。

 そのたびに彼女から甘い吐息が漏れた。


 しかし互いにいつ息継ぎしていいかわからず、やがて離れる。

 ようやく瞼を開けたアンジェリカの目はとろんとしていた。


「キス、すごいわ……! もっと、もっとっ」

「ああ」


 俺たちはまた夢中になってキスをした。

 いつしかぴちゃぴちゃといやらしい音を立てて、互いに舌を絡め合う。


 なんだこれ、気持ちいい!

 勃※が止まらない。これがキスか……エロすぎだろ!


 マジで、キスだけで射※しそうだぞ。


「ね? いい……?」


 だがそれ以上のことを欲したのはアンジェリカが先だった。俺の服を脱がそうと、上着のボタンをいじり始める。

 いいだろう。俺は自分で服をはだけた。


 アンジェリカも自分の服に手をかける。裾の短いスカートを下ろせば、サイドを紐で結んだ真っ白なショーツが露わになった。

 さらに上を脱げば、女の子らしく刺繍の施された白いブラが現れる。

 その下に押し込められた、張りのあるふたつの※房に目を奪われるが……アンジェリカが胸元や腹を隠した。


「ごめんね。こんな、傷だらけの体でさ……」

「ん? 傷?」


 言われるまで気付かなかったが、腹筋のついた彼女の腹などに古傷の跡が残っていた。


「鍛錬してると怪我は付き物なのよ。支給された薬草で治療はできるけど、キミの魔法のようにはいかなくて、どうしてもこんな傷跡が残るの……」

「ふうん。なら俺が治してやろう。触れるぞ」

「えっ」

「【細胞代謝{リフレッシュ}】」


 俺の手から直接、白い魔法の輝きが放たれた。


 【細胞代謝{リフレッシュ}】は【中回復{ミドルヒール}】を覚えた上で、【大回復{ビッグヒール}】習得に必要な第3位階の魔法だ。

 治癒魔法の効果促進の働きがあったはずで、こうして指先でなぞりながら直接傷跡に触れていけば……どうだ?


「あっ、あ、あ!」


 俺の読みどおり、みるみるうちに傷跡が消えていった。そのたびにくすぐったいのかアンジェリカが身悶えする。

 だが寝床で転がれば、腕や太ももといった箇所にも跡が見つかり、俺は夢中になって消していった。


「ふう、これで全部か? 顔に傷はなかったよな。……アンジェリカ?」

「はあっ、はあっ……こんな、ことってっ」


 悶えていたアンジェリカの下着が、いつの間にかずれていた。

 ブラからぷっくりとした※首が飛び出し、ショーツの紐がほどけている。


 その下から覗くのは、彼女の髪と同じ赤色の茂みだ。

 こっちも赤毛なんだな、と俺は妙に感心するが、そこはぐっしょりと湿っていた。


 まさか指であちこち触れたのが、愛撫になったのか?


「クライ! こんなこと、女の私から言うのってはしたないと思うだろうけどさ、もうっ……私、欲しいの!! お願い……」


 アンジェリカは下着をすべて剥ぎ取って、仰向けに横たわる。

 恥ずかしさのあまり顔を覆うが、両足を開いて俺を誘った。



 ――俺はついに、女騎士アンジェリカで童貞を捨てた。



          ◇


 結局10回は中に出したか。


「すご、かったわ……」


 礼拝堂の中央に落ちる滝の中で、髪をほどいたアンジェリカが汗を流す。

 うっとりと彼女が見つめるのは、自分の内ももを伝って落ちる俺の精子だ。


 ちょっと出し過ぎたなと思うが、俺は満足だ。寝床に寝転がったまま、こうして女の裸体を眺めるのもまたいいと俺は知った。

 もう俺は童貞じゃない。ざまあみろ!

 エロクエスト最高!


 しかしたっぷり出した後の賢者タイムが、俺を冷静にもさせていた。

 ……セ※※スの後、アンジェリカとの関係はどうなるんだ?


 ことの最中に「好き」とか言われたが、あれは本気か?

 俺は責任を取らなきゃいけないのか?

 というか、あれだけ中出ししたら……妊娠するかも?


 いや、この世界はそこまでリアルなのか? あくまでゲーム、のはずだろう?

 たぶん……そのはず、なんだがなあ。


「ご主人様あ~!」


 そんなことを考えていたとき、陣幕の向こうからポルテの叫びが俺を呼んだ。


「なにか騎士たちが、やって来たですよ!」

「なに? それって……」

「私の同僚たちだわ!」


 慌ててアンジェリカが滝から出て、水気を払って服を着る。

 馬の足音もたくさん聞こえ……そうか、彼女の仲間が逃げた馬を連れて、神殿まで来たようだ。


「少し待って! 私は無事だから!」


 陣幕越しに声を飛ばしたアンジェリカは、もう騎士の顔に戻っていた。

 俺も一応服を着て、ローブを羽織る。


 甘い時間は終わりだ。アンジェリカは赤毛を後ろでまとめて、【キャンプ】を閉じようとウィンドウを開いた。

 だがその手が止まり、俺を見る。


「ねえ、クライ……。よかったらキミも城に来てくれない?」

「うん? 求婚か?」

「バ、バカっ、そうじゃなくて! ……白の女神の代わりに、私たちの助けとなるのはキミしかいないと思うの。邪神の勢力を退けるためにも、力を貸して欲しくて」

「ふうん。それは、また新たな契約を結ぶことになるぞ」

「あー……そうね。そう、だわ。その、新しい女を用意しろと言われれば私、困るけど……」

「いや、金の方だ」


 俺はきっぱりと言った。


 脱童貞はできたが、この『エムブリヲ』で楽しく暮らすには、何はともあれ大量のG{ゴールド}が必要となる。

 いつまでこの幻想が続くかは知らないが……やれるだけのことをやるのが、俺のプレイスタイルだからな。


「報酬は国で引き受ければなんとかなると思うわ。私が掛け合ってみる!」


 アンジェリカが王国の騎士として約束した。


「それこそ20万Gよりも出せるはずよ。頼めるかしら、白魔道士{ヒーラー}クライ殿?」

「わかった」


 俺は了承した。口約束は信用しないが、どのみちここから出るつもりだったし、稼げる依頼が受けられるなら幸いだ。


 それに、抱いた女の頼みだからな。

 ……そう直接言えないのがコミュ障の哀しいところだが。

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