大宴会 ~勝利は美酒の味~

 酒場についたら、それはもう物凄い大宴会となった。

 その酒場は、宿屋を兼ねていている為か、地元の人以外にも旅人の姿がちらほらあった。

 その全員を巻き込んでの大宴会である。

 代金は、僕の懐から出た。

 別に、出し惜しみとかはする気もなかったし。この宿屋に泊まるのであれば、そんな大金はいらないし。

 というかそもそも、僕が身に余る大金を持ってる事が災いの元なんだ!

 そんなお金は使い切るに限る!

 宵越しの金は持たねぇぜ!

 と、いうわけで、驕られる筈だった僕が逆に、ラッツやここに居合わせた全員に驕る事となった。

 もともとこの酒場は、ラッツの行きつけだったみたいだ。

 ラッツは店に入るなり、酔っ払いたちに(僕も一緒に)囲まれ、仲良さそうに(何故か僕も一緒に)肩を組んで、豪快に笑いあってた(僕だけは、なんか取り残されたかのようで、とりあえず引き攣り笑い)。

 お酒が入るうちに、みんなで色んな話をし始めた。


 例えば、この街の事。

 僕も気づいたけど、この街はかなり発達、発展してる。

 まず、上下水道が完備されていること。ここまで見事なものは初めて見た。

 近くのオアシスから飲み水や生活用水をくみ上げて、街全体に行き渡らせてる。その為、この街には小さい泉とかがいくつもあって、旅人や馬やラクダをそこで休ませていたり、街の人の憩いの場になったりしていた。

 あとは、この町がこの国の要所になってる事も発展してる起因になってるみたい。

 僕が来た港から、この国の中心の城下まで行くには、必ずこの街を通らなければならない。通過点というより、港から城下まで行くには、一度こちらまで迂回しないと、食料や水がもたないからだ。僕が一緒に来たキャラバン隊も、その為にここに立ち寄ったみたいだし。この国には、輸出入の出入り口になってる港がいつくかあるんだけど、同じ理由で、必ずこの街を通る事になる。だから、人の出入りも多いし、何より活気が物凄かった。

 そして、何よりびっくりしたのは、この街の技術。

 僕は、機械仕掛けで動くものを初めて見た。

 一つに、『ラジオ』と呼ばれるものがあった。

 電波というもので音を伝える機械だ。そんな遠くまでは伝わらないらしいけど。闘技場ではその機械を使って、広い闘技場全体に、アナウンスするらしい。

 賭け券も、何か機械の一つだったみたい。あのプレートを、何かのデッカイ機械に差し込むと、どの戦士にいくら賭けたのかが判るらしい。仕掛けは不明。判るわけなし!

 他には、機械でできた義手をしていた人もいた! 義足の人もいた!

 義手と義足は、魔法も組み合わさってると聞いた。

 どういう風に組み合わせてるか知らないけど。

 っていうか、魔法すらよく判らないし!

 とにかく、沢山不思議な技術がある街だった。

 もともと、この国にはそういうものはなかったらしいんだけど、外の国からやって来た人が伝えたものらしい。今は、闘技場を運営している人がその技術を受け継いでいて、特に闘技場でその技術は活躍してると聞いた。

 世界は広いなぁ。

 本当に。

 見たこともないもの、聞いたことないものが沢山ある。


 ラッツの事も聞いた。

 ラッツは、もともとこの街の出身ではなく、出稼ぎで剣闘士をしている事を。

 どうやらかなりの額の借金があるらしい。どんな借金かは聞かなかったけど。

 それで、短時間に高収入が得られる、剣闘士をしているとか。

 まあ、命と引き換えだもんね。そりゃ高いよ……

 あとは、剣闘士の戦いは、相手が強ければ強いほど、勝った時に入るファイトマネーが高いとか。(あのサーベルタイガーは、今まで無敗だったんだって。ラッツも無謀だね)

 そして、ラッツには、待ってる人がいる、とか。


「ミンシアっていうんだ。そりゃあイイ女でよ」

 酔っ払ったラッツが、上機嫌で彼女の話をしていた。

 彼女は、僕が来た港町で、酒場を渡り歩いては歌を歌って稼いでいるらしい。

 本当なら一緒にいたいけど、血なまぐさい剣闘士という仕事を、彼女に見せたくなくて、わざとその街に置いて来たとか。

 それを聞いたおっちゃんも、ラッツに同意しながら麦酒をあおっていた。

 ラッツの彼女──奥さん?──は、この国では結構有名は歌姫らしい。

 その歌声聴きたさに、王様まで彼女に熱烈ラブコールを送って来たとか。そのあまりのしつこさに、仕方なく一度だけ城に召された事もあったそうな。(でも、王様に気に入られて城に閉じ込められそうになって、なんとか言い訳して逃げたんだって。大変だね)

 ──闘技場のオーナーも彼女の歌にほれ込んで、蓄音機なるものに歌を吹き込ませて、毎日毎日、飽きずに繰り返し繰り返し聞いてるとかなんとか。

 とにかく、彼女の歌声のファンは多く、大概聴いた人を虜にしてしまうんだそうだ。

 もうそれはそれは美しい歌声だと、ラッツは鼻高々に自慢していた。

 それを聞いて、僕も聞いてみたくなった。

 でも、またあの砂漠を越えるのか……そう思うと辟易とする。

 まあ、どのみち帰り道だから、聞く機会はあるだろう。


 そんな感じで宴会は夜通し行われた。

 僕は途中で敢え無くノックアウト。

 K・O負け!

 っていうか、勝てるわけない!

 みんなが空けたお酒の空瓶で、床が見えなくなっていたもん。

 ありえない!

 気がついたら僕は、その酒場兼宿屋にとっていた部屋のベッドに転がされていて、床の上でラッツが大の字になって寝ていた。

 いつの間にか、太陽はてっぺん近くまで上がっていた。

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