旅立ち ~風の歌~

 僕は、この街を旅立つ事にした。

 ここにいるには辛すぎる。

 今はまだ、思い出すのも辛すぎる。

 いつか──思い出して、人に話せる時が来るのだろうけど。

 僕は最後に、街の北端の、小高い丘の上に行った。

 オアシスが一望できた。

 闘技場のある街も。

 ラッツと、ミンシアと出会った場所。

 

 空が、晴れ渡っていた。

 日差しは刺すように暑いけど、オアシスから吹き上げてくる風は、少し冷たくて、とても気持ちよかった。

 目を閉じて、その風を感じる。


   ──わたしは ここで──


 ミンシアの、あの時に聞いた歌が、聞こえて来たような気がした。

 でも目をあけると、気のせいだったと気がつく。


 風の音が──風の歌が──彼女の歌声みたいに、優しかった。


 僕は、その場に膝をつき、両手を──唯一残った、アンクレットを──握り締める。

 そして、目を閉じて、ラッツの笑顔とミンシアの歌を思い出す。


 絶対に忘れないように、僕は何度も何度も、頭の中で反芻した。

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