彼女の事情② ~彼女は宮廷騎士団長~
エルザの家系は、昔の王族の妾の血をひいているらしい。
その妾は、王との間に子供ができた途端、王宮に住む事も、継承者争いに巻き込まれる事も嫌がり、三行半を当時の王に叩きつけ、子供と一緒に辺境に引っ込んでしまった。
王と妾の子供の血筋──エルザは少しだけ、王族の血をひいているという事だ。
そこからしばらく、エルザの家系と王宮は遠くなる。
それからどれぐらいが経った頃か。
エルザが生まれた。
そして、ちょうどその頃、現在の王も生まれた。
前王妃──現王の母君は、もともとあまり体の強い人ではなかった上に、産後の肥立ちも悪く、産後しばらくして亡くなってしまう。
そこで、乳母として王宮に召されたのが、遠くても王族の血を引く、エルザの母だった。
もちろん、生まれて間もないエルザも一緒に。
現王には兄弟がいない。
王宮には、もちろん同世代の子供もいない。
エルザと現王は、幼い頃を、姉弟のように過ごした。
前王──現王の父君は、おおらかな人柄だったらしく、また娘が欲しかったと言って、とてもエルザを可愛がっていた。
エルザには父親がいない。エルザが生まれる少し前に、事故で亡くなった。
その為か、エルザ自身も前王にとても懐いていた。
エルザと現王が六歳になった頃、エルザの母は王宮を辞した。
もちろんエルザも。
しかし、実母がおらず、母代わりのエルザの母に会いたいが為に、現王はよく、エルザたちが住むこの村まで遊びに来ていた。
現王が十三歳になった時、エルザの母が病死する。
それとともに、現王もこの村を訪れる事がなくなった。
エルザは十四歳になった時、宮廷仕官試験を受験し、見事に合格。
士官の為、王宮にのぼる事となる。
エルザの人生は、そこからは紆余曲折。
王に可愛がられていたから合格できた、だの、誰かに賄賂を贈った、だの、酷い無根の噂に、さんざん影で嫌がらせ等も受けた。
一人じゃこなせないような雑用や無理難題の仕事を押し付けられたり、半ばシゴキのような剣の稽古をつけられたり。
しかし、そこでメゲたり曲がったりしなかったエルザは偉い。
物凄い量の仕事をこなし、剣の稽古も決して弱音を吐かずに続けた。
そのおかげか、エルザは、いつのまにか宮廷で並ぶ者のいない程の剣と仕事の腕を身につけたのだ。
そして、今の地位に着いた。
宮廷騎士団長。
異例の若さである。剣の腕はもとより、その判断力、決断力、頭の回転の速さは、歴代一と言われているとかなんとか。
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