閑短話

風の夢

 夢を、見た。


 向かいから、親子が歩いて来た。

 街の雑踏の中。

 父親と、母親と、その真ん中に、二人に両手を繋がれて、きゃっきゃと笑う男の子。

 買い物の帰りなのか、父親は手を繋いでない方の腕に、沢山の野菜や果物が入った袋を抱えている。

 母親の方も、繋いでいない方の腕に、ピンク色の花束を抱えていた。

 三人の会話が聞こえてくる。

『今日はお客さんが来るんだよ』

『そう、おとうさんとおかあさんのお友達よ』

『おともだち?』

『そう。おとうさんと、おかあさんの、大事な大事なお友達』

『ぼくよりもだいじ?』

『同じぐらい大事さ』

 父親が、手を離し、子供の頭を優しくわしわしと撫でる。

 母親が、それを愛しそうな目で見ている。

 その三人が、立ち尽くす僕の脇を通り過ぎる。

『なにやってるんだ?』

 立ち止まった父親が、振り返る。

『そうよ。早くいらっしゃいな。今日はごちそうよ』

 母親も振り返る。優しい優しい微笑みで。

『はやくはやく!』

 子供が僕に両手を振る。

『今日は、あなたが久しぶりに訪ねて来てくれた、お祝いなんだから』

『そうだぞ。おい、早く来いよ──』


 ──ティム──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る