再会 ~それは幸せな時間…だったハズが~

 ご飯を食べ終わって、ミンシアが部屋に戻ってから。

 僕は、六日ぶりのベッドにぬくぬくと包まれながら、超絶熟睡した。ワイン飲んだせいもあっただろうし。何より、疲れていたみたい。

 目が覚めたら、また太陽がてっぺん近くまで来ていた。

 身支度をしてミンシアと合流。

 宿屋の一階にある食事処で朝食兼昼食を食べ、闘技場に向かう為、一緒に外に出た。

 しかし、僕は借りていたラクダを返さなきゃいけない事を思い出し、途中でミンシアと別れる。先に闘技場に行ってもらう事にした。

 まあ、再会した瞬間ぐらい、二人きりにしてあげたいしねッ!

 僕はラクダを借りた場所に返しに行き、それから闘技場へと向かった。


 ラッツが闘技場でお世話になっていたのは、救護室でなく、闘技場の客室だった。

 受付のおっちゃんにラッツの事を聞いたら、客室の事を教えてくれた。

 部屋の前まで行き、一応様子を伺う。

 もしかしたら、中で涙の抱擁とかしているかもしれないから。

 扉に耳をぴったりとくっつけ、中の音を聞く。

 いや!

 決して出歯亀じゃないからッ!

 邪魔しないようにっていう配慮だから!

 特に、音が聞こえてこないので、僕はしばらく待ってから、その扉をノックした。

 中から、『どうぞ!』という、久しぶりのラッツの元気な声がする。

 僕がおずおずと中を覗くと、ラッツがベッドの上で上体を起こして、ダンベルで筋トレをしていた。

 ミンシアは──いなかった。

「ティムか! 早かったな!」

 ラッツが、目をキラッキラさせて僕を見る。

 しかし、僕は訝り顔。

「あれ……? ミンシアは?」

 先に行ったはずのミンシアの姿が見えなくて、僕はラッツに尋ねてみた。

 すると、逆にラッツが不思議そうな顔をする。

「ミンシアは、お前が迎えに行ってくれてんだろ?」

 うん、確かに手紙を届けて、お出迎えしたんだけど……

 僕は部屋に立ち尽くし、ラッツはベッドの上で疑問顔。

 僕は、ラッツに、今日までの事を伝えた。

「ミンシアと……砂漠の途中で会って……」

 なんだろう……?

 なんか……

「昨日の夕方……この街について……夜は、この間の宿屋に泊まって……」

 ラッツの表情が、段々険しくなっていく。

「さっき……二人で宿屋を出て……先に……ミンシアは闘技場に向かって……」

 嫌な──予感がした。

「ティム」

 ラッツが、ベッドから降りた。

 近くの椅子にかけてあった上着を羽織る。

 僕の口や膝は、わなないていた。

「ラッツ……僕──」

「何も言わなくていい」

 ラッツの顔が、今まで見たこともないような厳しい──恐ろしい顔をしていた。

 心配──と、いうより怒りを浮かべてる。

 ベッドの横に置いてあった大振りの剣を背中に背負い、僕の手をつかんで部屋を出た。

 痛いぐらいにつかまれた手をひかれて、闘技場の外へ行き、受付のおっちゃんに、掴みかからんばかりの勢いでミンシアの事を尋ねる。

「どうかな……? 声かけられたら、気づいたかもしれんが……」

 おっちゃんは、気がつかなかったと言っていた。その顔に嘘はなさそう。

 ミンシアが闘技場に来てるのか──それともその前に何かあったのか、まだ分からない。

 入り口に立つ、警備員のお兄ちゃんにも聞いてみた。

 しかし、まだ交代したばかりで、その前の事は分からないとの事だった。

「ラッツ……ごめんなさい……」

 怒りが僕に向いているんだと思って、僕はおずおずと声をかけてみた。

 なんか泣きそう。

 ミンシアと一緒にいればよかった……ミンシアを一人にしなければよかった……ラッツが怒ってる。ラッツを怒らせちゃった……

 しかし、振り返ったラッツの顔は、最初に見せた怒りが失せていた。

 飄々とした、なんだかつかみ所のない笑顔。

「ティムのせいじゃない。大丈夫さ。あいつはああ見えて、俺より強いしな」

 そういうラッツの目は、笑っていなかった。いつもの『頭わしわし』もない。

 これが、ミンシアの言ってた、出会ったばかりの頃の飄々とした顔なのかも。

 ──ラッツの、昔の顔。


 途中で、僕とラッツは手分けしてミンシアを探す事にした。

 ラッツは闘技場とその周辺。

 僕は宿と闘技場までの道すがらとその周辺。

 しかし、観光客の多いこの街で、一人の女の印象なんて薄い。覚えている人もみかけた人もほとんどおらず。

 結局これといった手がかりも見つからず、その日の夜を迎えてしまった。

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