後悔 ~それは二日酔いとともに~

 起きたら、頭が割れるように痛かった。

 のそのそと体を起こすと、まるでこめかみに心臓ができたみたいに、どくどくガンガンと響く。ぐわんぐわんと耳元で大きな鐘が鳴ってるみたい……

 辺りを見回してみると、地面がゆっくり回ってるように見えた。

 ……気持ち悪い……内臓がせり上がってきてるみたい……ヤバイ……吐きそう……

 俗に言う、二日酔い。

 宴会の最中、まあ飲めや、俺の酒が飲めねえのかと、今まで飲んだ事ない量のお酒を、短時間に一気飲みさせられた。

 あんまりお酒強くないんだけど、嫌とも無理とも言えず……僕弱いなぁ。色んな意味で。

 確か、途中僕も酔っ払ってイイ気分になって、旅の話とかを熱く語った気がする。

 よく覚えてないんだけど。

 で、話しながら飲みまくり、話し終わっては意味の分からない乾杯をして──

 ……あれ? 途中から記憶がない。

 僕、どうやってここまで来たんだろう?

 たぶん、ラッツがここまで連れてきてくれたんだろうけど……

 完全に記憶が途切れてる!

 怖ッ!

 記憶なくなるって怖ッ!

 慌てて僕は自分の財布をまさぐる。

 幸い、リュックも僕の部屋にあって、財布もあった。皮袋に詰め込まれていた筈の金貨は随分と減ってるけど──昨日の大宴会の代金が差っぴかれたんだ──でも、全部消えてるわけじゃないし。

 この酒場が良心的でよかった。酔ってる客から金全部巻き上げちゃうなんて事、しなかったみたい。ラッツの行きつけって事もあったのかな?

 ラッツといえば、おおいびきをかきながら、床に寝てる。硬い床だから寝苦しい筈なのに、僕が起きてもラッツは気がつく気配すらない。

 昨日は──というか、朝方まで飲んでたんだもんね。そりゃ仕方ないか。


 僕は、よろよろと壁伝いに歩き、一度宿の裏庭に出た。

 宿屋に泊まり交渉をした時に、裏庭に共同の小さな泉があると聞いていたから。

 泉には誰もいなかった。

 まあ、昼近くだしね。朝じゃないから、身支度とかしてる人とかもいない。

 それ幸い。

 僕は、船酔いよろしくゲロゲロと……ほんと、誰もいなくてよかった……

 最後に泉で顔を洗って、気分を一新させようとした。

 無理だった。

 気持ち悪さは少しなくなったけど、頭痛はそのまま。今日は出歩くのは無理そう……

 今日は一日中寝る事を決めて、僕は部屋に戻った。

 部屋のドアを開けると、寝ぼけ眼のラッツが、床で胡坐を掻いて窓の方を呆然と見ていた。目が覚めたみたい。かなり、ウツロではあるけど。

「おはようございます、ラッツ」

 僕は部屋の中に入り、さっきの泉で汲んできた水筒の水を差し出した。

「おう……ありがとな」

 半眼のまま、ラッツは水筒を受け取り、一気にあおった。

 ぷはーっと一息ついたラッツは、水筒を僕へと返し、立ち上がって伸びをする。

「昨日は飲んだなー。ティムは大丈夫か?」

 伸びをした瞬間目が覚めたのか、ラッツの顔はスッキリとしたモノに早変わり。今朝方まで飲んでたなんて信じられないぐらいに爽快な顔で、にかっと笑った。

「だいじょぶじゃないです……頭痛いし気持ち悪いデス……」

 うってかわってグロッキーな僕。

 正直しゃべるのも億劫。今日は一日、寝ていたい……

「そうか。まあ仕方ねぇか。そうだな。今日は俺は試合ないんだが、明日はある。明日、また闘技場まで来てくれよ。ティムの名前通しとくからよ。控え室まで来てくれや」

 昨日の服のまま寝っ転がってたせいで、変なところに皺のできた服をはたきながら、ラッツは僕へと右手を差し出してくる。

 僕が、その手の意味をよく判らず『?』な顔をしていると、無理矢理右手をふん掴まれ、ぶんぶんと上下に振られた。

 あ、握手?

「明日も俺に賭けてくれよ。後悔させないぜ!」

 物凄い人懐っこい笑みを浮かべて、腕をぶんぶんと振るラッツは、少年のようだった。

 僕も、つられてニッコリと笑い、うん! と大きく頷くのだった。

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