彼女の事情④ ~秘密~

 エルザの左手は、奇跡の左手。


 すべての魔力を吸い取り、無効化する。

 それが、魔物の力の源の魔力であっても。


 だからエルザは、この国で唯一、石化樹に会っても石化されない人間なんだ。


 ただし、吸い取った魔力はエルザの体に蓄積され、除々に蝕んでいく。

 本当は、全身で魔力を吸い取る事ができるけど、吸い取った所から蝕まれていくため、左手を犠牲にして──

 そう、左手から、少しずつ、少しずつ。

 奇跡の左手──犠牲にしてきた左手──

 エルザの左手は、ほとんど動かなくなってしまっていた。

 ──石のように。


『魔力を吸い取ると、体が蝕まれていく事は、秘密にしておいてくれ』

 エルザは、力ない笑顔で、僕にそう呟いた。

 さっきまでは、掴む、握る等はかろうじてでき、なんとか肘までは普通に動いたらしいけど──

 今は、さっきの石化樹の魔力で、左手どころか、もうほとんど左腕は動かないって──

『肩がまだ無事なのが、不幸中の幸いだな。これなら、まだ誤魔化せる』

 ドス黒く染まった左腕を、破いた服の裾で覆い隠しながら呟くエルザ。

 このまま魔力を吸い取り続けたら、そのうち彼女の体は、すべてがあの左腕のようになって、やがて、動かなくなってしまうだろう。

『仕方がないとは思ってないよ』

 エルザは、騎士団長の顔をして力強く言う。


 国を守る為、人を守る為に、授かった力を使う事は当たり前だからと。

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