帰還 ~報告と事後~

 それからの記憶が、僕は曖昧だった。

 泣き叫んだんじゃないかな。

 だって、喉が焼け付くように痛い。

 顔もぐちゃぐちゃだった。

 側にいた兵士たちも泣いてたはず。

 だって、みんなの目も腫れていた。

 エルザの体は、その場に置いて来るしかなかった。

 運ぶ準備もないし、ヘタに動かしたら、エルザの体が、割れてしまいそうで。

 ──黒曜石になった体が──割れてしまいそうで。

 いつの間にか、雨が降り出していた。

 みんな、後ろ髪引かれながらも、エルザが眠る木のもとを離れるしかなかった。


 城に戻って来た。

 討伐に出た兵士の中で、エルザに次ぐ階級の兵士が、僕を連れて王様の待つ謁見の間に報告に上がった。

 その時の記憶も曖昧。

 王様の──ジャンの顔が見れなくて。

 ジャンが報告を聞いて、『そうか』とだけ告げたのが、物凄く腹立たしくて、また泣いてしまった事だけは、なんでかハッキリ覚えてる。

 そして、僕は今朝まで泊まっていた客間に帰された。

 ベッドに腰掛けて、呆然と、部屋の入り口の扉を見つめている。

 今朝、エルザが、あそこに居たんだよね。

 さっきまで、僕はエルザと馬に乗ってて、喋ってたんだよね。

 でも、今は、彼女はここにいなくて。

 この城のどこにもいなくて。


 街道の脇の木の下で──

 ──微笑みながら、眠ってるんだ。


 思い出したら、またぼたぼたと涙が落ちてきた。

 でも、涙を拭う事もできなかった。

 体に力が入らなくて。

 僕は、暗くなるまで、そこでずっとそうしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る