第4話 言霊――別名フラグ
熱しながら曲げて、ある角度まで曲がったら一気に冷やす!
ふぅ……これで最後だな。あとは要の部分とくっつけて、表面に紙を張れば完成だな。…………ここまでで既に四時間以上。すでにお昼は過ぎてる。
これが終われば残りは三つ。明日までには一応終わるかな?
こういう事言ってると、今日にでも厄介事が舞い込んでくる……なーんて、そんなことないよな。
「ゲン君、ちょっといいかしら?」
…………言霊って怖いな。口にしなくても頭で思い付いただけで現実になるなんて。それともこれも精霊の力の影響かな?
「なんですか?自分に出来る事なら手伝わせてもらいますけど」
「実は私達のところで専属の鍛冶屋がいるんだけど、今日は休みだったの」
「ふむふむ。つまり、代わりに手入れをしてくれってことですか?」
「ええ。槍が二本に刀が一本。剣三本に盾一つです。可能であれば鎧を六つお願いしたいと思っています」
武器が六つに防具が六つか……。オーバーンさんのところはクランだから、装備もそれに合わせて質の高い物のはずだ。下手な整備は逆に耐久性の低下を招くから安請け合いはできないけど……
「――おん?ランのとこの長か。いつもランが迷惑を掛けてるようで申し訳ねえ。それで、今日は何の用なんだ?」
「おじ様、お久しぶりです。他の工房に任せるはずだった整備をこちらにお願いしに来たのです」
「なるほどな。だからゲンが難しい顔してんのか。受けちまえばいいじゃねえか」
「そんな簡単に言っていいのか?下手すれば工房の看板に泥を塗りかねないじゃないか」
「馬鹿な事言ってんじゃねえ!」
っ!! 伯父さんが両手を腰に当てて睨んできた。
「お前らの師は誰だ?俺だろう。俺が教えた奴ならこれくらいの事が出来なくてどうする。この程度のことは片手間で出来るくらいになりやがれ!!」
“ いや、さすがに俺らでもそれは無理だと思うけど…… ”
工房に居合わせた兄弟子たちの心の中のツッコミは、残念ながらバルフレアには届かないのであった。
「まあ、そこまでは無理でもだ。お前に頼まれた仕事なら、胸を張って受けろ!」
そう言うと、思いっきり肩を叩かれた。痛い……けど、そうだな。やろう!
「わかった! オーバーンさん、任せてください」
「ふふっ、美しい師弟関係ね。わかったわ、全て任せるわね」
「全部?一体どれだけのもんの整備を頼まれたんだ?」
「武器六つに防具六つだよ」
「ふむ……提灯の制作もある。防具に関しては暇そうな兄弟子にでも任せるとしよう。武器は俺が半分やる。ゲンは残りの三つをやれ。時間がねえんだ、いつも以上に早く仕上げることを意識しろよ!」
「了解!」
「それじゃあ、明日また取りに来ますね」
「おう、任せとけ」
依頼が受託されたため、オーバーンさんは一度依頼物を取りに戻って行った。
「ゲン、お前は剣三本だ。刀をやるにはまだ早い」
「刀の刃の研ぎは繊細で難しい、だっけ?」
「だからといって、剣の手入れを怠るんじゃねえぞ?」
「わかってるよ。丁寧だけど素早く、だろ?」
「口で言う前にやって見せろ」
その後少しして、オーバーンさんとお仲間のゼムルさんがやって来た。ゼムルさんは荷物持ちとして来たらしく、背中に大量の武具を背負っていた。
荷物を受け取ると、二人はお辞儀をして出て行った。本当にこれだけのために来たのか。
※※※
「ふぅ……ようやく一本目終了」
ランの所属しているクランってのもあるけど、普段担当する武器とは全然違うんだよな。雰囲気って言うか、年季って言うのか。
とにかく、軽々に扱っちゃいけない感じがするんだよな。
長く愛用している武器には魂が宿る、なんて言った鍛冶師がいたみたいだけど、俺みたいな半人前でもこの武器に関しては分かってしまう。
伯父さんはどうなってるのか気になって見てみると、刀を砥石にのせたまま黙って見詰めてた。精神を統一してるのかな?
見詰めること五分。まだ動かない。
気になる……けど、自分の仕事をしなくては。
でも、やっぱり気になる! 業物の研ぎをしてる姿なんて見た事なかったから、参考にさせてほしい。…………あれ?よく見たら兄弟子たちも伯父さんを見てる。やっぱりみんな気になるんだな。
視線を戻すと、伯父さんが一度目を瞑り、三秒ほどして目を開けた。
次の瞬間、一気に刀を手前に引いた!……けど、音がしな―――シュインッ!!
「音が……遅れて聞こえた?」
「――あん?なんだおめえら。こっち見てる暇があるなら仕事をさっさと終わらせやがれ!」
伯父さんの怒声に兄弟子たちは慌て気味に作業に戻っていった。
俺も続きをやらなきゃ!
―――――
「これで終わりだな。汗が滴ってすごいことになってる」
「――タオルいる?」
「ああ、ランか。ありがとな。ふぅ……仕事は終わったのか?」
「――うん。この後でお風呂に入る」
「疲れただろう。早く行ってこい」
「――わかった………一緒に、入る?」
「ブッ!?な、何言ってるんだ! 早く行ってこい!」
「――冗談のつもりだったのに……」
ランが頬を膨らませながら家に帰って行った。
冗談でも笑えないぞ?兄妹で入るのもどうかと思うし、もしそんなことをすれば伯父さんから破門されかねない。
ランと一緒に風呂………駄目だ! 妹だぞ?そんなことを考えること自体間違っているし、伯父さんたちに顔向けできなくなる。
祭りまで提灯作りの続きをしよう。早く終わらせなくちゃな。
「ゲーン! 武器の整備をお願いしたいんだけど、いいかな?」
時刻はすでに夕方を過ぎてる。おそらく、仕事終わりに来たんだだろう。
……今日は随分と来客が多いなぁ。まあ、リルファだからいいけど。
「いいよ。それだけでいいのか?」
「うん。今日は剣だけ。あっ、それが提灯?」
「ああ。あと三個で終わりなんだ」
「えっと……お邪魔だったかな?」
「あっ……まあ、夜通しやれば全然問題ないよ」
「うぅ……明日も仕事あるけど、ゲンに負担をかけるのは……むむぅ」
「だ、大丈夫だ! 一時間もあれば整備は終わるはずだから。それからまた作業を再開すればいいし!」
顎に手を当てて考え出したリルファ。こういう時って何か言っても聞こえてないんだよな。どうしようか………
「――泥棒猫」
「んなっ!?違うから!」
「――今はゲンの時間泥棒猫」
ランの的確(?) な言葉に、考え込んでいたリルファが顔を上げた。
挑発に成功したからか、ランがドヤ顔でリルファを煽ってる。
いや、そこまで上手いこと言ってはいないんだけど………まあ、わざわざ言ってランの機嫌を損ねることもないか。
「ラン、大丈夫だから。リルファ、明日また取りに来てくれ」
「――べー」
「そ、そんな子供だからゲンに相手にされないのよ!」
「―――――――は?」
うわー!! ランの機嫌が一気に急降下したー!!
ランの口からあんなにドスの効いた「は?」を初めて聞いたぞ。
触らぬ神――ならぬランに祟りなし。ここはリルファに任せて、俺は作業に戻るとしよう。あとは任せた!
「えっ、ちょっ!?」
後ろから悲鳴が聞こえるけど気にしない。俺にはやらねばならないことがたくさんあるんだ。今はランの機嫌取りをしている暇はない!
結局、ランの機嫌は夕飯のあとでも直らなかった。
伯父さんに諸々の経緯を説明したら、「テメエで何とかしろ」と言われてしまった。俺のせいではないと思うんだけどなぁ……。
ランの部屋に行くと、頬を膨らませて不機嫌さ全開のランが枕を抱きしめていた。何かして欲しいことはあるかと訊くと、膝枕なでなでを所望された。なんだよ膝枕なでなでって……。
御所望の膝枕なでなでをしていると、ランは疲れからかすぐに寝てしまった。安心しきった寝顔に、すやすやと聞こえてくる寝息。やっぱり妹に邪な気持ちを抱くなんてありえないよな。
翌日、上機嫌で鼻歌を歌いながら出て行くランの姿が目撃されたのだった。
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