第四章

第1話 共闘戦線

 魔物の襲撃によって素材の入荷が遅れてしまっているため、今日はランとカリナと共に以前に訪れた採集場所に来ている。

 ランは伯父さんとの会話を聞いてすぐに付いて行くと言ってきたため断ろうとしたけど、頑として諦めないという意思を感じた伯父さんに連れて行けと言われてしまった。仕事があるだろうに。

 カリナは工房を出た時に会って事情を説明したところ、こちらも付いて行くと言ってきた。連れて行けという強い意志を感じてこちらが折れた。女の子は怒らせると面倒だということは理解したからな!


 ありがたいんだけどさぁ……二人とも、最近増えてる魔物の討伐で忙しいはずなのに、わざわざ付いて来なくても。


「――ゲンは危機感がなさすぎ」

「魔物が多いということを理解していながら、どうして一人で採集に行こうとするのかしら?」

「いや、安全な道は知ってるし、持てる量も分かっているから問題な――」

「「ある!!」」


 二人して両手を腰に当てて怒ってきた。

 何度も行ってるから問題ない……って言っても諦めてはくれないよな。

 まあ、護衛は居てくれると安心できるからありがたいし、二人も心配してくれていることは伝わってくるからこれ以上反論するのは失礼だな。


「分かったよ。二人とも、今日はよろしくな」

「――ふんす」

「分かればいいのよ」

「ははは……」


――――――――


「この辺りはよく来るの?」

「たまにな。素材が足りなくなると、すぐに商人から買うことが出来ればいいけど、他の工房もあって買えないことがあるから、そういう時は自分の足で調達に行くんだ」

「一人で?」


 背後から咎める視線が飛んできてる。

 隣を歩くランは今更だからか周囲の警戒をしながら前を見ているが、時々同じく咎める視線を送ってくる。


「少し前まで俺は工房では使えない人間だったから、何か自分が出来る事を探してたんだ。防具の磨きや武器の研ぎくらいしか出来なかったから暇な時間が多くてさ。ある日、兄弟子たちが素材が足りなくて困っているのを見て商人のところまで行ったけど無かったことがあって、それからこうやって素材採集をし始めたってわけ」

「でも、危険すぎない?今でこそ安全な道を見つけたのかもしれないけど、始めは死にかけたことがあったんじゃないの?」

「……始めの頃はそういうこともあったよ。でも、今とそんなに変わらないかな。いる時はいるし、いない時はいない」

「――こんな岩場、行こうと思う人はまずいない」

「険しい道だからこそ魔物はあまり寄り付かないって考えたんだよ。わざわざ餌がない場所に魔物も寄り付かないだろう?」

「合理的ではあるけれど、それでも危険であることに変わりはないわよね?」


 カリナの視線が変わらず鋭い。

 ランは諦めているのか、周りの警戒に専念していてこちらを詰問する気はないようだ。呆れているとも言えるか。


「何回も来ていて慣れてるとはいえ、魔物が出るから油断はしてないから問題ないさ。危険だと判断したら諦めるくらいの分別はある」

「――でも、採集できなかった日はしょんぼりしてるから分かりやすい」

「………バレてる?」

「――バレバレ」


 ……………マジかぁぁぁぁああ!!!

 隠していたつもりなのに!!

 え、じゃあ何。みんな気付いていてそっとしてくれてたの!?


「気付いてないのは己のみ、ね」

「――朴念仁の唐変木」

「俺への誹謗中傷が酷いな!?」

「――事実を言ってるだけ」

「ま、まあ……否定はできない、かしらねぇ」

「味方がいない……」

「そんなに落ち込まないで――ラン」

「――うん」


 二人して急に顔を険しくして抜刀した。

 俺には分からないけど、二人には魔物の気配を感じているようだ。

 二人の位置取りからすると前方にいる感じか。


「待ち構えているのか?」

「群れみたい。心当たりはあるかしら?」

「――分からない。ただ、このままだと接敵するけど、どうする?」


 二人してこちらを見てきた。判断を委ねるってことか。


「なるべくなら今日採集しておきたい。なんとか出来るか?」

「そうねぇ……私達で引き付けておく間に素早く採集って出来る?」

「厳しいな。それなりの量が必要だから、時間がどうしてもかかってしまう」

「――私達で倒しきってしまえば問題なし」

「……それもそうね。足を引っ張らないでよ?」

「――困っても助けないから」


 言うや否や、ランは一気に駆けて行き、その後をカリナが慌てて追いかけて行った。二人はやっぱり凄いな。

 俺もやるべき事を済ませなくちゃな!


―――――――


 鉱石はそれなりに採れたな。あとは石炭を見つければ完了だ。

 しかし、鉱石が大量に落ちてたけど、誰がやったんだ?拾う間もなく襲撃されたとか?にしては人がいた形跡がないんだよなぁ――物音!?

 

「ゴルルルルゥゥゥ」

「ゴブリン!?なんでこんなところにいるんだ!??」

「ゴアァァァ!!!」

「くそっ――これでもくらえ!」

「ガアッ!?――グォラァァアア!!」


 肩に刺さったピッケルを引き抜いた!?

 もう手持ちの道具はない! どうすれば………


「――閑寂一刀」

「君は…あの時の……」

「ん?――ああ、あの時の死にたがりさんですね。お久しぶりです」

「あ、えっと……お久しぶりです?」

「今日も死に場所を求めてこんな所へ?」

「そんなわけあるか!」

「では、何用です――きゅるるる」


 話してる途中で可愛らしい音が聞こえてきたのだが。

 音の方を見ると―――


「…………」


 女の子は俯いていた。ちょっと体が震えているのは恥ずかしさからかな?別に恥ずかしいことではないだろうに。


「……ん」

「え?」

「ごはん」

「……んん?」

「ごはんを…所望……しま、す」

「おおい!?大丈夫か!?」


 膝から崩れ落ちて、今は地面に寝転がってしまった。


「お、おなかが……」


 もしかして、空腹で倒れたのか?

 えっと……今は何も無いから、とりあえず背負ってランたちと合流するべきか。




 お、重い……。荷物を引き摺りながら女の子を背負うのは厳しいな。普段から鍛えていればもっと楽に感じるのかもしれないけど、今の俺にはつらい。

 お?二人とも待ってくれていたみたいだ――って喧嘩してないか?


「貴女は早く街に戻りなさい!」

「――問題なし。ゲンの護衛の役割はきちんと果たす」

「もうっ!――ゲン! あなたもランに言ってあげ……どうしたの?その背中の子は」

「洞窟でゴブリンに襲われたところを助けられてな。空腹で倒れたんだけど、放って置くわけにもいかないだろう?だから背負ってきたんだ」

「と、とにかく! 荷物か女の子か、どちらか渡しなさい。持つから」

「――この子……」

「ん?ラン?何か気になる事が――って腕に怪我してるじゃないか! すぐに手当てしないと!」

「――これくらいどうってことない」

「ほら見なさい! ゲン、なにか手当に使える物はない?」


 なるべく素材を詰め込むために荷物は持って来てないんだよなぁ。念のため持って来ているとは思うんだけど……


『ウィーネの力、いる~?』

「水で何が出来るんだ?」

『浄化くらいなら~』

「なるほど! ラン、傷口を見せてくれ」

「――う~……はい」

「少し冷たいだろうけど我慢しろ」


 ウィーネが出してくれた水を患部に塗ると――なんと、綺麗に傷口が塞がっていった……。


「凄いわ! 魔法も使わずに傷を治せるなんて。小さいのに凄いわね~」

『ふふ~ん! でも、小さいは余計~』

「これでもう大丈夫だろ。それじゃあ、帰るか」

「そうね。少し騒ぎすぎてしまったし、他の魔物が集まってくる前にここを離れましょ。このリュックは私が持つわ」

「――先頭は任せて」


 安全を確保するため、ラン、俺、カリナの並びで一気に山を下りた。

 二人と比べて鍛えてない俺にはかなりキツかったけど、背中の子のこともあるし、陽が傾いていたこともあって無理をしてでも下山を優先した。

 下山した後は安全を確保してから小休止し、多少体力が戻ったところで街へ帰ることになった。


※※※


「ほほ~ん。それで、この嬢ちゃんを連れて帰ったと」

「まだまだご飯はあるから、たくさん食べてね?」

「ありがとうございます。おかわりを所望します」


 空腹で倒れた女の子はこの通り、メシを食って元気になったようだ。

 ただ、その隣では―――


「――フンス」

「……………」


 ランが大層不機嫌なご様子。

 触らぬ神に祟りなし、ならぬ、触らぬランに暴力なし、だ。

 ――イタッ!?つ、つま先を踏まれた……。まだ何も言ってないのに。

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