第2話 提灯にも精霊

 さて、今日から数日は仕事がない代わりに祭りの準備をしなくちゃいけない。やることが増えるけど、やりがいもある!

 

『ゲン、それは何ですか?』

「うぉっ!? ノーラン、いきなり声を掛けないでくれよ。ビックリして心臓に悪いからさ」

『それは失礼しました。ですが、以前に言ったように我々はどこにでもいる。ですので、これから少しずつでも慣れていってください。……毎回驚かれると傷付きますから』

「あっ……そうだよな。精霊にも感情はあるんだから、あんな反応をされたら傷付くよな。ごめん」

『分かってくださればよいのです。それで、今は何をしているのですか?』

「これか?これは提灯といって、祭りのある日に街のいろんな場所に飾って、暗くなったら明かりを灯すんだよ。まあ、祭りの時以外では使わないんだけどな」

『ふむ……祭りはいつ開かれるのですか?』

「九日後だよ。年に一回だから街の雰囲気も浮かれてる」

『年に一回しか使われないのに、毎年提灯を作っているのですか?』


 さっきから興味津々に眺めているけど、そんなに気になるのか?

 っ!?――冷たいって思ったらウィーネがいつの間にか頭に乗ってた。本当に神出鬼没だな。


「いや、毎年ってわけじゃないよ。祭りの前に確認して、必要な分だけ取り換えるんだよ。今年は二十個で、うちが担当するんだ」

『ふむふむ……それをようやく認められたゲンが担当すると』

「そういうこと」

『へぇ~。これって光源のための台よね?』

 

 ――ふぅ……ギリギリで悲鳴は呑み込めたぞ。成長だ。


「ああ。でも、サラの火は精霊由来になってしまうからダメ……だよな?」

『ええ。それに、他の火と色合いが異なるので分かる人には分かってしまいますから、サラの手伝いは不要ですよ?』

『……分かってるわよ』


 わかりやすくサラがいじけてしまった。肩に乗っかって頬杖突き、足を投げ出して不貞腐れてるのが見なくても分かる。何故分かるかって?熱いからな!!

 服が燃えないからまだいいけど、右肩が異様に熱い。

 頭は冷たくて右肩が熱いってどんな状況だよ。


「みんなどうしたんだ?何か気になることでもあるのか?」

『私は興味本位です』

『なんとなく~』

『…………出番かなって』


 要約すると、暇だったということか。


『精霊にはやるべき事はありませんからね。暇を持て余しているのです』

「そのことを堂々と言われるとは思わなかった」

『私達はどこにでもいて、どこにもいない存在だから、人と共にあるなんて滅多にないことなのよ。ごくごく稀に人間と共にある子もいるけど、基本的には見守るだけの存在よ』

「……それだと三人は少数派だよな?」

『『……………』』


 あっ、沈黙した。ノーランは顎に手を当てて考え込んでる。

 サラはそっぽを向いてて顔が見れない。

 もしかして、二人は今更ながら気付いたのか?


『ふふ~♪ノーランもサラも恥ずかしがってる~♪』

『ち、違うからっ!!』

『そ、そうです! 決して、「これはこれでいいのでは?」なんて考えてませんからね!?』

「二人とも分かりやすくテンパってるな。普段のノーランは冷静だから、珍しいもの見た感じで微笑ましいよ」

『『っ!!?』』

「熱い熱いっ!! サラ、照れ隠しでもそうやって温度上げられると熱いから!! 顔と肩が焼ける!!」

『はい、ピタピタ~』


 おっ! ウィーネが触ってくれたところから冷えてきた。はぁ……涼しいなぁ。


『……ウィーネには甘いのね?』

「まあ、静かで騒がないし、触れてて冷たいからな。邪険にする人はいないだろ」

『ゲンの頭の上は居心地良いから好きだよ~』


 右肩のサラが、頭に戻って寝転がってるウィーネを睨んでる。

 左肩のノーランも確認してみると同じく睨んでたけど、俺の視線に気付いて視線を明後日の方向へと向けた。

 ノーランって、意外と嫉妬深かったりするのかな?

 とりあえず、これ以上掘り下げると面倒なことになりそうだから関わらないようにしよう。


 ノーランの登場から手を止めてたけど、まだあと九個も残ってるんだよな。一日に二個ずつ作れば問題はないけど、しっかりと丁寧に作って長く使える物にしないと、工房の看板に泥を塗ることになるからな。





「――ゲン?」

「………」

「ゲ・ン!!」

「うわっ!!……ラン?どうしたんだ?」

「――気付いてない。もうとっくに夕飯の時刻」

「え?もうそんなに経ってたのか!?夢中でやってたから気付かなかったよ」


 周りを見てみると兄弟子たちはみんないないし、工房全体が暗くなってた。

 工房の窓から外を見てみると、確かに日が沈んでた。昼からだから五時間以上もずっと作業してたのかぁ。


「――夕飯が出来ても来ないから呼びに来たけど……これ一個にそんなに時間掛けたの?」

「あっ……そっか。まだ一個しか出来てないんだった」

「――まだまだあるけど、大丈夫?」

「そうなんだよな……どうしよ?このままだと間に合わないよなぁ……」

「――とりあえず、ご飯食べよ。その時にパパに相談したら?」

「言われて急にお腹が空いたよ。冷めたら申し訳ないし、行こうか」


 顔を上げた時に見たランの顔はかなり心配しているようだった。

 今も隣で連れ立って歩いてるが、時折振り返ってはこちらを心配そうに見てくる。心配かけたし、今も心配させているんだろうな。

 申し訳ないからとりあえず頭を撫でておこう。いい子いい子。


「――ゲン。もうこれで無邪気に喜ぶほど子供じゃないんだけど?」

 

 と言いつつ、まなじりは下がって口の端が若干上がってるのは指摘しない。

 言ったら確実に、照れ隠しで鳩尾を肘でやられる。経験してるから間違いない。


「今はこうしたい気分なんだよ。嫌じゃないなら少しの間はいいだろ?」

「――嫌じゃないけど」


 自分で言ってて思ったが、気分ってなんだよ。言い訳にしても酷いな。次からはもう少しマシな言い訳を考えるようにしよう。


※※※


「ばっきゃろう!!!」


 ご飯を食べるために家に戻り、ランの言う通り食事の時に伯父さんに相談したら第一声がこれだ。

 口に含んでたものがちょっと飛び出てランが心底嫌そうな顔をしてるけど伯父さんは気にしない。


「あと八日しかねえんだぞ! 一個作んのにどんだけ時間かけてんだよ!!」

「まあまあ。それでも一個は出来たんでしょ?その出来はどうだったの、ラン?」

「――あー………パパが見たら怒るかも。でも、見た目は凄いよ」


 ランの一言で催促されたため、出来た提灯を持って行くと――


「おめえ……」

「あらあらまあまあ」

「――ね?凄いでしょ?」

「えっと……伯父さん、ごめん」


 時間を掛け過ぎたことが申し訳なくて謝ると、思いっきり肩を叩かれた。


「ばっきゃろうっ! 謝るこたぁねえ!!」

「でも、どうするの?一日に頑張っても精々二個でしょ?このままだと祭り当日までに間に合わないんじゃないかしら?」

「そんなもん兄弟子どもにやらせりゃいいんだよ! ゲン!」

「はいっ!」

「お前はこれから当日まで、頑張って今日みたいなのを作り続けろ! そうだな……最低十個だ!! いいな!?」

「わ、わかった……」


 作る数が減ったのはありがたいけど、いいのかな?


「ふっふっふ……」

「――パパ、悪い顔してる」

「これを機に顧客を増やそうとしてるのよ。最近リルファちゃんたちのパーティがお得意様になったばかっりなのに」

「馬っ鹿! うちはこれからだぞ!?」

「――でも、それもこれもゲンのおかげ」

「そうよねー」

「うぐっ……だが、ゲンはうちの跡継ぎだ。構いやしねえよ!!」


 とりあえず、明日からも今日と同じ感じで時間をかけてもいいってことになった……んだよな?

 じゃあ、明日からまた頑張ろう!

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