第3話 流浪の侍 ナギ
「ふぁ~」
「おう、随分と眠そうじゃねえか。出来たのか?」
「……まあ、なんとか」
「どれどれ……ほう?ふむ………」
「――出来ておるか?」
伯父さんが大太刀を矯めつ眇めつしていると、ナギが工房にやって来た。
「ああ……伯父さん」
「んお?ああ、すまんすまん。ほれ」
「ふむふむ……」
ナギも状態をじっくりと確認。
全体の刃の状態を確認してるらしく、かなりの時間を費やしている。刃の状態を確認し終えると、今度は素振りを始めた。感覚を確かめているのか。
全ての作業を終えると、笑みを浮かべてこちらを見て―――
「良き哉良き哉」
「満足してもらえて嬉しいよ」
「これまで何人もの研ぎ師に任せたが、其方が一番だ」
お、おお……一番なんて褒められるとは思ってなかった。
まあ、気に入ってもらえたならなによりだ。うん。
「これからは其方に任せるとしよう」
「「……ん?」」
「おお、忘れておった。これは褒美じゃ、遠慮せず受け取れ」
そう言いながら、ナギは腰に提げていた布袋を掴むと、近くの机に置いた。
……袋を見ただけで分かる。今回の報酬にしては量が多い。ここまでを貰えるほどのことはしていない。
「いや、こんなに受け取れないよ」
「そうか?しかし、これくらいは当然の報酬。それだけの仕事をしたにもかかわらずそれを無下にすれば、己の価値を貶め、果ては鍛冶師の価値を貶めることになりかねんぞ?」
「そうだぞ、ゲン。これは受け取っておけ。俺達のやってることは仕事だ。慈善行為じゃないんだからな」
分かってる。分かってはいるんだけど、納得できない。
できないから………
「わかった。けど、今回は受け取れない」
「おい!」
「命を救われた。それに、今回は手探りでやったから失敗の可能性が高かった。だから、今回はタダだ。でも、次からは受け取らせてもらう」
伯父さんが何かを言いかけようとして、ナギが口を開く。
「――愉快なり」
「「?」」
「此度は其方の言に納得した。故に褒美は宿賃として渡す。それで己が得物を作って見せよ。さすれば我が威厳も保たれる」
そう言い残すと、ナギはどこかへ行ってしまった。
おそらく、早速試し切りするために街の近くへと出掛けたんだと思う。
「バッキャロウ!!」
「――なんだよ」
「ナギ嬢ちゃんにも立場がある! お前の言う事も分からなくはねえが、ここはお前が折れればよかったんだよ!」
「でも……」
「――はぁ。頑固なところはあいつそっくりだぞ。さて、宿賃代わりに渡されたコレはお前のもんだ。言われた通り、最高のモノを作って見せろよ」
オヤジに似てる……か。喜んでいいのかは微妙だな。嬉しいけど。
そういえば、自分用の短剣を作ることはランと伯父さん以外には話してない。なのに、ナギはどうやって知ったんだ?
――――――――
朝のやりとりをバルフレアから聞いたランは早速、リルファとカリナを呼んで作戦会議を始めた。
当然だが、三人とも今は休みで、午後から任務がある。
「――不遜」
「まあまあ」
「私はナギだっけ?彼女と同意見ね。ゲンの腕は確かだもの。任されたのなら報酬は受け取らないと」
「――裏切者」
「オジサマの言う通り、対価を受け取らなければゲンの価値は下がるし、他の鍛冶師たちにも悪影響を及ぼしかねないわ。下に見てつけ上がる輩が出かねない」
「……そうだね。今でも時々だけど、鍛冶師の人に質の悪い武器や防具を整備させて、わざと壊して弁償させる最低な人がいるくらいだもの。自分の立場をしっかり意識しないと」
「あなたの不満も分かるわ。不遜と思うのも仕方ない。でも、これは彼や鍛冶師たちを守ることにも繋がるの。貴女も不満を飲み下せるようになりなさい。何でもかんでも突っかかっていては、いつか彼を苦しませかねないわよ?」
カリナの正論に、ランも返す言葉が無かった。
彼女もゲンを心配している。それが分かるからこそ、彼女の言い分に納得している自分がいることに気付いたからだ。
重苦しい沈黙に耐え切れなくなったリルファは、なんとか話題転換を試みる。
「で、でもさ、最近多くなったよね?武器屋や鍛冶工房に嫌がらせをする人達。最近も、任務で近くの町まで行ったんだけど、嫌がらせしてる現場を見ちゃったんだよね」
「いつの時代も腐った奴等はいるもの。そういった輩は無視するに限るわ」
「――うちは他人事じゃない」
「そうだよね。何かあったら言ってね。私は……駄目でも隊長となら何か手伝えるかもだし!」
「私も手を貸すわよ。御世話になってるし」
「――その時は手を借りるかも」
目に光が戻って来たランを見て、リルファもカリナも知らず拳を固く握り締めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます