第4話 新たな目標

 新たな目標が出来ても、普段の仕事は忘れない。

 黙々と、今日も剣や槍を研磨している。

 頭の中では考え事をしているが。


「さて、どうしたものか……」

『我々の力を貸しましょうか?』

「そう言われてもなぁ。オーバーンさんに釘を刺されてるから、下手に力を使って作ろうものなら、今度こそ監視が付きそうだ」

『ですが、付け焼刃の技術だけで身を守れるとは考えていないのでしょう?』

「まあ……そこまで思い上がったりはしてないけどさ。かと言って、精霊の力を見せびらかすわけにもいかないだろう?」

『問題ないのでは?貴方は鍛冶師です。毎日のように戦うわけではないのですから、非常時に使うための武装であれば許可されるはずです。なにより、我々の力は使われることで貴方に馴染むもの。使用を控えるのは愚策です』


 使うことで馴染む……か。その通りならたしかに持っておくに越したことはないけど、果たして問題ないのだろうか?

 そもそも、使い手が全くいなくて文献にもわずかに残っているくらいの希少な存在なんだろう、俺?自分で希少っていうのは違和感あるけど。

 

「だが、人の目に着くのは控えなきゃ。だろ?」

『ですから、我々の力を宿したモノを作るのです。そうすれば、鍛冶に使わずとも身に付けておくことで我々の力を毎日感じることが出来ますよ』

「……持っているだけでいいのか?」

『確証はありません。ですが、私達の力を無意識に制御することになるかと』

「それは……やる価値はあるだろうけど。でもなぁ……」

『盗まれることはない。それだけは断言しておきます』

「どうして?」

『それは口で説明しても信じられないかと。ですから、まずは許可ですね。さあ、行きましょう!』


 今日はやけに積極的だなー。

 あっ、伯父さんに言っておかないと。


※※※


 伯父さんから許可を貰い、仕事を早めに切り上げて今は夕方も近い頃。

 今は大きな建物の前に立っている。

 看板はないが、知っている。

 ランが所属しているクラン、「月下の夜会」の集会所だ。


「うわぁ……まさか、ここに来る日が来ようとは」

『さっさと確認を取りますよ。さあ、行くのです』

「はいはい」


 扉を開くと――中はとんでもなく広かった。

 あれ?こ、こんなに広かったっけ?もっと狭い印象が建物からしたんだけど………はっ! 当初の目的を忘れちゃ駄目だ。オーバーンさんがいるか確認しないと。

 近くの人に訊いてみよう。な、なるべく優しそうな人がいいなぁ。


「すいません」

「ん?部外者は立ち入り禁止だぞ……って、ランちゃんのお兄さんか! いつも活躍してくれて、凄く助かってるよ。それで、今日は何の用だ?ランちゃんは今出かけてるけど」

「ランがいつも御世話になってます。それでですね、今日はランじゃなくてオーバーンさんに用がありまして」

「団長?いるはずだからちょっと確認してくるよ。適当に座って待っててくれるかな?」

「わかりました」


 感じの良い人に話し掛けれてよかった。

 しかし、やっぱり広いなー……ん?重い足音が後ろで止まった気が。


「――ゲンか」

「あ、ゼムルさん。こんにちは」

「ああ。今日は何用だ?」

「――私ですよ。お疲れ様です。今日はもう休んで結構ですよ」

「わかった。ゲン、またな」


 ゼムルさんは片手を上げて去って行っちゃった。

 オーバーンさんはやって来ると、すぐに自室に連れて行かれた。

 部屋に着くまでに通りすがった人みんなから手を振られた。ランの兄であることは周知の事実のようだ。なんかちょっと照れ臭いな。


 部屋に到着すると、オーバーンさんはすぐに魔法を使った。何の魔法かはよくわからなかった。


「さて、今日は何の用かしら?ランの近況?」

「いや、別件です」

「ふ~ん……気を抜いたら駄目よ」

「え?」

「いつ誰が聞いてるか分からないのだから――ねえ?」

「――密会は許さない」

「ラン!?いや、これはだな……」

「――怪しい。白状して」

「私も今から用件を聞くところよ。それで、ランでなければ何かしら?」


 え?いつのまにか侵入していたランは咎めないんですか?

 あと、全く気付かなかったんだけど、増々暗殺者っぽくなった気がして、お兄ちゃんとしては不安だよ。

 

「護身用に精霊の力を持った短剣を作ろうと思ってます」

「……それで?」

「えっと………き、許可を頂こうかと思いまして……」


 恐る恐る提案してみると、オーバーンさんはあっけらかんと言ってきた。


「あら、別に許可を取りに来なくてもいいのに。作った後でランから報告してもらえれば、作ること自体は自由にしてもらって構わないわよ?」

「……いいんですか?」

「ええ。私にゲン君の自由を奪う権利はないもの。ただし、前にも言ったけれど、ゲン君とラン、それからオジサマとオバサマの身の安全を守る義務が私にはあると思ってるの。だから、簡単にいくつも作るのを見過ごすことはできないって話よ。ゲン君の製作物が管理できる程度であれば問題ないわ」

「なるほど。わかりました。ありがとうございます」


 下げた頭を上げると、オーバーンさんが穏やかな笑みで見ていた。

 本気で心配してくれているんだと思う。うーん……姉がいたら、こんな感じなのかな?


「それで、素材はどうするつもりなの?」

「それは――」

『私から提案が』

「――ノーラン」


 今まで隠れていたノーランが実体化する。

 さすがにオーバーンさんもランも二度目は驚かなかった。もう一回見たかったのに。


『我々の力を付与するにあたり、我々の感応石を探していただきたいのです』

「感応石がいるって言ってます」

「ふむ………それは普通には手に入らない物ね?」


 俺にはさっぱりだけど、オーバーンさんには思い当たる物があるらしい。

 ノーランはオーバーンさんの問いかけに首肯した。


「ラン、貴女に暇を与えます」

「――ゲンの護衛?」

「そう取ってもらって結構です。一人にすると何をするか分かりませんからね。貴女とカリナの二人で手伝ってあげれば、御返しにはちょうどいいのでは?」

「――わかった。ありがとう」

「えっと……ありがとうございます」

「完成したら見せてね?」


 その後、ちょっとした雑談をし、オーバーンさんとバーニヤさんに見送られながら工房に戻った。仕事が終わっていたランも一緒だ。


 道中で合流したカリナを連れて工房に戻ると、渋い顔の伯父さんに、「今日はもう上がっていい」と言われてしまった。



「――いつから?」

「なるべく早く素材を集めようかと思ってる。早めに慣れておきたいからな――」「と・う・ぜ・ん! 私も連れて行くわよね?」

「――あなたの出る幕じゃない、カリナ」

「貴女一人では荷が重すぎるんじゃない?先日の事、忘れたわけじゃないでしょう?」

「――うぐっ」



「別に、仲間外れにしなくてもいいでしょ?その……友達なのだし」




「――我も付き合おう。愉快な香りがするゆえな」

「ナギ……でも、いいのか?」

「暇ゆえ構わぬ。それに、楽しくなりそうじゃからな」



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