第5話 ゲンの冒険、始まり!

 荷物、よし。

 馬、よし。

 天気、よし。

 みんなは―――


「準備はいいか?」

「――バッチリ」

「私も出来てるわ」

「我も」

「じゃあ――」

「「「 出発!!」」」



 俺の短剣に必要な素材を集めに行くことが決まってから二日後の今日。

 俺、ラン、カリナ、ナギの四人が集まった。

 ランはオーバーンさんから自由に動いていいと言われて。

 カリナは俺の護衛として。

 ナギは気分で。

 大変心強い三人だが、時々睨み合うことがあるから心配してる。

 な、なるべく早く済ませるようにしよう。でないと、俺の胃がやられそうだし!


※※※


「それで、まずはどこに行くの?」

「まずは――ガラン洞穴だ。そこで砥石と短剣用の鉱石、それと魔石類も回収できればと思ってる。魔石に関しては余裕があればだ」

「ふむ……あそこは少々危険なり」

「――最近になって魔物が住み着いたって情報もある」

「魔物が住み着くくらいだから、モノは期待できそうね」

「ノーランからの提案でな。ここから近い場所で最も質の高いモノが出る場所ってことでガランに決まったんだ。みんなもいるから問題ないと思ってる」

「――任せて」

「この私がいるのだもの、必ずゲンを守ってみせるわ」

「愉快な事が起きそうだ」


 ゲンが振り返ると、ランとカリナはやる気に満ちた目で見返す。

 ナギは少し背筋が寒くなる笑みを浮かべていた。


「それで、その後はどこへ行くの?」

「――話も聞かずに来ちゃった」

「我も」

「……そうだったな。まず―――」



 最初に向かうのはガラン洞穴。ここで砥石と短剣作りに必要な鉱石を集める。余裕があれば、用途が様々ある魔石類も。

 二つ目。マホロク地下遺跡にある泉の綺麗な水と、その近くにある水晶。それから泉のそばに生えてるクナラの花も。

 三つ目。エシャル火山で希少金属と石炭を採掘。

 そして、最後の四つ目。セボナ大森林で炉にくべる薪を採集。



「――って感じだけど、分かったか?」

「――大丈夫」

「随分とたくさん集めるのね。しかも一度に」


 カリナがそれぞれの馬に吊るされている空の布袋を見て言う。

 言外に、「馬車の方がよかったんじゃない?」と言われ、ゲンは苦笑するしかなかった。


「集める素材は全部、ゲンの短剣を造る時に使うの?」

「量によるな。多く集められたら他の時のために残しておく」

「――運べる?」

「そのための馬だ。今回は集めるモノが多いからな。馬車は借りれなかったけど、馬たちに荷物を運んでもらう」

「ゲンが採集している間、私達は荷物とゲンの警備ってわけね。任せなさい!!」

「――荷運びも」

「そっちは俺が自分でするさ。さすがにそこまでされると男の俺の立つ瀬がないからな」


 背後から鋭い視線を感じてゲンが振り返ると、ナギが半眼で見詰めていた。

 ゲンを品定めするかのように、その眼は真っ直ぐにゲンの眼を見ている。


「矜持か、意志か。二つは守れぬぞ?」

「「――――」」

「ちょっとした心構えさ。全てを頼り切ってしまうと、俺はこれからもみんなをアテにした行動を取りかねない。だから、自分で出来る事は自分でする。そういう表明は大事だろ?」

「……汝といると飽きずに済む」


 見守っていたランとカリナから敵意を向けられても一切動じないナギ。

 ひとまずは認めたらしく、ナギは視線を流れる風景に移し、馬の足を少し緩めた。

 並走する形でやって来たカリナが、声をひそめてゲンに話し掛ける。


「悪い人ではないのかもしれないけど、なんとなく、人を信用していない感じがするわね。それに、王都にいた時に聞いた気がするのよね。『ナギ』って名前」

「――思い出せ」

「そんなすぐに思い出せるわけないでしょ!?」


 いつの間にか、カリナとは反対側のゲンの隣に来ていたランから無遠慮な声が届き、カリナは驚きつつもすぐに言い返す。

 ランの表情に呆れが雑じっていることを二人は気付いていた。


「ははは……ラン、あまり無茶を言わないようにな」

「――役立たず」

「このっ…! 待ちなさい! 今日という今日は、そのひねくれた性格を叩き直してあげるわ!!」


 ランはカリナから逃げるように馬を走らせ、カリナも追い付くべく急ぐ。

 そんな二人のやりとりを、ゲンは穏やかな表情で見守っていると、不意に肩に重みを感じた。


『騒々しいわね』

『それが人というもの。それに、見ていて楽しいでしょう?』

「ノーラン、ちょっとジジ臭い――いや、この場合はババ臭いってことになるか……って、物凄く不機嫌になったな」

『そりゃあ、あんなこと言われたら不機嫌にもなるわよ。あなたはもっと異性の扱いを学ぶべきね。まあ、私達に性別はないけど』


 右肩のノーランが顔を背けた理由を、サラが簡潔に説明しつつ、御説教されてしまった。

 女の子の扱いなんて言われてもなぁ……。


「それで、洞穴に入ったらノーランが探すってことでいいんだよな?」

『……ええ、このオババに!御任せくださいね?』


 ははは……物凄くへそを曲げられた。

 これは当分引き摺りそうだなぁ……。


『さっさと謝ればいいのよ。誠心誠意ね』

「ノーラン、さっきは悪かったよ。これからは気を付けるから、機嫌を直してくれないか?」

『ええ、構いませんよ! 私は貴方よりも年上ですからね!!』

「……本当にごめん」


 はぁ………どうすればいいんだろうか。

 精霊の機嫌の取り方なんて知らないのだが……。

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