第7話 嵐の前の静けさ
魔物の群れの襲来は実に三年ぶりだ。
前回はミノタウロス率いるオーク、ゴブリン、ウォーウルフの混成部隊、総勢四百体の侵攻だった。
このとき、当時町に存在した20パーティと5クランの総勢300名によって撃退された。
主導したのは今は王都にてギルドにまで成長したとあるクランで、このクランの当時のメンバー、現幹部20名を中心に拠点防衛組と遊撃組に分かれ、二日間に及ぶ死闘を繰り広げた。このクランがいなければこの町は落ちていただろう。
今回は前回よりも少ない百体のゴブリンの群れらしい。
オークが数体混じってるが、ほとんどゴブリンの群れと同じらしい。
この町にいる冒険者だけでも十分対応できるだろうって知り合いのおじさんが言ってた。
「ゲン、今日はもう仕事は無しだ」
「そうだろうな。でも、家に籠って居ろってことか?」
「いや、もしかしたら研ぎの依頼が前線から来るかもしれねえからな。今日は急な依頼が来てもいいようにしておくんだよ」
「なるほどな。だったらいっそのこと前線近くまで行った方がいいんじゃないか?その方が早く取り掛かれるだろ?」
「馬鹿かお前は。万が一にでも突破されたら最初に襲われるのは俺等鍛冶師じゃねえか。御荷物になっちまうだろうが」
「それもそうか」
「それにな、何も敵は前から来るばかりじゃねえ」
「……今来ているのは陽動かもしれないってことか?」
「可能性としてはあるって話だ。何もないに越したことはねえが、敵も馬鹿じゃあねえだろう。前回の事がある。学習しているかもしれねえ」
魔物が学習……そうであればかなりの脅威と言えるのでは?
人間は魔物には無い知恵で生き抜いて来ている。
なのにそのお株を奪うかもしれない、いや、奪っているかもしれないって?
そんなものに果たして太刀打ちできるのか…?
前回の戦闘において特異な点が三つ存在した。
一つ。ミノタウロスが魔物たちの指揮をしていたこと。
曰く、襲撃してきた魔物の部隊には必ず一体はミノタウロスがいたとのこと。
そして、ヤツを中心にして魔物たちが行動していたらしい。
二つ。ウォーウルフ――二足歩行の狼である――が他種族の、しかもエサであるゴブリンと共に行動していたこと。
本来、ウォーウルフにとってゴブリンはエサでしかないはずなのに、協力関係を築いているなど誰が思おうか。
三つ。ゴブリンが武器を作り、オークやミノタウロス、時にはウォーウルフに提供していたのだ。
武器と言ってもお粗末なもので、木製の物ばかりでさほど脅威にならなかったが、武器を持って戦う魔物に当時の冒険者は驚かされたらしい。
これら三点の影響によって当初の見積もりよりも長い時間がかかってしまった。
この反省を踏まえた対策を今日まで徹底してきたこともあって、今の町の状況は比較的弛緩した空気が流れている。
油断はしていない……が、想定外の事態に陥った時にパニックが起きてしまいそうな気がするのは俺だけじゃなく、伯父さんもらしい。
何か、嫌な予感がする。
こういうときの俺の予感は的中するらしく、伯父さんはいつも渋い顔をする。
今もそうだ。
「俺の予想とお前の予感が一致したら大変なことになるぞ。ヘタすれば前回よりも長引くか、甚大な被害を被るかもしれねえな」
「何とか出来ない?」
「……町長に掛け合ってみるか」
「俺も一緒に行く」
「いや、ここを留守にしたくはねえ。お前は残れ。代わりに他のヤツを連れてく。なんかあればすぐに伝えろ、いいな?」
「ああ、わかった。任せてくれ」
「ふん……ちっとは男らしくなったじゃねえか」
何も無ければいい。だが、何かがまた起こるかもしれない。
こんな時に自分も戦えたらなって思うんだが、まともに武器を扱えた事が無いんだよな。
伯父さんは一応自衛くらいは出来るらしい。
やっぱり、何かしら覚えた方がいいよな。
“今回の防衛線にて指揮を執らせてもらうことになった!これより、俺の指揮の下動いてもらう!号令があるまでは準備の時間だ!各自、準備を怠るなよ!”
「だそうです。が、我々には独自に行動しても良いとの通達が来ています。各自の判断で自由に行動してください。必要があれば通信結晶で報告を。以上です」
「――つまり遊撃?」
「そう言う事です、ラン。大好きな彼の元に居てもいいですよ?」
「――役目は果たす。それにゲンは守られるほど弱くない」
「そうですか。ならば、存分に暴れて来なさい。久方ぶりの大規模戦です、皆さんも思う存分狩りなさい」
こんな時にゲンの側にいてもゲンを困らせるだけ。
ならば魔物を狩っているほうが有意義。
ついでに功績を挙げて上に行くチャンス。頑張らないと。
「ああ、そうそう。ラン、今日の出来高次第ではありますが、活躍したならばそれ相応に武器用の素材をもっと持って行ってもいいですよ」
「――いいの?」
「ええ。ただし、他のクラン以上の成果を挙げたらです。頑張ってくださいね?」
これでさらに頑張る理由が増えた。
待っててね、ゲン。私頑張るから。
「お手並み拝見といきますか。あなたの実力を見せてください」
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