閑話休題――ランの日常――

「ラーン! もう朝よ。早く御飯食べなさい」

「俺が起こしに行くよ」


 ………もう、起きないと。


「ラン。起きてるか?」

「―――今起きた」

「大丈夫か?気怠そうな声だが……」

「――大丈夫。ちょっと疲れただけ」

「そうか。無理はするなよ?」

「――うん」


 ゲンを心配させちゃった。パパとママも心配してるんだろうな……


「そういえば今朝、ラン宛の手紙が届いてたぞ」

「――どこから?」

「首長からだ。この前の戦闘での功労者に対する褒賞の話じゃないか?」

「――後で確認する」

「そうか。それと、一応風呂を沸かしといたぞ。冷めないうちに入れよ?」

「――うん」



 ゲンは何かと気にかけてくれる優しいお兄ちゃん。

 でも、うちに来た当時はずっと塞ぎ込んでいた。

 パパや今の兄弟子たちが気にかけていたけど全然反応を示さなかった。 

 私が外に連れ出しても全く反応しなかった。


 でも、パパがあの砥石を渡した時にガラっと変わった。

 パパは形見だからと、あの砥石を渡したんだと思うけど、ゲンはあの時に衝撃を受けてたのを覚えてる。


 砥石を貰ってから3日経ったくらいにパパにお願いしに行ってた。

 鍛冶師になろうとしたみたい。パパは、少しでも気が紛れるなら、と了承した。

 それからはずっと仕事にのめり込んでいった。


 それから1年が経った頃に私はゲンに剣の整備を任せるようになった。

 それまではパパがしてくれてたけど、何となくでお願いしたら引き受けてくれた。

 パパはショックを受けてたけど。



「――ゲン」

「ん?ああ、またか。いいよ」

「――ん」


 お風呂上りはいつもゲンに髪を梳いてもらってる。

 ママが忙しく、手入れをしてなかったらゲンが代わりにやってくれて、いつの間にか習慣になってた。


「これくらいでいいか。今日はどの髪留めにする?」

「――水色」

「了解。もう少しだけ大人しくしててくれよ………よし! これでいいだろう。もう動いていいぞ」

「――今日も完璧」

「毎日やってたらそりゃあ慣れるさ。違和感はないか?」

「――問題なし」


 朝ご飯を食べようとゲンと並んで部屋に入ると、ママがニコニコ笑顔で迎えてくれた。


「あらあら、やっぱり仲良しね」

「早くメシ食え。もう冷めちまってるがな」

「――ごめんなさい」

「いいわよ。でも、明日からはもう少し余裕をもって起きてきてね? 疲れてるのはわかるけど、仕事もあるんだから」

「――うん」

「伯父さん、先に行ってるよ。リルファの武具を製作しないといけないから」


 ゲンは私のために仕事を遅らせてくれてたんだ。


「……自信が付いたみてえでなによりだ」

「よっぽど嬉しいんでしょうね。ようやく、一人前と認められるから」

「はんっ! まだまだヒヨッコよ。これからドンドン経験を積んでうちの跡を継いでもらわねえとな!」

「――パパ、ちょっと話があるんだけど」

「ん?なんだ突然。まさか……付き合ってるヤツがいるのか!?」

「――そうじゃない。ゲンの剣――雷切について」

「そんな名前なのか?」

「――うん。2人で付けた」


 二人であれこれ意見を出し合って決めた、初めての武器。

 二人の武器、ここ大事。


「そうか……それで、話ってのは?」

「――剣のことを誰にも口外しないで欲しい」

「……警告されたのか?」

「――団長から言われた。あの剣は誰にも知られちゃいけないって」

「分かった。他の弟子たちにも伝えない。ゲンにも言い含めておく」

「――ゲンには団長から話をしたみたい」

「そうか……ならいいが」

「――ママも言わないでね?」

「あらあら、信用が無いわね。言わないわよ。家族内で秘めておけばいいんでしょ?にしても、ゲンも成長したのね。まだまだ子供だと思っていたのにいつの間にか大人になって」

「ふん! まだまだ子供だ。恋愛も鍛冶もこれからなんだからな!」

「ふふっ……寂しいの?」

「なわけあるか! さっきも言ったが、これから経験積んでゆくゆくは跡を継いでもらうんだ。今はまだガキだ、ガキ!」

「――パパ、子供みたい」

「なっ――」

「あらあら、ランに指摘されちゃったわね」

「――これからクランに顔出しに行くから」

「行ってらっしゃい」



 パパはゲンを跡継ぎにするつもりなんだ。 

 ゲンは後々工房の跡を継ぐ……その時に私は――


「ラン。聞いていますか?」

「――ん。聞いてなかった」

「はぁ……もう一度言いますよ。今日からは一時的に周辺警戒任務のみとなります。この前の事がありますからね。なので、これから1週間ほどは三人一組で周辺巡回してください。異常があれば報告を」

「――彼女は?」

「アレですか?放置です。さすがに敵対することはないでしょう。協力はしませんが、向こうから何かしらの接触がない限りは無視して構いません。――ラン、無闇に突っかかることがないようにしてくださいね?」

「――目の前に現れたら無理」


 見つけた瞬間に斬りかかる自信しかない。


「はぁ……ファールス、ゼムル。ランの事をお願いしますね?」

「任された」

「僕だと手も足も出ませんよ?」

「ゼムルが抑えるので、あなたはサポートです。頑張りなさい」

「わかりました。胃が痛いな……」

「――何?」

「なんでもありません!」

「では、事前に決められたメンバーで順次巡回を開始してください」

『はい!!』



 これから一週間は巡回か……もっとこの『雷切』を試したいのに。

 彼女を試し斬りの相手にしたかったな………

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