第4話 研ぎ師、一時探偵
「――ゲン、御飯出来た…よ?」
「………」
「ゲン! 仕事が溜まってるぞ!!」
「………」
「ダメだな。父親が死んだ時と同じくらいに気落ちしている。いや、物事をキチンと理解出来ている点ではあの時以上か……」
「――もう二日経ってるけど、まだ見つからない」
「ランのとこの団長が、三日もすればって言っていたのにな」
ランと父のバルフレアが工房と隣接する家の二階から下りてくるとそこには――
「その件に関しては申し訳ありませんでした」
「――団長。どうしてここに?」
「謝罪しに来たのです。すぐに見つかると豪語していたのに、二日経った今でも手掛かりすら見つけられていないという失態。申し開きの言葉もありません」
自身の言葉を実現出来なかったとして、オーバーン本人が謝罪に来た。
この状況にランもバルフレアも目を見開いて、開いた口が塞がらないようだ。
「今も部下には捜索させています。必ずや、三日後までに探し出してみせます」
「――私も探す」
「そうですね。今は少しでも手が欲しいですから」
「――ん。じゃあ今から探す」
「ファールスをサポートに付けます。彼からこれまでの情報を聞いてください。私は一旦拠点へ戻り、今ある情報を精査します」
「よろしく頼む。二人のためにも、絶対に許せねえからな」
バルフレアは火でも吹くかの如く、顔を赤く染めて目を血走らせている。
余程腹に据えかねていることが分かる。
目の奥には怒りの炎が燻っていることも見て取れるほどだ。
ランは外行の装いに着替えるとすぐに出て行った。
その後を追うようにオーバーンも歩いて出て行った。
「――ファル、教えて」
「は、はい! まずですね、ここ二日は外へと出た人間はいないとのことです。この街の結界を管理している人から直接確認したので間違いありません」
「――それで?」
「今のところ、状況を精査して犯人を絞り込んでいる段階です。主な容疑者は、姿を消せる魔法を持つ者、意識を逸らすことの出来る者。それから、工房にいた人の関係者を洗っているところです」
「――工房の関係者も?」
「はい。全員が容疑者になり得るので、徹底的に調べなさい、と命令が来ています。経過としては、いまたに半分ほどしか容疑が晴れてる人間はいないとのことです」
「――そっか。私は何をすれば?」
「一つの可能性ですが、相手はグループで活動していて、どこかに拠点があるのではないか、という話が出ています。ランさんも拠点探しの捜索隊に加えるようにと言われています」
「――わかった。どこを探せばいいの?」
「今日はですね―――」
ランのクランが捜索を開始してから二日が経ったが、目ぼしい成果は特に上がらなかった。
時間だけが過ぎていくことに段々と焦りが募ってきていた。
※※※
剣が無くなってから四日が経った今日、クランのメンバー総勢30名が朝から拠点に集まっていた。もちろん、ランも。
「今日はこの地区を徹底的に調べます。捜索隊は早速向かってください。事務方は今日も情報を精査します。皆さん、必ず見つけますよ」
『はい!!』
これまでも調べてきた地区は、とてもではないが調べ切れているとは言えないくらいに広大だ。一つのクランだけではとてもではないがカバーしきれないが、それでも今までよくやった方だと言えるだろう。
事務方に関しても、毎日百人分近い情報を精査し続けてきて疲労が目に見えていたが、クランの仲間のためにこれまで頑張ってきた。
こちらは終わりが見えている分まだマシだろう。
「こちら、何も見つけられませんでした!」
「こっちもだ!」
「同じく!」
「――こっちも。ディーン、そっちは?」
「こちらも何もありませんでした。すいません」
先程、ディーンと呼ばれたのが新たにランのクランに加わった新人。
捜索隊に自ら志願して今日も懸命に頑張っている。
「ここはもういい。次の場所へ移動するぞ!」
「ランさん。少しいいですか?」
「――なに?」
「あの剣についてです。貴女と彼、団長以外で他に誰が知っていますか?」
「――なんでそんなことを聞くの?」
「僕はこれでもそれなりに目利きなので、あの剣がどれほど素晴らしい物かわかります。だからこそ、少しでも捜索の手掛かりになる情報は欲しいんです」
ランはかなり怪しんだものの、これくらいならば、と口にした。
「――あとはパパだけ。それ以外は知らないはず」
「そうですか。貴重な情報をありがとうございます」
「――役に立つ?」
「かなり絞れることは確実です」
しかし、残念ながら今日も捜索、事務のどちらでも成果はなかった。
手掛かりが何もないことに、ランは自分で思っている以上に焦っていた。
それは他のメンバー、特にオーバーンもだ。
「……俺が思い悩んでも意味はないか。みんなも心配してくれてるみたいだし」
『協力者、ようやく目覚めましたか』
「え?……ええっと、精霊、でいいのか?」
『そういえば、名前を教えていませんでしたね。私の名前はノーランです』
「ノーラン……。それで、待っていたようだけどなんでだ?」
『貴方の、そして彼女の剣を取り戻すのを手助けしようかと思いまして』
「……助けくれるのか?」
『協力者たる貴方が困っており、かつ彼女も困っているとなれば、私だけ傍観しているわけにはいきませんから』
「その、協力者ってのはなんだ?」
何かを協力させられるのだろうか?
たとえば……精霊探し?
『……今はまだ、秘密です。ですが、貴方にとって不都合を与えることはありませんから、頭の片隅にでも置いといてください。それよりも、今は剣が先でしょう?』
「そうだな。それで、剣の在処が分かるのか?」
『完全に把握出来ているわけではありませんが、おおよその方角は分かります』
「分かった。案内してくれ」
『分かりました。今すぐに行きましょう』
ラン、お前が頑張っているのに、俺一人だけ寝てばかりもいられないよな。
俺もやれることをやってみるよ。
ちなみに言っておくと、精霊の声は選ばれた者にしか聞こえないようで、頭に直接語り掛けてくるように話をしてくる。
だから、俺の頭の中で会話をすることが出来る。
「それで、どこへ向かえばいいんだ?」
『あの建物を目指してください。波動はそちらから感じられますから』
「さっきから気になっていたんだが、目印はその波動ってやつなのか?そんなもので分かるものなのか?」
『あの剣は私の砥石で磨かれていますから。私には分かるものなのです。どこにあろうと』
「他にも何かあるのか?」
『そうですね……あの砥石で使い手が感情を込めて研ぐと、研いだ武器の真価を発揮出来るのは使い手が感情を向けた相手だけになります』
俺の場合はランとリルファだな。
それぞれが固有の武器になっているのか。
「他の人が使うと?」
『ただの切れ味がちょっと良い程度の武器でしかありません』
「つまり、盗んだとしても真価を発揮できないから宝の持ち腐れになると?」
『その認識で合っていますよ。加えると、どんな鑑定士であっても、あの剣の真価を発見することも、理解することも出来ません』
他人には扱えないのならば、売ろうとしても大したお金にならないし、譲渡しても意味が無い。それなら他の武器を買った方がマシということか。
「次はどっちだ?」
『あちらです。だいぶ近付いて来たようです。先程よりも波動を感じられるようになってきました』
「分かった。適宜伝えてくれ」
『分かりました』
この区画は確か………
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