第6話 依頼主は……

「おう!やっと帰って来たか」

「ただいま。依頼品は渡してくれた?」

「当たり前だろ!……そうだった。依頼主とリルファ嬢ちゃんが待ってるぞ」

「え?依頼主はまだいるのか?」

「なんでも一目お前に会いたいらしくてな」

「――パパ。その人は男?女?」

「ランか! 久しぶりだなー! 元気にしてたか?ちゃんとメシ食ってるか?武器の調整は問題ないか?防具はどうだ?」

「――パパ、うざい」

「えっ―――」


 あっ……伯父さんがこれまで見たことがないくらいのショックを受けてる。

 膝から崩れ落ちるって相当だぞ……。 

 あの伯父さんも、可愛がってる娘からああ言われたら傷つくんだな。


「ママ、来たのは男?女?」

「あら、ラン。久しぶりね。女の人よ。ランと変わらないくらい若かったわ」

「――私と変わらないくらい?」

「ゲン!約束通り素材を持って来たよ!」

「リルファか。今日はランの武器の整備をするから明日以降になるぞ」

「いいよ。すぐに必要ってわけじゃないから」

「そうか。なら、出来たら連絡する」

「お願い。じゃあ、私はこれからクエストに行くから」


 ランの武器の整備のためにも、もう行かないとな。


「またな――」

「ゲン?本当にゲン?」

「――え?俺のことを知ってるのか?」

「覚えてない?カリナだよ?」

「カリナ?―――ランが言ってた『星の見える丘』ってクランの?」

「……昔の事、覚えてないの?」


 覚えていない?そんなことを言われてもな。


「あー、カリナって言ったか。ゲンは昔親父を亡くしたショックで記憶の一部を失くしたんだ。だから、嬢ちゃんのことも忘れてんのかもしれねえ」

「ガルダおじさんが亡くなったの?原因は?」

「――本当に知ってんだな。ガルダは落盤事故で亡くなったんだ。もう十年も前の話だがな」


 親父の事を知っているのか。

 しかし………


「本当に俺のことを知ってるのか?俺は全く覚えてないぞ」

「そう……なんだ。私はカリナ。クラン『星の見える丘』に所属する〈赤〉ランクの上位冒険者。ゲンのお父さんであるガルダおじさんが亡くなる一年前に引っ越したの。だから、亡くなったことは知らなかった」

「つうことは、幼馴染ってことか?」

「そうです。今回の依頼は、ちらっとゲンという名前を聞いて、まさかと思い依頼しました。依頼すれば必ず会えると思って。そしたら本当に本人だったので驚きました。記憶を失ったことは残念ですけど」

「――ゲンの幼馴染ポジが一人増えた」

「え?えーと、あなたは誰ですか?」

「――ラン。ゲンの従妹。ゲンがこっちに来てからはずっと一緒に行動してる」


 ランが俺の前に来て、カリナと対峙するように立った。

 なんか、喧嘩腰なんだけど………


「つっても最近はクラン活動でまともに家に帰って来れてなかったがな」

「――パパ、うるさい」

「わ、私はパーティ『湖の騎士団』所属のリルファです!」

「――泥棒猫」

「誰が泥棒猫ですか!! デートに一回行っただけで!」

「――私のゲンに許可なく近付いた」

「私のってなんですか! ゲンは誰の物でもないでしょ!!」

「なあ伯父さん。なんでランとリルファは喧嘩してんだ?」

「お前……本気で言ってんのか?」


 なぜだろう。伯父さんに心底呆れた目で見られた。

 確かに、一般的には男を取り合ってるように見えるが、俺からすると違和感しかない。

 だって、俺の事が好きな奴はいないだろう?男らしくないし、腕っぷしが強いわけでもなく、喋りが上手いこともないし、カッコよくもない。

 伯父さんみたいに渋さがあるわけでもないのだから、誰が好きになるのか。

 そんなヤツは随分と物好きだと思うよ。


「………わからん」

「そうか……まあなんだ、頑張れ。ただし、ランはやらんからな!!」

「――パパ、キモい」

「ぐふっ!!」


 今日一番のダメージを受けたようだ。

 ランのことを目に入れても痛くないくらい溺愛してるからな。

 ああ言われるとショックなんだろう。俺にはわからないが。


「ラン、伯父さんが本気でショックを受けてるから程々にな」

「――事実を言ってるだけ。ゲンは甘い」

「……伯父さんが泣いてるからもう少し手加減してやれよ」

「――善処する」

「それはやらないヤツの常套句だ」

「――随分仲が良いのね?」


 カリナの方に振り向くと、眉を吊り上げて少し不満そうな顔をしていた。


「え?ああ、ランのことか?伯父さんに引き取られてからはずっと一緒だからな。最近はクランの仕事で会う機会は減ってるけど、武器の整備は俺の仕事だから、一週間に一回は顔を合わせるよ。今でも妹みたいに思ってる」

「――でも同い年」

「俺の方が早く生まれてるんだから別にいいだろ?」

「――別にいい。妹なら兄に甘えられるから」

「そちらのリルファさんは?」

「私はゲンに仕事を依頼している冒険者です」

「ふーん、そう。それでゲン、今日は会うだけだったんだけど、どうせなら本題に入らせてもらうわね」

「ん?武器の整備が依頼じゃなかったのか?」

「それは会うための口実。メンバーにも伝えていないわ」

「じゃあなんだ?」


 それ以外だと、俺には何も思い浮かばないんだが。

 昔何か言ったかな?


「私の専属にならない?魔物から採れる素材は自由に出来るし、見たこともない武具に創作意欲が刺激されると思うわ」

「まあ、うちに居ちゃあ体験できないことを体験できるだろうな。悪くない話だ。そこらの普通の鍛冶師なら即答する案件だな」

「――上を目指すなら悪くない、どころか貴重な機会」

「王都でも有名なクランで専属として働けるのは良い話だと思います」

「――嫉妬?」

「そんなみっともないことはしませんよ?」

「――ホント?」

「た、たぶん大丈夫……だと思いますよ…?」

「――まったく自信がない」


 ランとリルファが視線をぶつけ合ってるな。

 なんとなく、リスと猫が睨み合ってるみたいだ。


「まあ、二人は置いといて。ゲン、みんなが言う通りお前にとっては成長するための良い機会だ。俺らは応援することしか出来ねえ。お前が考えて決めろ」

「…………」

「返事は明日まで待つわ。今日はじっくり――」

「悪いけど断らせてもらうよ」

「―――え?」


(((うん、前回の件があったしなんとなく予想出来てた。)))

 この時、見守っていた三人の心は一致していた。


「え?飛躍するチャンスだよ?滅多にないんだよ?」

「確かにない機会かもしれないが、まだまだ伯父さんから学ぶべきことはたくさんあるし、なによりこの町が好きだ。だから、今はまだここから離れる気はない」

「……泣かせてくれるじゃねえか!」

「――パパが喜んでる。男のツンデレはキモい」

「ちょっと複雑なんだけど………嬉しいような悲しいような」

「考えなお―――」

「警鐘!?魔物が街に近づいているのか!」

「――行かなくちゃ」

「リーダーと合流しないと!」

「……巡り合わせか。いいわ、私も手伝ってあげる」

「みんな無理するなよ!!」


 俺は俺で、やれることをやろう。まずは整備からだ。

 ランが取りに戻るまでに仕上げておかないと!

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