第7話 意外なモノを見てしまった
「遅かったな。何をしていた?」
「ちょっとした後始末です。今回の件は少なからず私にも非がありますから」
俺達が工房に戻ってから十分ほど経った頃にオーバーンさんが到着した。
ゼムルさんはいないようだ。
「――もう少し気を付けた方がいいぞ。血の匂いがするからな」
「あら、それは失礼しました。次からは気を付けますね」
互いに笑顔を浮かべているが、どこか暗い印象を受ける。
というか、ちょっと怖い。目が笑っていないからというのもあるだろう。
にしても、血って何をしてきたんだ――“ もう何も心配いりませんよ ”――。
途端に寒気がした時、伯父さんがやって来た。
「おい、ゲン! ゼブラを知らねえか?あいつ急にどっか行きやがってよ。まったく、どこほっつき歩いてるんだか……」
そうだ、ゼブラが今回の盗人の手引きをしたんだ!
伯父さんに伝えないと。
そう考えて口を開こうとした途端、オーバーンさんがいつの間にか目の前にやって来ていた。
「彼はもういません。脅威は全て排除しました。ですから、もう心配することはありません」
俺にだけ聞えるように左耳に口を寄せてそう言った。聞かなくても分かる。
今回の件はこれを以て終わりだと、そう伝えていることが。
「さて、私達が持つ情報を共有しましょうか」
「そうだな。そのために我々はここまで来たのだからな」
「私も参加してよかったの?」
「貴方のところのリルファって子もゲン君御手製の武器を持っていますよね。ですから、貴方がたも無関係とはいきません。理解しましたか、ヨハンさん?」
そう、工房に戻って来るとヨハンがいた。
どうしてなのかと尋ねると、オーバーンさんから呼び出された、と言っていた。
リルファにも剣と盾を渡してたからか。
「――話の内容はゲンの創った剣?」
「それもあります。もう二つほどあります」
「それはなんだ?我々にも利することか?」
「ええ、利益はあるかと。まず、ゲン君の剣について。私は《賢者》と言われるだけあって、他者よりも膨大な知識を持ち合わせています。それこそ、今では誰も知らないであろう消された魔法や、語られなかった歴史も」
「頭が良い自慢はどうでもいい。本題に入れ」
「はぁ……わかりました。その膨大な知識の中に、今回ゲン君が狙われた理由を解明するものがありました。それが、ロスト・テクノロジー。失われた技術とも言いますね。その一つをゲン君は手に入れた。そして、その技術で人類最高峰の武器を創ってしまった。それが今回の事件の核心です」
ロスト・テクノロジー。過去に存在した技術。
しかし、一人ないし数人のみが扱うことの出来た技術ゆえに、後世にその技術の伝授はなされなかったもの。不可能を不可能なまま可能にしてしまった技術。
今では知っている者はごく一部の人間のみとなっている、ということをノーランから聞かされていた。
「ゲン君、君はどこでそれを手に入れたのかしら?」
オーバーンさんが俺に水を向けた瞬間、この場にいる俺以外の六人の視線が突き刺さった。
「勘違いしないでね。別に取って喰おうなんて考えてないの。これは君が考えている以上に大変なことなの。前にも言ったけど、国中に広まれば冒険者・犯罪者を問わず、色んな人間は君の行動を制限しようとするはず。そうならないためにも、今のうちに状況を把握して対処しなくちゃいけないの。分かってくれる?」
オーバーンさんの目は確かに心配するような感じを受けた。
ランとカリナも心配してくれていることが伝わってくる。
話すしかないか………
『協力者、私の砥石を持って来て下さい』
「え?砥石?持ってくればいいのか?」
『はい。私が姿を見せた方がより理解も深まるでしょうから』
「わかった。少し待っていてくれ」
いきなり話しかけられてビックリしたが、確かにそうだよな。
俺の口から説明するよりも、ノーランから説明してもらった方がいいよな。
「少し待っていてくれませんか。持って来たい物があるので」
「いいですよ。一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
そう言って自分の持ち場に行き、砥石を見つけてすぐに戻った。
「これが始まりです。この砥石が」
「――お父さんの形見」
「ああ、親父の形見の砥石だよ。ただし、特別な物だけどな」
「特別ってどういうこと?」
今まで口を閉ざしていたカリナが尋ねてきた。
親父のことだから気になったのか。
「この砥石には精霊が宿っているんだ。俺はそいつの力を借りてランとリルファの剣を創ったんだ。一人では到底出来なかったよ」
『協力者、私の声は彼女らには届きません。ですから、貴方が代わりに言葉を届けてください』
「ええっと、精霊の声を聞けるのは俺だけみたいだから、みんなには俺から伝えさせてもらう」
「――姿は見せられないの?」
「え?……待ってくれだって」
俺が言い終わると同時にノーランが姿を現す。
その瞬間、俺以外のその場にいる全員が目を見開いて驚いた。
ちょっとイタズラに成功した子供の気分だな。
「精霊のノーランだ。一応、砥石の精霊で土精霊の系譜らしい」
「本当に精霊が存在するなんて……」
カリナが近付いて来てノーランに触れようとしたが、躱されてしまう。
触らせてもらえないことに意地になったようで必死に触ろうとするが、悉く躱されてしまった。
ちょっと可哀想だと思ったが、ノーランが避けるなら仕方ない。
「カリナ、下がれ。話が進まん」
「うっ……ごめんなさい」
グローリアさんに注意されてようやくカリナは引き下がる。
戻る途中、ランから白い目を向けられて目を逸すのを俺は見逃さなかった。
微かに頬が紅潮してたのは、子供っぽい行動を自覚して恥ずかしかったからだろう。
ラン達の方を見ていると、オーバーンさんが話を再開した。
「それで彼女、でいいのかしら?まあ、精霊と呼びましょうか。精霊の力でどうやってあの剣を?ゲン君が創ったのでしょう?」
「ノーランだけじゃなく、他に二体の精霊にも手助けしてもらったんだ」
「他に二体も!?」
オーバーンさんが珍しく驚いている。
さっきもそこまで驚いてなかったし、いつも冷静な感じの人だと感じていたけど、意外と感情豊かな人なのか?
『私が呼び出します。少し待ってください』
「召喚するから少し待ってくれだって」
「――今度は何が出るの?」
「それは――」
『急に呼ばれたんだけど、何?』
『ねーむーいー』
今度こそ全員絶句した。
一日に三体も精霊を見て、常識が一気に崩壊でもしたのだろうか?
オーバーンさんとグローリアさんの二人はパクパクと口が開いたり閉じたりしている。カリナはまたも精霊ににじり寄ろうとしている。
スゲェー、今日だけで俺の中の思い込みも壊れていってるわー。
「こ、この子達も君に協力を…?」
「ああ。ノーランが呼んでくれたんだ。鍛冶にとって最も大事な火と、素材を生かすための水を司っているんだ。サラとウィーネがいなければ、ランとリルファの剣は出来なかったよ。もちろん、仕上げの研ぎにはノーランが手助けしてくれた」
「サラと、ウィーネ……さ、触らせて」
「無理だってさ。精霊は触られることを嫌うみたいだ」
「うぐっ……」
可愛いもの好きなのか?
精霊に触れないと伝えると、カリナが地面に両手をついて口惜しがっていた。
これに、またもランが白い目を向けたのは仕方がないこと。
突然呼び出されたものの、不機嫌ではあるがそのまま居てくれるようだ。
ノーランは俺の右肩に、サラは左肩に、ウィーネは頭に乗っかった。
火精霊ではあるが、サラが気を遣ってくれたのか熱くはない。
うん、よくわからん。
「ええっと、この三人と協力することでようやく出来たんだ。今のところはこのまま協力してくれることになってる……よな?」
尋ねてみると両肩の二人は頷いてくれた。
頭に乗っているウィーネは、寝ているのかまったく反応がない。
ただの屍のようだ。
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