第7話 緊急招集
「さて、団長が招集に参加したためこれからのことは私から説明します」
オーバーンさんが不在だから代わりにバーニヤさんが副団長として団員の皆さんに説明をしている。
ランは眠そうにしながらもちゃんと聞いているようだ。
「現時点での予定では、明日に全部隊を集めた詰めの作戦会議が行われます。そこで布陣の最終決定が行われた後、会議終了から十時間以内に陣地形成が行われることになっています。ここまではいいですか?」
決戦が間近に迫っている事が伝えられ、みんなの顔に緊張が走ってる。
そうだよな。戦うことに慣れているとはいえ、今回は大きく勝手が異なるうえに相手もかなり強いらしいし。
ランも先程の眠そうな目から一瞬で鋭い眼つきに変わってる。
「先に言っておきますが、我々は大規模作戦への参加は初です。これまでのクエストとは脅威度が異なることをよく理解しておいてください。連携が乱れれば死につながります。戦場では常に味方を意識してください」
想像しか出来ないけど、仲間とはぐれるのは勘弁だな。死ぬ未来しか見えない。
「それから、これは頭の片隅に留めておいて欲しいことですが……貴族軍を信用してはなりませんし、頼ってもいけません」
「……裏切る可能性があるからですか?」
「包み隠さず言えば、頼りにならないからです。お荷物も抱えていることですし、むしろこちらに色々と負担が掛かると予測できるからです」
「……足手まとい」
「今回はそういうものだということを頭に入れておくように。いいですね?」
普段から魔物と戦っている冒険者と、護衛役の貴族軍とでは突然の事態における対応に差が出そうだな。貴族軍の方が慣れてなさそう。
「改めて言いますが、背を預ける者を間違えてはいけませんよ。『月下の夜会』は今回味方ですが、他の方々が信用できるとは思わないでください。それと――ゲン君の警備は厳重にお願いしますね?」
……俺?なんでだ??
戦場に出るつもりは一切ないけど……。
「理由を聞いても?」
「後顧の憂いを断つためと……何かきな臭い動きがありますから。『灰被り』の動きも気になります。考えさせられることは多いかと思いますが、頑張りましょう。全ては人々のために」
そう締めくくると、バーニヤさんはこちらにゆっくりと歩いて来た。
他の団員の人達は各々準備に取り掛かり始めてる。
「ゲン君。先程の話のとおり、戦場では厳重な警備を敷いて守りますが、万が一の時は警備の者を置いて逃げてください」
「それは…!!」
「これは貴方のためでもあり、警備の者達のためでもあるのです。ゲン君がいては力を出せない状況もきっとあるでしょう。そんな時、ゲン君が逃げることを躊躇ってしまった結果、最悪の事態になってしまったら………分かって頂けますね?」
「はい。でも…!」
「ここではっきりと言っておきます。今の貴方は足手纏いです。戦えない、守れない。出来ることは武器の整備とランの士気の維持程度。君が万が一にも死んでしまうと逆効果です。いえ、ランがどうなるか誰も予想出来ません。そんな事態は避けなければならないのです」
「……ランが暴走すると?」
「魔法の使用には常に理性が求められます。理性が無くなった時――歯止めが利かなくなった時にどんな惨状が待っているのか、我々にも分からないのです」
魔法を発動中に理性を失った結果、都市が一つ滅びたという御伽噺は聞いたことがある。あるけども……ランにも同様のことが起こせると?
「一つ忠告を。……あの子の中には修羅が眠っています。その目覚めの鍵はゲン君、君です。この事実を忘れないでくださいね」
それだけ言うとバーニヤさんは自身の天幕へと行ってしまった。
俺が鍵?修羅??何のことかはいまいち理解できていないが、とりあえず俺のせいでランが悲しむ事態だけは避けなければならないことだけは分かった!
だから、無謀なことはせずに指示に従おう。少し前に怒られたばっかだしな。
――――――――――
場所は変わって城内大会議室。
今作戦に参加する部隊の長達が集合し、上座には王子が座っている。
「今作戦では王子率いる第三兵団が首魁たるグレートデーモンを討つ! お前達にはそこまでの露払いをしてもらう。いいな?」
「お前達の仕事は我々を助けることだ。間違っても、首魁の首を狙うなどとは考えるなよ?」
手柄は全て自分たちのモノにしたいのね。
まあ、面倒事を全て引き受けてくれるというのだから文句は言わないわ。尻拭いは勘弁だけど。
「布陣はお前達で勝手に決めろ。我々は機を見て出陣する。くれぐれも、足を引っ張るような事だけはしないようにな」
偉そうなチョビ髭の大男はそれだけ言うと王子と一緒に外へと出て行った。取り巻きらしき男達も後に続いて出て行き、残ったのは3クランと1ギルドの長、それからこの城の兵団長である、くたびれた軍服に白髪がやや多めで痩せぎすの中年――ガレーボ准将だけ。
「はぁ……とんだ貧乏くじを引いたもんだ。それで、どうする?」
口火を切ったのはギルド『白亜の巨城』のギルドマスターである、『五鋼斧』のバルガン。
「どうすると言われてもなぁ……。俺達の役回りは露払い。適当に雑魚蹴散らしてればいいんじゃないか?互いに干渉するのは得策じゃないだろう?」
「クラン『霹靂鳥』の長が随分と消極的な案を出したものだな」
「消極的にもなるだろう?やる気がなくなったも同然だぜ?何を楽しみに頑張れってんだよ、グローリア」
グローリアと言葉を交わしているのは『霹靂鳥』の長、『神鳥』ジェール。
神速の速さで飛ぶ鳥、縮めて『神鳥』だとか。
「奴らにグレートデーモンが倒せるとでも?」
「まあ、無理だわな。バルガンさんが来てくれなきゃ俺らは参加する気にもならなかったくらいだし」
「だが、王子の手前、俺達も好き勝手出来るわけではない」
「大人しく撤退してくれれば後は俺達の出番なわけだけど……」
「後でいちゃもん付けられることは目に見えてますね」
「『自分たちのおかげでお前達は倒すことが出来たのだ! つまり、此度の戦果は全て王子のモノである!!』とか平気で言いそう」
その光景が浮かんでしまい、四人とも辟易した表情を浮かべて溜め息を吐く。
そこに、疲れ切った顔の准将がおずおずと割り込んできた。
「この城を預かる者としましては、脅威を取り除いていただければ誰であっても構いません。しっかりと報酬を御支払いします。ですので、何卒御力添えをお願いします!」
「ああ、そこは心配しなくていいさ。俺達は冒険者だ。請け負った仕事を途中で放り出したりしない」
「ありがとうございます!!」
准将が躊躇いなく深々と私達に頭を下げる。
頼りにしているのは私達の方という事ね。同僚たちの得点稼ぎが嫌でも口には出来ず、これまでも多大な苦労をしてきたことが窺えるわ。
「皆さんへの支援は万全を期します。ですので、思う存分魔物どもを蹴散らしてきてください」
少しだけ憂いの晴れた顔で准将は出て行った。
その姿を見送った一同は―――
「まっ、俺達は俺達のやり方でやらせてもらうだけなんだけどな」
「邪魔だけはするなよ」
「『五鋼斧』様の邪魔をする愚か者はここにはいないさ。ここには、な?」
ジェールの軽口を聞き流し、バルガンはさっさと退室した。
ジェールも後に続くように席を立って出て行った。
残されたのはグローリアと私だけ。
「互いの邪魔をしない限りは好きにしていいみたいだな」
「まあ、それが私達のやり方ですからね。変にルールを設けられなくて良かったと、ここは喜ぶべきかと」
「それもそうだな。では、我々もさっさと帰るか」
「ですね」
ここに長居しても良いことなんて微塵もなさそうね。むしろ、嫌な事が起きそうなくらいだわ。
「――あの小娘のところにいるのか?例の小僧が」
「情報提供ではそうなっている」
「目を離すなよ」
「了解」
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