第6章 想い描いた未来のために
6ー1 その先への手がかり
遥とカナタは、早速リムを探すために飛び出した。どこにいるか見当がつかないため、しらみつぶしに探すことにした。最初に探した場所はリムの自宅だった。おそらくいないとはわかっていたが、訪れずにはいられなかった。鍵は空いており自由に入ることはできたが、ヒントになるようなものは見つからない。
「あれ?」
「どうしたの遥?」
「いや、先周きた時は写真なんてなかったなって思ってさ」
机の上には、星空の写真が複数枚あった。全部同じ日付にも関わらず、星空の様子には変化があった。世界がまた21日に戻る時、夜空は不自然な流星群に覆われたことは覚えている。写真に写っている流星群の量は、徐々に減少している様子が記録されているようだった。
「なんかタイムリープする度に減ってるような気がしたけど、多分気のせいじゃなかったんだな」
「なんでリムちゃんが記録してたのかはわからないけど、確かに夜空は変化してたんだね。どんどん月がはっきりと見えるようになってるね」
「星空が減っていくのって、何を表しているんだろうな」
考えても答えは出なかった。そのまま家の中を探しては見たが、特にめぼしい物は見つからなかった。
先周リムと眠ったベッドも、そのままの姿で残されていた。懐かしい匂いと温かな思い出が浮かんで、胸が苦しくなった。思わず伸びた手は、リムの枕に触れていた。そんな遥の姿を、カナタはしっかりと見ていた。
「ふーん」
「いや、違うんだ」
「別に何もいってないんだけど。ね、マザコン」
「いってはいないけど、ここまでいいたいことがわかるのも困りもんだな」
「それで気になってたんだけど、先周はリムちゃんと二人きりだったんだよね。それだとおかしいことがあるんだ」
「おかしいこと?」
「私が喧嘩して飛び出した後、いつもみたいに時間が巻き戻って、気がついたら洞穴の前にいた。だから部屋の準備だけしてマザコンを待っていたんだけど、マザコンが」
「今はそのネタは無しでお願いします」
「……遥が血相を変えて駆け込んできたっていう流れだった。遥が本当にもう一周してたのなら、私は一周飛ばされてる」
聞かされた事実は、遥の想像とは違っていた。てっきりあの日は願い通りに、カナタは未来に帰ったとばかり思っていた。
「俺はてっきり、カナタは未来へ帰れたけど、また戻ってきたんだとばかり思ってた。だけど、違ったのか」
「違うよ。理由はわからないけど、私にはいつも通りのタイムリープだった」
またわからないことが増えてしまった。カナタがいては都合の悪い事情があったのかもしれないと推測はついた。しかし決定的な意味合いはわからなかった。
疑問は残ったが、この件については保留にした。今は一秒でも時間が惜しい。まずはリムを見つけることが先決だった。
リムと全く関係のない場所にはいないだろうと推測して、今までは近づくことを避けてきた高校も探索した。20年前の校舎は元の時代よりも小綺麗で、備品もまだガタがきていなかった。誰かに見つかると厄介だと思い、慎重に進んだ。けれど、予想に反して人はいなかった。
「いくらなんでも、誰もいないっていうのはおかしいよな」
「リムちゃんがいうには、私たち以外は作り物だっていってたよね。それを私たちに伝えたから、わざわざ維持しておく意味は無くなったのかも」
リムからは、遥とカナタ以外は作りものだと聞いていた。そうなると、ここで暮らしている人たちは、どれだけ本物そっくりに見えても、偽物なんだ。過去にきている間、触れ合った雑歌夫妻や暁に中道市長も作り物といわれると、抵抗感はあった。誰しも、本当の人にしか見えなかった。今までの交流も全て幻のようなものだと思うと、少し物悲しい気持ちに襲われた。
探索を続けていくうちに日も暮れてきた。人通りはほとんどなく、生活音や動物の鳴き声も聞こえてこなかった。世界中に二人だけみたいだと錯覚してしまいそうだ。
買い物のために、イサイチを目指した。イサイチは営業していたが、客はほとんどいなかった。
今までの例にならうならば、雑歌夫妻が買い物にきているはずだった。しかし、もう不要だと判断されてこの世界には存在していないかもしれない。
「遥、あれ」
「おっ」
二人はホッと安堵した。何度も見た光景は心を落ち着かせてくれた。のんは今周も変わらず、棚の上の商品に手を伸ばしていた。
前と同様に声をかけて助け、前と同様に絡まれて、前と同様に往復ビンタを目撃した。雑歌夫妻が変わらずにいてくれたことを嬉しく思った。雑談めいた話を交わし、雑貨屋の場所を聞いたところで解散となった。
別れ際に、のんはポツリといった。
「なんだか、今日は人が少ないですね。もしかしたら世界がおかしなことになっているのかもしれませんね」
作り物であるはずなのに、きちんと変化を察している様子だった。これではまるで本当の人と変わらないように思った。本物か偽物かなんて、大した問題ではないのかもしれない。今まで重ねてきた交流を思い出して、少しだけ愉快な気持ちになった。
翌日もリムを探すことに全力を尽くした。幾度となく訪れた商店街を探しても、やはりリムは見つからなかった。何かしらの見当が欲しかったが、ヒントは何もない以上は、しらみつぶしに探す他なかった。
ビルを打ち壊している再開発エリアは、今日は稼働していなかった。人がどんどん減り始めているようだった。
そんな目に見える崩壊が迫りつつあっても、中道は今日もそこにいた。
「おお。今日初めて他人を見た気がするよ」
何も話をしていないにも関わらず、中道は話かけてきた。
「今日は工事やってないんですね」
「うむ。どういうわけか人がいなくってね。しかし妙だな。なんの連絡もなしに今日の工事に誰もこないなんて」
中道は腕を組んで考え込んでいたが、両手を腰に当てて、明るい声色でいい放った。
「まあ今日のところは仕方がないな。今日は今日でやれることをやろう。明日のことは明日やる。それでいいか」
「随分と前向きな考え方ですね」
遥はふいに中道の考えを聞きたくなった。いつだって前向きで、将来への希望に燃えている中道は、絶望的な状況に瀕した時、どうするのだろうか。
唐突だとはわかっているけれど、遥は中道に質問を投げかけた。
「もしもの話なんですけど、世界が予言にあった通り滅亡したとしたら、どうしますか?」
「随分といきなりな質問だけど、答えないわけにはいかないな! まあその時は、滅亡した後の地面に種でも植えようか。生きている限りは、またやり直す機会もやってくるだろう」
力強くいい放つ様子は、とても頼りになるものだった。物語の主人公だったり英雄だったり、そういった特別な力を感じ、安心感を与えられたようだった。こういった人がいてくれれば、人も街も少しずつ活気付いていくのかもしれない。そう遥は感じていた。
少しの間、更地になった土畑を眺め、ここにタワーが建設されていく様子を想像した。人も行き交い、活気ある場所となった未来の姿を、懐かしく思った。
「ありがとうございました。がんばってください」
「ああ、もちろんだとも」
様々な思いが紡がれた未来。そこへ帰りたいと改めて願った。
カナタの手を握りしめ、あてどもなく走り出した。
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