第1章 素直にハルカナ願いまで
1ー1 はるかな祈り
「お前のママはな、実は宇宙人だったんだ」
母親が失踪し、一年ほど経過したとある日、珍しく酩酊している父親から、今宮遥はそのような突拍子もない話を聞かされた。
秋を告げる虫たちの合唱に満たされた今宮家の縁側で、遥と父親である
父親の話がもし本当であるならば、思い思いに主張する夜空の彩りのどこかに、母親がいるのかもしれない。
まだ小学校にあがったばかりの遥にとって、母親がいなくなったことは、寂しさに心を歪ませるには充分すぎた。
遥は今までのように同級生の男子たちと出かけなくなり、部屋に引きこもって母親の好きだった歌を奏でることだけに、人生を費やしているようで物悲気だった。
まるで泣いているようにも聞こえる歌声は、母親に対する怒りと寂しさを表現しているようだった。
そんな姿を見かねて、父親は現実味の薄いヘンテコな話で、自分を慰めてくれているのだ。そう遥は思っていた。
「ママがうちゅうじんだとしたら、どうしてボクのところからいなくなっちゃったの?」
今にも泣きそうな遥の表情に、上機嫌だった暁の表情は陰る。どう答えれば遥を傷つけないで済むか、慎重に答えを探っているようだった。
「ママにとってな、きっと地球は狭すぎたんだよ。世界を見守っているような輝きのどこかで、きっとママは遥のことを見てくれているさ」
「そうかな」
「そうだよ」
遥は、こぼれ落ちそうになった感情の雫を、力強く拭った。
「おほしさま、おねがいします。どうかボクとママが、またあえますように」
混じり気のない、純粋な願い。
どこかにいるのか、本当に星へと帰ってしまったのかもわからない母親を思い、遥は祈り、手を合わせた。
瞬きを続ける星々の粒は、ただ光の粒子が姿を映しているだけだが、まだ幼い少年の思いに、応えてくれているようにも見えた。
「これでまた、ママにあえるかな?」
「会えるさ。きっと」
暁が遥を抱き寄せると、着古されたワイシャツは涙で滲んだ。理不尽を受け入れるには幼すぎる器が、悲しみで満たされてしまわないように、暁は優しく遥の肩を覆った。
それから訪れた出来事は必然であったのか、はたまた運命のきまぐれによるものなのか、誰にも判断することはできないが。
純真で小さな少年の願いは。
母親がいなくなってから十二年の時を経て。
意外な形で叶えられることとなった。
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