5ー5 彼女は全てを知っている
「リム、なんでここに?」
「遥は私といいことしよっか」
まだ名前すら名乗っていないはずなのに、どうして知っているのか。
唐突な疑問に体を動かせずにいると、ふいに体が浮き上がり、仰向けで地面に転がされた。不思議と痛みはないどころか、何をされたのかすらわからなかった。
リムはそのまま遥の下腹部辺りに座った。昂りに呼応した部分が圧迫されて、叫び出しそうな快感が走る。
「ちょっ! ダメだってこんなこと」
「カナタとはできても、私とはダメなの?」
「そういう問題じゃないけど、ダメなんだって。ってかなんで俺とカナタの名前を知ってるんだ!?」
「ふふふ」
リムは、挑発のように遥と体を密着させた。遥は全く動けなかった。沸騰しそうな温度が伝わってきて、理性まで焼き切れてしまいそうだった。
顔を横に向けると、カナタと目が合った。瞳はとろけたままで、荒い呼吸を整えながら横たわったままだった。
「きちんと、こっちを見なさい」
「うあっ。あんまり、動かさないで」
「遥は、気持ちいいのかな?」
「ち、違う」
「強がっちゃって、可愛い」
首筋を舐められて体が跳ねた。下腹部の密着が増して、反射的に腰を引いた。
欲望が理性を超えるまでの猶予はほとんどなかった。冷静な部分を掠めとるように、女性としての体を全力でぶつけてきた。相手は将来の母親だということなんて、遥を止める理由にはならなくなっていた。禁断の果実は魅力的だからこそ至高の味がするのだろう。
「遥が望めば、このまま気持ちよくしてあげる」
「そういうのは、ダメなんだって」
「カナタ相手にあれだけ積極的だったから、説得力ない」
「ぐりぐりと、動かさないでくれ、うっ」
もう何も考えられずに、遥は荒く息を吐き出した。もうどうだっていい。一度欲望が完全に満たされなければ冷静な判断なんてできそうにない。
だからこれは仕方がないことなんだ。
そう言い訳のように結論づけて、遥は消え入りそうな声でいった。
「……して、ほしい」
「なにかいった?」
「きもちよくして、ほしい」
「よくできました」
リムは満足げに遥の頭を撫でた。カナタを横目でうかがった。何かいいたげに口を動かしていたけれど声を発してはいなかった。口の形でかろうじて読み取れたのは、おそらくダメという二文字。これから起きる出来事をカナタの前で行ってしまうことに、罪悪感が芽生えた。けれども、もう何もかもが手遅れだった。
リムは舌なめずりをして、長い髪をかきあげた。徐々に吐息が近づいてきた。漆黒の瞳は濡れていて、艶が一層際立っていた。
唇が唇で塞がれる寸前、リムは興奮を抑えきれない様子で呟いた。
「自分の子供と生殖行為をするなんて……初めての経験」
冷水に中にぶち込まれたように、遥の頭は急速に冷えきった。
興奮は続いていたが、冷静な部分が主導権を握り返した。それほどまでに衝撃的な一言だった。
「なんでそのことを知ってるんだ?」
怪我をさせないよう加減をしつつリムを突き飛ばした。情欲を満たせないことに、下肢部で主張は続いていたけれど、今は疑問を解消する方が先だった。
「愛しの息子に突き飛ばされるなんて、ママは悲しい」
「俺は今まで、自分がリムの息子だなんていったことは無かったはずだ。その事実を知っているのは、俺かカナタだけだ」
「それでも、私は知ってる」
遥とカナタだけが知っている共通の秘密。未来からやってきたことどころか、リムの息子であるという事実は、そもそも誰かにいったことはない。それはカナタも同じはずだ。
誰も伝えていない事実を、リムは知っていた。誰かから聞いたわけでもないのであれば、何らかの方法を駆使して、もともと知っていたとしか思えない。ありえるはずがはない、と遥は結論づけた。
しかし、遥は一つの可能性に気づいた。何度か引っかかりを覚えた違和感に、ぴったりハマる答えが一つだけあった。それは荒唐無稽で、現実にはそぐわない結論なのかもしれない。そうだとわかっていても、説明がつく答えは一つだけ。
「世界の観測者っていうのは……リムだったのか」
リムは、初めて大袈裟に表情を綻ばせた。
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