4ー4 歴史を繋げるアプローチ
「やっぱり、遥にどうこうしてもらうのは難しいねマザコン」
「もう言い訳もねえよ。それと語尾にマザコンはやめてくれ心折れる」
再び訪れた12月21日。洞穴の基地で、今日も作戦会議を行っていた。
今までの反省点を話し合い、遥がリムに対して何かしらの行動を起こすことは効果的でないと結論を得られた。
二人は、次の手について考えていた。カナタがリムに何かしらの介入をすることも方法の一つではあるけれど、それで何が変わるというわけでもないだろう。まさか遥の代わりに息子になって甘えるわけにもいかない。
状況は
しかし、意外にもカナタは現状もどこ吹く風で、表情にも余裕がうかがえた。
「カナタ、何か思い浮かんだのか?」
「まあね。ちょっと前提条件に戻ろうかと思ってね」
「前提条件? なんの話だ?」
カナタは胸を張って、人差し指を突き立てていた。とても得意げな表情だった。面倒見が良くて頭も良く、そして調子に乗りやすいカナタの、真骨頂だった。
「遥のママは、どうしてママになったのでしょう?」
「そりゃ、妊娠したからだろ」
「それはそうなんだけど、誰と結婚したら、遥が生まれたの?」
「そりゃ、暁……父さんだけど」
「その通りだよ遥くん」
探偵か、あるいは博士じみた渋みを効かせた声真似をしていた。そして、絶好調に弾んだ声でいった。
「遥のパパと、正史通りにくっついてもらおうよ」
「なんかいよいよ、映画じみてきたな」
昔に見た、タイムトラベルを題材にした物語でも、父親と母親の運命を演出する展開となっていた。まさか自分が、このようなポジションを担うことになるとは思わなかった。
ただ、どういった状況であれ、今できることを進めていく他はない。遥はカナタの意見に賛成した。
「オッケー。次はその作戦でいくか」
「よし、次こそ成功させるよ。でも、できればリムちゃんとは別にいる時に接触したいよね。どうしよっか」
暁を味方につけて、リムと恋仲にさせることが最終目標だ。そのためには、あらかじめ接触しておきたい。けれど暁と出会う時は、経験上リムと一緒にいる時だけだった。
リムと一緒にいない、一人きりの時間を狙いたい。
カナタはどのような方法を取ればいいか考えているようだが、遥には心当たりがあった。
「もしかしたらだけど、今なら一人きりかもしれない」
「おっ、何か考えがあるんだね。いいよ、遥に任せるよ」
「任された。というわけで、カナタ出かけるぞ」
「え? 今から行くの? もう夕方で、大分日も暮れているけど」
「だからだよ。昔父さんに聞いたことがあったんだ。学生時代は歌の練習を、日が沈んでも没頭してたってさ」
善は急げといわんばかりに、カナタを促しつつ、遥は駆け出した。
深夜の鉄橋下は、不穏な暗さに支配されていた。
近づくと、かき鳴らされるギター音が聴こえた。同じフレーズが何度も繰り返されていた。地道な努力と反復は、音楽を奏でることへの真剣さが表現されていた。
確信があったわけではなかったが、暁は本当に鉄橋下で練習をしていた。遥は苦笑しつつも、少しだけ運命のようなものを感じていた。かつて暁がここで歌の練習に励み、それから何年もの月日を重ねた後に、遥もここで歌を歌う。やっぱり親子なんだなと、意外なところから絆を感じていた。
音楽が一度止んだタイミングで、拍手をもって存在をアピールした。
「誰だか知らないけど応援センキュー。ところで俺っちに何かようかい?」
軽快な声には、わずかに警戒心が加わっていた。暗闇から姿を現した人物は、もちろん暁だった。ガッチリとマフラーで首元を覆い、ウィンドブレーカーも完全に閉めていた。風が吹き抜ける鉄橋下はとても寒いにも関わらず、練習を続ける心意気を好ましく思った。
「えーっと、暁くん、だよな? 一応名乗っておくと、俺は遥っていうんだ」
「違うっていっても、無駄だよな。そう、今宮暁ってもんだよ。初対面の人にも知っていてもらってるなんて光栄だねえ。俺っちも有名になったもんだ」
「私はカナタっていいます。怪しいものじゃないよ、って自分でいっても説得力ないかもだけど」
暁は、カナタを発見すると同時に、瞬間移動のごとく、一瞬にしてカナタの近くにすり寄った。
「君みたいな可愛い子が怪しいやつなんて、思うわけないよ。親睦を深めるために、一緒にお茶しようぜ」
カナタの手を取ろうと伸ばされた手を、遥ははたき落し、カナタと暁の間に入った。暗闇中でもわかるくらいに暁は睨みを効かせ、わかりやすく舌打ちを打っていた。
「おいおい遥くん。人の邪魔するなんて、ひどいじゃないか」
「呑気にナンパしてる場合じゃないと思うけど。本当に誘いたい子がいるんじゃないのか?」
「……なんのことかな?」
「星八リム。本当に誘いたいのは、その子じゃないのか?」
「ちょっと待て、なんで知ってるんだ」
暁は訝しげに声を荒げた。そんな反応になるのも無理はないと思いつつ、真実をいえない歯がゆさに口を噛んだ。
「あのね、理由はいえないんだけど、私たちの目的はただ一つ。暁くんを応援しにきたんだよ」
「応援? なんでそんなことを?」
「それは……」
言葉に詰まる遥に、カナタは助け舟をだした。
「私はね、暁くんとリムちゃんってお似合いだと思うんだよね。歌も上手くてカッコイイ暁くんは、やっぱり誰が見ても瞳を奪われる美少女とくっつくべきだよ」
「そ、そうそう。美男美女カップルってやっぱ憧れちゃうなー」
後半の口調は、抑揚が乏しかったが、いえることはいった。無理やり感はどうしても払拭できなかった。
不安に思いつつ、暁の反応をうかがった。
暁は何かを考えているようで、口元を固く結んでいた。やがて、表情は緩んで。
「やっぱ君らもそう思う? いやー参ったな。そこまでいわれちゃうと俺っちもがんばらないとな。君らっていいやつじゃん」
声質は軽快で内容も肯定的。微塵も疑いなく暁は二人を信用したようだった。都合のいい展開ではあるけれど、こうも上手くいきすぎると、暁の純真さが心配になった。
自身の父親がこうもチョロいという事実に、遥は複雑な思いを感じずにはいられなかった。
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