第4章 巡る世界の終末を
4ー1 繰り返される世界
「遥、確認したけど、持ってきたお金は使う前に戻ってたよ」
「そっか。自動時間軸観測時計も1999年12月21日。最初にタイムスリップした日付と一緒だな」
何が何だかわからないうちに落下し、吹き飛ばされた挙句、リムを押し倒していた。一連の流れは、最初のタイムスリップ時とほぼ変わらなかった。見つめられ、質問責めにあい、逃げるようにその場を離れた。
喋る鳩にも再会した。話を聞いてみたが「今はなんもいえへん」と何も教えてくれなかった。鳩のいうことはアテになるが、何もいわなければ役に立たない。
結局何も情報を得られないまま、カナタと再会して現状を確認している状況だ。
「エネルギー残量はどうなってるんだ?」
「使い切ってるよ。あと三日くらいで溜まる感じかな。これもきた時と一緒」
「最初と一緒のシチュエーション。そして持ってきた物資も最初と同量。まだわからないけど、もしかして」
「時間が、巻き戻ってるね」
他にも、数多の可能性があるかもしれない。けれども、現在確認できる状況から推測した結果だった。にわかには信じがたい出来事に、二人は途方に暮れていた。
「タイムペンダントには、そんな機能もあったのか?」
「それはないよ。指定した時間軸に移動するだけならできるけど、時間を巻き戻して状況まで同一にするなんて、それこそ世紀の大発見だよ」
二人は首を傾げて思案したけれど、結局何もわからなかった。普段以上に考えごとに没頭し、最終的には頭を抱えた。
「そういえばさ、私と遥は前回の記憶があるんだけど、他の人はどうなのかな?」
「少なくとも、母さんは前回とリアクションが一緒だった」
「一例だけでは確定はできないね。それじゃあ、ダンさんとのんさんに会ってみて確かめてみようか」
二人は状況確認を目的に、夜になるのを待ってイサイチに買い物へ出かけた。すると案の定、のんが背伸びして棚の上段にある商品を取ろうとがんばっていた。見捨てることは心苦しく、遥はまたのんの下敷きに成り果てると、前回の焼き直しのようにダンに胸ぐらを掴まれた。
そこからの光景は、たとえ二回目であっても慣れなかった。大の大人が往復ビンタをされて土下座するシーンなんて、慣れたくなかった。
「結局、前回と一緒の流れになったな」
「うん。のんさんもダンさんも、私たちとは初対面の反応だったね。そもそも展開が一緒だしね」
「次に確かめられる相手は、父さんか」
翌日、決まったようにアスタロイドでコーヒーをご馳走になり、鉄橋の下ではリムと暁に遭遇した。相変わらず責めるような口調でつっかかってくる様子から、やはり初対面時のリアクションで間違いないと判断した。
さらに翌日となり、相変わらず熱血していた中道の思いを聞くこととなった。その後は暁とリムに出会い、ダブルデートの提案があり承諾した。細かな会話の流れに違いはあるにせよ、ほとんどの出来事は、一度体験したものだった。
12月24日、二人は神妙な面持ちで遊びに出かけ、暁に心配されてしまった。カラオケ勝負は今回も行われたが、心ここに在らずの遥は調子が出ず、暁に敗北した。わかりやすく調子にのる暁の姿に、少しイラっとした。けれども結局はリムの勝利。大まかな結果は変わらなかった。
絢爛なレストランで食事し、テンションの上がった暁がリムに告白をしてフラれた。一度見ていることだったため、新鮮味が薄く慰めも適当になってしまった。そのせいか、暁は不貞腐れて逆ギレを見せていたが、以前になかった行動は新鮮で、笑いがこみ上げてきた。そして暁はまた不貞腐れた。
再び訪れた未来への帰還。周囲に注意を払い、タイムペンダントを起動したらまたリムに捕まり、魅了するかもような引き止めをくらった。
ギリギリのところで引き剥がし、遥とカナタは、今度こそ現代に向けて飛び立った。
そのはずだった。
「遥! 起きて!」
「……起きてるよ」
瞳に映るのは、もう三度目になる
つまり、再び現代には帰れていないことになる。
「なあカナタ。これってあれじゃないか? テレビとか映画とかで取り沙汰される」
「信じられないけど……認めざるを得ないかも」
「そうだな」
「あれは」
『タイムリープ』
遥とカナタの重なった声は、誰にも届かずに空の一部に溶けていった。
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