4ー2 世界が壊れ、俺たちは惑う

「で、これは一体どういうことなんだ?」


 三度目ともなると、押し倒し方にも磨きがかかり、リムにできる限りダメージを負わせないように気遣うことができるようになった。速攻でリムから別れ、喋る鳩もスルーし、カナタと合流してさらなる現状の把握に努めることにした。


「はいっ遥隊長」

「なんだね、カナタ隊員」


 動揺のせいか、遥とカナタは、少々おかしなテンションとなっていた。


「わかりません」

「いい返事だ。内容はゼロ点だけど」


 遥は寝転がって、大きなため息を吐いた。望みをかけた二週目が、結局同じ結果に終わったことで、気持ちが落ち込み始めていた。

 カナタも隣に寝転がった。何をいうべきなのか思いつかなくて、手持ち無沙汰でゴロゴロと転がった。部屋でうごめく芋虫が二匹。その姿はあまりにも無力だった。


「で、何で毎回母さんに迫られるんだ?」

「私にもわかんない」

「で、何で同じ四日間を繰り返すことになったんだ?」

「私にもわかんない」

「……本当に、帰れるんだろうな?」

「私にもわかんない。にゃはは」


 わかんないが繰り返されるたびに、どんどん空気は重くなるようだった。

 何かしらの打開策を見つけなければいけない。そうは思いつつも、少し疲労を感じていた。肉体的な疲労は、タイムリープが起きる直前の状態となっていた。四人ではしゃいだ後だったので、多少なりとも疲れは感じていた。

 しかし、疲れているのは、むしろ心の方だった。記憶と同じ行動や展開を焼き直すことは、楽ではあるが苦痛でもあった。

 遥は、答えの出ない問題に、ひたすら問い続けた。

 これから、どうすればいいのだろうか。

 とりあえず、カナタの知識を頼ることに決めた。


「なあカナタ」

「はにゃあ?」

「……疲れたのはわかるが、気を抜きすぎだろ。初めて聞いたわそんな声」


 カナタは、恥ずかしそうに「あっ……」と呻き、咳払いして仕切り直した。


「ごめんごめん。考え事してた。それで、何かな?」

「今俺たちに起きている現象がタイムリープだと呼ばれるものだとして、どういう原因で起きるものなのかな?」


 考え込むような沈黙。映画やアニメで表現される、タイムリープという現象。大抵は一定期間が繰り返されるといったものだ。1月10日から一週間経てば、また1月10日に戻るように。

 カナタは、ためらいで強張った口を開いた。


「……自然的にそうなってしまったのか、もしくは時空の形を捻じ曲げる、人為的な介入があったのか、思いつくのはその二つって感じかな。そもそもどっちも信じられないけど」

「人為的って、そんなことは可能なのか?」

「少なくとも私の知識では、不可能だよ。そもそも時間っていう概念がおかしいよね。この世界は、粒子の塊が運動して、その結果が連続しているだけ。そう思っているから」

「もうちょっと噛み砕いてくれ」

「運動の結果は、枝分かれはするけど、元の形には戻らないってことだよ。タイムスリップは、世界の瞬間を切り取って、その場面に潜り込むことだと思ってるんだよ」

「それで?」

「最悪運動が逆回りになって、時間が逆回転する世界があったとしても、元の状態にすっ飛ばして戻ることは、おかしいと思うんだよ。人類が操れる範疇はんちゅうを、超えているよ」

「とりあえず、タイムリープなんて現象は、カナタの知識においてはありえないということはわかったよ」


 不可解ではあるけれど、不可解である以上の感想も抱けない。それほどまでに、常軌を逸している。常識が常識として通じない世界は、それだけで恐怖してしまう。今の状況では、何が起きてもおかしくないのだ。

 それならば、一体どうすればいいんだろう。

 遥は、この時代であった人たちとの交流について思い出していた。誰もが希望を持って、それぞれの思いを抱えて生活をしていた。まだ発展がなされていない寂しげな街であっても、そこにははっきりとした生活が息づいていた。

 そんな世界が、おかしなことになってしまっているんだ。

 ふと、ただの閃きが、遥を襲った。それは、笑い飛ばしてしまえそうな考えだった。けれども、何故だか無視することができない。ありえなくて、馬鹿げている。そんな思いつき。

 考えれば考えるほど真実のような気がして、口に出さずにはいられなかった。


「世界の、滅亡」

「え?」

「母さんは、恐怖の大王はきたけれど、何もしなかったって、いっていた」

「いきなりどうしたの? 遥にしては珍しく、突拍子も無い発言だね」

「のんさんは、ずっと不安を感じていた。見えないところで、聞こえないところで、滅亡は進んでいるんじゃないかって」

「遥、いいたいことはなんとなくわかったけど、それを認めちゃったら」

「世界が滅亡することって、別に地表が破壊されたり、戦火が巻き散らなくったっていいんだな。今までの当たり前が機能しなくなる。世界の在り方が変わる。それが、本当の世界の終わりじゃないか」

「遥……」

「12月21日から、12月24日まで。ここが世界の終着点。世界の滅亡って、終末に行き着くことだったのかもな」


 吐き捨てるように、遥はいった。

 世界はここから進まない。

 世界はこれ以上戻らない。

 誰も死ななくて、暴動も起きない。そんな穏やかに流れる時が、止まったように感じた。


 タイムスリップで辿り着いた先は。なんてことはない。

 ただの行き止まりだった、だけなんだ。

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