第3章 過去を楽しむハルカナコンビと世界を揺るがす大予言
3ー1 今ここにいる理由
「それじゃあ、改めて現状の確認をするよ」
「おう」
遥が起きる頃には、すでにカナタは起床し、身支度を終えていた。朝食は昨日買っておいたりんごヨーグルトで済ませた。これからも出来合いのものでは味気ないので、食事をどうするかについても、後で話し合おうと考えていた。
カナタが用意してくれていた服に着替えて、お互いの準備が整ったところで、現状の確認と、今後の方針について話し合うこととなった。
「まずは確認から。今日の日付は1999年12月22日だね」
カナタは、デジタル時計を指差し確認した。
「ああ。俺もそう見える。それで俺からも確認なんだが、元いた時代には戻れるんだよな?」
「もちろん。そうじゃなきゃこんな危険なことはしないよ。ただ、帰るには相応のエネルギーが必要になってきて、今溜めている最中なんだよ」
「それは信じるしかないか。あとどのくらいで、エネルギーは溜まるんだ?」
「三日あれば溜まると思う。あまり長居してこの時代を引っ掻き回してもいけないから、帰るのは24日の夜にしようか。飛んできた日も24日だったからちょうど良いかもね」
「それは賛成。期間は決めておいたほうが、後になってグダらなくていいな。ちなみに、その真っ黒い宝石みたいなのがタイムマシンなんだよな?」
「そうだよ」
「それでどうやってエネルギー貯めたり、時空を飛び越えたりしてるんだ?」
「まあ詳しいことを話すと、今日一日じゃ足りなくなっちゃうから簡単に」
カナタは、簡単にと前置きながら一時間にも渡りタイムマシンについて語り続けた。マシンガンのような語り口には質問を挟めず、遥は半分も理解できなかった。
辛うじて理解できたことは、宝石のように見えるペンダントは、装置であると同時にドラえもんでいう四次元ポケットのような代物であると説明された。名前は特にないということだったため、わかりやすくタイムペンダントと呼ぶことになった。
タイムペンダントには、物質を細かく砕き高速移動を可能にするための分解。分解され粒子状態となった情報の保存。時空を超えるために、超高速素粒子iとの結合。溜め込んでいたエネルギーの付与などなど、四次元空間にタイムトラベルに必要な機能を付与していった結果、あらゆる役割を担うことを可能にしているとのことだった。
タイムペンダントは、素粒子iの加速実験を行なっていた際、実験に使用していた素粒子iが観測所から消え去った出来事をきっかけに開発が進められた。ケーアイ博士は物質が光の速度を超えた時、観測し得なかった世界へと跳躍したのではないかと仮説立てた。さらに実験を繰り返し、消失の条件を実験の末、突き詰めた。素粒子iは消失の際には時空を歪ませて別時空へのゲートを開く。この性質を利用し、作成されたタイムペンダントの雛形には、時の図書館と命名された四次元空間と、現在を繋ぐゲートを出現させる機能しかなかった。
ケーアイ博士は、時の図書館に踏み入れる方法を模索した。ゲートを出現させても、肝心な入り込む方法がなかったのだ。ゲートの大きさが問題なのではなく、薄い膜のような物で塞がれていて、物理的に侵入が出来なかった。
光ですら侵入を許さない聖域を超えるため、光すらも超える物質、素粒子iに再び目をつけた。研究の結果認められた特性としては、無差別な結合性と、結合した物体を保存し、防護する。そして結合した状態でも速度を失わないことだった。
ケーアイ博士の考えは、常軌を逸して大胆だった。
人であれ何であれ、一度分解し素粒子iと結合。そして目的地へ到達後に元の物質の形へ再構成を促す技術が実現出来れば、時空の壁を人の身でも超えられるのではないか。
幾千もの実験と仮説の検証。
罵倒や侮蔑からの心身消耗。
そして、ついに人類は時の図書館に到達し、時空旅行を可能にしたのだった。
「わかった?」
「わからん」
遥の率直な感想に、カナタは口を尖らせた。
「遥もまだまだ修行が足りないね」
少なくとも、学校の授業にはタイムトラベルなんて科目はなかったので、勉強のしようがない。
話題の転換を図るため、遥は気になっていた別の件について質問した。
「今回カナタのおかげで、また母さんと会うことはできたんだけど、どうしてタイムトラベル先がこの日だったんだ?」
母親とまた会いたいという希望を抱いてはいたが、いつの母親と再会をしたいのかを決めてはいなかった。カナタの提案はあくまで過去に行っちゃおうという大雑把なものであり、細かなところまでは不明瞭のままであった。行き先については、約束していた場所で話し合う予定だった。
しかし、イレギュラーな事態が起きたため、急遽タイムトラベルをして回避した結果が、この時代だった。
それは、ただの偶然だったのだろうか。
「咄嗟のことだったから、いつの時間に行くかってことは、考えてなかったんだよ。本当は遥が生まれたあとに行きたかったんだけどね」
「そうだよな。その方が自然だよな。じゃあこの日にタイムスリップしたことは、偶然なんだな」
「それは、違うんだよ。これを見て」
カナタがタイムペンダント淵のボタンを操作すると、角ばった数字が宙に浮かび上がってきた。
その数字は、2004年5月28日。
「咄嗟に操作した時には、本当はこの日に繋がる予定だったんだけど、気がついたらこの時代にいた。だから、偶然とはいえないよ」
「偶然じゃないなら、なんなんだろう。故障?」
「今のところエラーは何も出てないよ。正直なところ、原因不明なんだよ……にゃはは」
勢い付いた猫笑いも、なんだか弱々しい。設定した時間軸と別に場所に着いてしまった。単なる不具合であれば、まだいいのだけれど、何か意味があることであれば、薄気味悪さを感じずにはいられない。
しかし、現状を判断する材料はどこにも見当たらなかった。
「あまり長居はしないほうがいいかもな」
「うん。それにはさんせー。予定通り、24日の夜に帰ろう。何があっても、ね。約束しよう」
「ああ、わかった」
「よし、それじゃあ」
カナタは、大きく息を吐き出して、ゆっくりと息を吸い直した。わずかに淀んだ空気を入れ替えるかのようだった。
「方針も決まったことだし、せっかくだからこの時代を満喫しよーっ!」
「おー」
解明されていない事実は暗い影のようだが、今は脳の片隅に追いやることにした。
引き際を決めておいたおかげで、少し心に余裕もできた。
それに、カナタがいるのなら、何が起きても大丈夫だ。
そんな気がするんだ。
「ハルカナコンビ、出撃ー」
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