遥から彼方まで 〜またママに会いたかったけど、迫られるのは予想外〜

遠藤孝祐

遥から彼方まで 予告編

「お前のママはな、実は宇宙人だったんだ。この星空のどこかで、見守ってくれているはずさ」


 酔った勢いで、父親は幼いはるかにそういった。

 荒唐無稽な一言で、安心させようとしているのだ。そう思ったけど、会いたい気持ちを形にせずには、いられなかった。


「おほしさまおねがいします。またママに、会えますように」





 高校三年生になった遥は、元気一杯でどこか投げやりに生きていた。


 気にしていないと言いつつも、心の片隅では、母親に会えない寂しさを募らせているのかもしれない。


 幼馴染の天鳥あとりカナタは、見透かしたようにいった。


「もし過去に戻れたらさ、何がしたい?」

「特に何も思いつかないな」

「前もいってたけど、それは嘘だよね




 ママに、会いたくないの?」




 ロマンチックさと、ヒヤリとするようなスリルの染み込んだクリスマスイヴ。身が爛れるようなデートの末、遥とカナタは、


 過去へ。





「で、過去にきたのはいいんだが、なんで毎回母さんに迫られるんだ?」

「私にもわかんない」

「で、なんで同じ四日間を繰り返してるんだ?」

「私にもわかんない」

「……本当に、帰れるんだろうな?」

「私にもわかんない。にゃはは」






 女子高生時代の母さんに、繰り返される時間。

 何をすればいいのか。何が起きているのもわからない。





 でもそもそも……


 帰る必要なんて、あるのだろうか?





 どうしてなのかはわからないけど、遥くんと仲良くしているカナタちゃんを見ていると、不安でたまらない。


 このお腹の子もね、来年になったら生まれるんだ。


 俺は将来、ロックでポップなミュージシャンになってやるぜ!


 時は一方向に流れているって思ってるかもだけど、複数の結果に枝分かれしているんだよ。


 タイムトラベルができるくらいだから、鳥が喋るのもありえるのか……いやどうだろう。




 遥とカナタは繰り返す。楽しく呑気に阿保らしく。


 何があっても二人でいれば大丈夫。


 なんたって、ハルカナコンビは無敵なのだから。


 会える時は、ほぼ毎日行う確認行為。遥からすると意味がわからないことではあるけれど、そのやりとりは習慣として根付いていた。


「私のこと、好きになったりはしてないよね?」

「ああ」

「よしオッケー。今日も世界は平和である」





 変わらない始まり。それは世界のルールであって、繰り返す時の証明であるような出来事である。


 はずだった。




「……カナタ? なんでいないんだ」





 遥とカナタは幼馴染であって。お互いのことをよく知っている。


 そう。そのはずだ。


 そういう設定の、はずなんだ。




「カナタ……お前は俺と一緒にお風呂に入ったことがあるっていってたけどさ……俺には、そんな記憶はない」





 繰り返される時間。終わらない過去。噛み合わない記憶。


 辻褄の合わない世界を体験した時、遥が選んだ選択とは。






 今まで遥は、世界で一番私のことを好きだった。でも時期に二番目になって、最後はきっと三番目になる。それが運命だから。


 わかんねえけど、将来はカッコ良くなって、そんでもってビッグになって、そして好きな子と結婚できればいうことないわな。


 あああああ。なんだか、すっごくいけないことをしている気分。誰も見てないからって、信号を無視した時のような罪悪感。


 ちょっと未来を、見てみたくなったんだよ。


 私がこの気持ちを知ることになるとは思わなかった。今はちょっとだけわかる。形がなくなることが、怖いって。







 全てが終わったと思った。そしてこれからが始まる。そう安堵したけれど。


 君は









「ありがとう……きっとまた、会えるよ」










 遥から彼方まで 〜またママに会いたかったけど、迫られるのは予想外〜








 ハルカナコンビは


 無敵。

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