第3話

私はオーヌの喜ぶ顔が浮かんで嬉しくなった。

これでやっと何の心配もなく、大手を振って町で暮らせるんだね!


私が小さくガッツポーズをしたのを小首を傾げたブリュイヤールに見られてしまい慌てて誤魔化した。


けれど、その行為の意味を尋ねることもなく、手に持った巻物を幅の広い肘おきに置いて『この件はこれでお仕舞い』と締めの言葉を言った。


罰を与えるべき者に罰を与えた。

それで良しとしましょう。


そして問題は私の魔力の問題へと移っていった。

でも、そんなこと聞かれてもなんと説明したものやら。私だってあの瞬間まで自分が魔法を使えるなんて知らなかったのだから、聞かれたところで答えられようもない。


「突然、力が開花したと仰るんですね?」

「はい。何か怒りと共に湧いたと言うか」


説得力に欠ける答えだということは十分に分かっています。でも、他に言いようが……。


別世界でドアを開けたとたん、こちらの世界へ転がり落ちてしまい。訳も分からぬままバザーの親切な女性--ハディさん--に助けられて、その人の従姉妹--オーヌ--が暴漢に襲われたのを助けようとした。

その時、か弱い女性--ミティさん(?)--に暴力を振るわれたので思わずカッとなって魔法が発動した。


良いよね? 間違ってないよね?

筋は通っているよね!?


冷静なブリュイヤールに見据えられて、だらだらと冷や汗が流れる。これで有罪とか言われたらどうしよう。

いや、その前に。

魔女だもの《嘘を見抜ける魔法》とかあって、それを使われたりしたらどうしよう!


緊張の一時が流れ。


--バタァーン!--


「ブリュイヤール様。中央より使者がお見えです」


ドアが勢いよく開かれる音と共に兵士のよく通る声が部屋に入ってきた。


ビックリした! ビックリした!

ビックリしたぁ〰っ!


心臓が止まるかと思った!


今まで囁くようなブリュイヤールとお話ししていたんだもん。急に声を張られると、大きな声を出されたみたいにすごく驚くのよ!


--縮んだ寿命返してよ!


思わずキッと睨んでしまう。

当の伝達は涼しい顔で主の返事を待っている。

ブリュイヤールと言えば特に驚いた風もなく、穏やかなようすで返事した。


「少し待たせておきなさい。私はもう少しルビーさんとお話ししますから」


--あれ、これちょっと嫌な予感。


案の定、扉に控える兵士には聞こえていないようす。

小憎らしいまでのすまし顔で突っ立っている。

ブリュイヤールは諦め気味の小さなため息をつき、再び同じ台詞を語気を強めて繰り返した。


「少し待たせておきなさい。私はもう少しルビーさんとお話ししますから」


そして例の如く、奴は眉間にシワを寄せてこちらへ耳を傾けた。


--バカなの死ぬの!?


つい言葉も乱暴になる。

でも、これ程ピッタリの言葉もない。今まさに使うべき言い回しでしょう?

だって、ブリュイヤールのおデコに青筋が浮かんでいるんだもの!


本当にこの砦の兵士はドイツもコイツも学ばないの!?

何人死んだら対策に乗り出すの!?

情報の共有化って知ってる!?


「『待たせといて』と言ってます!」


堪らず私は後ろに向き直り、大声で魔女の言葉を兵士へ伝えた。これ以上、私の目の前でパンチパーマが増えるのはいたたまれない。


前例を(たぶん)知らない兵士は、私が落雷を防いだにも関わらず『何でお前が答えるんだよ』とでも言いたげな冷やかな視線を微かに聞こえる舌打ちと共に私へくれた。

真意を確かめるべく、不振な表情で主を見詰めるその兵士。


--ムカつく。


お前なんて雷に打たれてしまえば良かったのよ!

まぁ、彼の任務中にお節介を焼いた私もいけないのかもしれないけどさぁ。


なんとも腑に落ちない気持ちで前に向き直れば、玉座のブリュイヤールがとっても嬉しそうに目を輝かせて私を見下ろしていた。


え! そんなに嬉しかったの!

そんな涙目で感謝されるとは思わなかった。先程の兵士の無礼も帳消しになるくらいの微笑みだ。


たっぷりと感謝の眼差しを私に注いだ後、ブリュイヤールは伝達の兵士に大きく頷いて先程の言葉を肯定した。


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