第5話
すると店主が、魔法の効果はそのままに、デザインだけ何とかしてあげると言う。少々お金がかかるそうだが即お願いした。このままでは、いかにも『金目の物を持ってます!』 と、宣伝して歩いているようなものだ。
モンスター以前に盗賊が心配。
するとどうでしょう。
あれほどにまでゴツかった首飾りが、キラキラとさざめくように光る繊細なチェーンへと変わり、なんだかよく分からなかったペンダントヘッドも大きな羽毛のようなデザインにリメイクされたではありませんか。
また、海賊の宝箱から見繕われたようなゴテゴテした黄金の剣も
これでもう、すれ違う人に二度見されたり、目付きの悪いゴロツキに睨まれることもありません。
早速俺は、剣を鞘から抜いて振ってみる。
このくらいの重さなら、俺でも扱えるかもしれない。すっかり気分がよくなって、よせばいいのに『ネックレスを早く使いこなせるように練習だ!』とか思い立っちゃって魔法で城に戻った。相変わらずの移動酔いで、実験台のシンクに頭を突っ込んでいる俺の背をナットさんが優しくさする。
「魔法が使えないと言うのも大変ですが、間突然使えるようになるのも大変なんですね」
その日は始終そんな感じで忙しく過ごし、ゲームのように小気味のいい
そう。出発の時間だ。
爺さんの部屋で、硬い木製の台から起き上がる。
すでに爺さんはいなかった。ベッドでしか寝たことのない俺なのに、慣れない板の上でなんか寝たから身体中が痛い。
「明日から旅の空なのに、今日くらいはベッドを譲ろうか?」
昨夜爺さんに気を使われた。
けど、年寄りからベッドを取り上げて、床に寝かせるなんて事はできない。俺はこう見えて電車でお年寄りに席を譲るタイプだ。断ると、一緒に寝るかと誘われた。
まるで友達が遊びに来た女子高生みたいな
いや、ごめんなさい。女子高生のお部屋を覗いたことなんかないから全部想像でしかないです。イメージ的にって事で。
前にも言った通り俺はお年寄りは尊重しようと思っている。
でも、爺さんに添い寝されるのはちょっと……。丁重にお断りした。
荷物と言っても大したものはない。
持ち歩くのは、剣とネックレスくらいだ。替えの服や食糧などの大荷物は、すでに幌馬車に積んである。
あと、念のために女の子の服も載せておいた。
その、助けに行く女の子が、どんな姿で居るか分からないからだ。
断じて肌色を期待しているわけじゃないぞ!
破れたり、汚れたりしていたらいけないと言う、俺なりの心遣いだ!
「お早うございます。マサル」
「ナットさんお早う!」
『敬語なし』と約束したけれど、ナットさんは敬語が抜けない。普段からこんな話し方らしく、意識しないと戻ってしまうそうだ。それも大変だろうから、言葉遣いは好きなようにして良いことにした。
その代わり、俺もナットさんと呼ぶ。
父親より年上の――人年齢に換算して――相手を呼び捨てにするのは、正直落ち着かなかったから助かった。
温室のガラスドームから入り込んだ朝日が、植えられた植物の葉を透かして緑に輝いている。たぶん外は快晴なのだろう。
俺のいた世界は、いまだ春先の寒い時期だったけど、こちらは初夏に差し掛かろうとしていた。元々の気候なのか、四季があるのかは分からない。追々ナットさんに聞いてみようと思う。旅は2~3日かかると言うから、その間に色々聞けば良いさ。
俺は大きく延びをしてナットさんに向き直る。
「さて、行きますか~」
「はい」
迷路のように入り組んだ通路や、うんざりするほどの階段を使って城の出入口へたどり着く。魔法のネックレス使えば良いじゃん? と、思ったそこのあなた!
正解!!
だがしかし、残念なことに、俺はこの城の門を見たことがなかったんだよ。
行ったことの無い場所には行けないというハンデつきのアイテムなんですよ~。意外な落とし穴だよ。エスカレーターやエレベーターのありがたみを、今日ほど噛み締めた日はない。
もう、今日は出発するの止めだ止めだーっ!
っと、ヤケを起こしそうになる寸前に城の出口へたどり着いた。
やっと徒歩から解放されるよと思ったのもつかの間。何故か俺たちの幌馬車が、城の出口の内側の通路に停められている。
まぁ、廊下も広いし天井もやたら高いから、幌馬車ひとつ置いたところで通行の妨げになんかなら無いけど、何もわざわざ半室内に置くことないじゃない?
要らぬ気遣いに首をかしげていると、他のことに即気がつく。
昨日までシンプルかつ素朴だった幌馬車が、花やリボンでビックリするほど飾り立てられているのだ。
何これ!? 結婚式ですか?
テールがつながれてなかったら、危うくよそ様の馬車だと素通りするところだったよ。
「しかし、まぁ。何でこんなことになってるの?」
「王様の気遣いかも知れません。殿下はサプライズがお好きなのです」
いつもの事、そう言いたげなナットさん。
うん。あの王様、派手なこと好きそうだものな。日頃から大袈裟に騒いで何かを祝ったりしてるのかも。
俺に砦の町へ娘を救いにいけと、再三勧めて来たときの王様が脳裏をよぎった。
「え~。それにしても余計な事しぃじゃない?」
「テールは喜んでますよ」
馬車に繋がれたテールは、自分の体に飾られた花をのんびりとむしっては食べている。
美味しいのだろうか?
ナットさんは朗らかに笑う。俺は苦笑いしか浮かばなかった。
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