第5話
「町の人に聞いてもそう答えてくれると思うんですけど」
そんな前置きをしてミティさんが、衛兵の隊長へ事情を話す。
3人の男が自分の従妹を連れ去ろうとしたため、友人のルビーと自分で阻止しようとした。そうしたら暴力を振るわれたので、怒ったルビーが咄嗟に魔法を使ってその3人組を消してしまった。
と、まぁそんな内容だ。
「見てくださいよ。乙女の顔をこんなに腫れるまで殴ったんですよ。グーですよ! グーで!! 信じられます?」
相手の方が先に手を出したと主張して、ミティさんはメチャメチャ怒っていた。実際その通りだし、殴られた頬は青アザになりつつあり、見るからに痛々しい。
「見ていた通行人から話は聞いている。そちらの主張と合っているようだな」
うら若い娘の痛々しいアザを見せつけられ、さすがに気の毒に思ったのか、治癒の魔法を使える者を呼ぼうかと聞いてきた。そんな隊長にミティさんはテーブルに両手をついて身を乗り出す。
「なら何でうちらが、こんな牢獄で話を聞かれないといけないんですか!」
私たちが今座っている場所は、砦の門にある衛兵待機所内の牢だ。警察で言うところの拘置所みたいな?
「すまんな。他の部屋が埋まっていてここしかなかったんだ」
「じゃあ、もう帰っていいですか?」
ショッピングの時間が減るのよと、不機嫌に頬を膨らます。
「まぁ、待ってくれ。そうもいかないんだ」
評判の悪い奴隷商人だったとしても魔法で消してしまっていいものではない。ルビーさんと言ったね?
もう一度、影の沼からその人たちを出してもらうわけにはいかないだろうか?
魔女を怒らせるべきではない。町の人々から聞いた恐ろしい魔法を警戒しているのか、隊長は紳士的にお願いしてくる。
こちらとて衛兵さん達がいるのなら、悪三人を解放してもよかったのだけれど、何分初めての体験だったから、自分でもどうして消せたのか分からない。もう一度出せと言われても、どうしたらいいか見当もつかないのだ。
「ごめんなさい。どうやって戻したらいいかわからないんです」
「魔女を怒らせる方が悪いんですよ!」
--魔女って……
「それは困ったな」
さすがに消えたままと言うのは良くないらしく。隊長さんは困り果てて頭を抱える。
すると、外からノックがあり、失礼しますと兵士が入ってきた。何か言伝てを持ってきたらしく隊長さんに耳打ちをしている。
「うむ、そうか」
聞いた話が思っていたものと違ったのか、隊長の顔が曇る。
「ミティさんとオーヌさんは帰ってよろしい。丁度ハディさんが迎えに来ているそうだ。ただ……ルビーさんには残ってもらうことになった」
途端に『何でよ!?』と、ミティさんが食って掛かる。
「コントロールの効かない強い魔法使いは危険だと上が判断されてな。悪いがルビーさんには暫くここに居て貰うことになった」
言いたいことは分かる。
自分の意思でコントロールできない魔法は、また、いつ何処で、誰を相手に発動させるか分からないから、町に戻すのは危険だと言うことなのだろう。
「それじゃあ、ルビーさんはいつここを出られるんですか? 魔法をちゃんと使えるようになるまでここから出られないんですか?」
オーヌが心配そうに隊長に訪ねた。
偶然発動したに過ぎない魔法を、自分の意思で使えるようになるのにどのくらいかかるのだろう。
「ブリュイヤール様がお会いするそうだ。あの方なら何とかしてくれると思う」
ミティさんとオーヌが顔を見合わせる。
彼女達が驚いたのもそのはずで、《ブリュイヤール》と言うのはこの砦を治める人なのだそうだ。とても強い力を持つ魔女で、少々気難しい人だと言われていた。
心配して自分も残ると言い出したミティさんとオーヌを、どうにかなだめて帰るように説得する。気持ちは嬉しいけれど、牢獄に一緒に居ろとは言えない。丁度ハディさんが迎えに来ていたらしく、隊長は二人を連れて部屋を出て行った。
ここから引き渡しの場所まで、どのくらい離れているんだろう。
遠くはないはずなのに、廊下を反響しながらハディさんの怒鳴り声が聞こえてきた。
たぶん、私が引き渡されないと聞いて怒っているのだろう。
「話す限り害のある人には見えません。
おっしゃる通りの普通の少女です。しかし、3人もの人を一度に消せるような強い力の持ち主でもあります。それを、本人さえコントロールできない状態で町の中に放置するわけにはいかないのです」
ハディさん達に、あくまで町の安全のために留めるのであって、罪人として捕らえた
「貴女も申し訳ないが、暫く辛抱してください。今は滞在してもらう部屋が決まるまでこの牢に居てもらいますが、鍵は開けておきます。用があるときは周りにいる兵に声をかけてくださいね」
そうして暫く、私は牢屋で過ごすことになった。
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